第38話 この真実は知りたくなかった

 体育祭も終わって、またいつものように学校生活を送るようになった。運動が苦手な私にとっては、体育祭は憂鬱なイベントだった。けれど、東郷君と上条さんと一緒に三人四脚したのはいい思い出になったと思う。総合成績では負けたけれど、あんだけ練習した三人四脚で1位になれたのは正直言って嬉しい。


 体育祭の練習の時、コケて保健室に行ったときのことを思い出した。上条さんは私に東郷君の記憶を戻るように協力してくれと言った。私だって、できることなら協力したいと思っている。けれど、どうやって協力していいのかわからない。


 今更、元カノの私がどうやって東郷君と接すればいいんだろう。私はただ、東郷君の観察をすることしかできない。


 あれから上条さんとも話していないし、私は一体なにをすればいいんだろう。


 引っ込み思案の私にとって、東郷君に話しかけるのはかなりハードルが高いことだった。付き合っていた時でさえ、話しかけるのを躊躇ためらうことが多々あったのに、付き合っていない今じゃ本当に声をかける勇気が出ない。


 私って本当にダメだね。こんな消極的な性格だから、東郷君に愛想をつかされたんだ。


 その点、上条さんは凄いな。あんな美人で積極的に好きな人にアプローチできて、だからこそ東郷君は上条さんに惹かれたんだと思う。私と真逆。正反対の性格の彼女。私から見たら眩しすぎる憧れの存在。


 そんな存在と一時とはいえ、恋のライバル関係にあったんだなと思うとあの時の私が人生で一番輝いていた時だったな。


 今だと私は完全に恋愛の敗北者。上条さんの諦めない心に負けた悲劇のヒロイン。ううん。私はヒロインなんて顔じゃない。こんなブスがヒロイン面するなって、みんなに笑われちゃう。


「二宮って本当にブスだよなー」


「わかる。いくら飢えててもアレと付き合うのはないわー。アイツと付き合うくらいならメスのチンパンジーと付き合うわ」


 私の前方にいた男子たちが私の悪口を言っている。恐らく私が後ろにいるのに気づいてないんだと思う。私存在感ないから。


 ブスだと言われるのはもう慣れた。毎日見ている顔だから自覚はある。顔をどう捻っても、どこを回転させてみてもとてもじゃないけど美人には見えない。


「おいおい。そこまで言うなよ」


「じゃあ、お前アレと付き合えるのか?」


「あはは。無理だ」


 男子たちが好き勝手言っている。私だって、あんたたちと付き合うのなんて真っ平ごめん。仮に告白されても断ってやるんだから。


 でも、ちょっと前の私だったら誰に告白されても付き合っていたかもしれない。それは私が男子に相手にされなすぎて。誰でもいいという思考に陥っていたからだと思う。


 けれど、今の私は違う。東郷君と付き合って。彼の優しさに触れて、男子に求める基準というものが上がってしまった。


 私なんかが男子と付き合えるだけありがたいと思え。相手を選ぶな。少し前まではそう言い聞かせていたのに、今では東郷君並にいい男の子じゃないと付き合う気にはなれない。


 言い換えれば私は自分の中で自分の価値を高く評価するようになったと言うことかな。東郷君と付き合えて少しは自信が持てたと思う。


「でも、あいつ一時期彼氏いたんだよな。確か真人と付き合ってたよな」


「あーね。真人は罰ゲームであのブスに告白したってやつか」


 罰ゲーム……? なにそれ。え? ちょっと待って。真人君は罰ゲームで私に告白したの?


 その言葉を聞いた瞬間、私の中でのなにかが一気に崩落した音が聞こえた。私は今まで真人君から一時期好きになってもらったと思っていた。


 けれど違ったんだ。真人君は罰ゲームで嫌々私と付き合っていたんだ。そして、記憶を失って、罰ゲームのことをすっかり忘れたから私と別れた……?


 私の中の美しい思い出が穢された。今でも目を瞑れば鮮やかな色で思い出せる真人君の顔が酷く歪んで見える。


「まあ、罰ゲームじゃしょうがねえよな。その後、あいつ上条と付き合ったみたいだし」


「本当に学年一のブスと言われている二宮から、学年一可愛い上条に乗り換えるとか高低差凄すぎだろ。耳がキーンってなるわ」


「あはは。飛行機に乗った時になるアレな。確かに底辺から頂点い行くとキーンってなるわ」


 東郷君……私のこと好きじゃなかったんだね。私と付き合っていたのは嫌々だったんだね。あの楽しそうな顔も、私に対して可愛いって言ってくれたことも全部演技だったんだ。


 あはは。東郷君演技上手すぎだよ。あんな自然に接することができるなんて、お陰で私騙されちゃってたじゃない。


 でも、そんな東郷君はやっぱり優しいんだと思う。あんなに上手い演技をしていたのも私を傷つけないようにするためなんだ。罰ゲームの期間とはいえ、本気で私に向き合ってくれていた。


 ただの罰ゲームであそこまでできる人は中々いないと思う。


 本当は罰ゲームだと知って、もっと怒るべきなんだろう。けれど、やっぱり惚れた弱みで、私は東郷君を嫌うことができない。


 でも、でも……


「うっぐ、ひっぐ……」


 なんで私は涙を流しているの?


 私の嗚咽に気づいたのか男子たちが振り返る。男子たちは泣いている私を見て、しまったという顔をした後に、バツが悪そうにしていた。


「あ、に、二宮? い、今の話聞いてたの?」


「あー。お、おれしーらね」


「お、おい待てよ」


 男子たちは私に構うことなくその場から逃げ出していった。取り残された私はただ一人で泣くことしかできなかった。

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