第37話 体育祭当日

 俺たちは放課後何度か練習したお陰で、そこそこ三人四脚ができるようになってきた。


 最初は上手く走れなかった二宮さんも遅いながら、懸命に走れることができた。大丈夫。きっと俺たちならきっと勝てるはずだ。


 そして迎えた体育祭当日。天候にも恵まれて、絶交の体育祭日和だ。雨で延期というオチにならなくて良かった。


 開会式が始まり、3年生の体育委員が壇上に上がった。選手宣誓の時間だ。


「宣誓! 私たちはスポーツマンシップに則り、正々堂々と戦うことを誓います」


 手を上げて堂々と誓う体育委員。こうして、体育祭が始まった。


 準備体操をした後に、最初の種目が始まる。男子100メートル短距離走だ。


「よお。真人。俺が1位を取って、リードをつけてきてやるよ」


 隣の梅原が変なことを言い始めた。そうか。こいつが100メートル走に出るのか。


「まあ、程ほどにがんばれよ」


「なんだよ。その応援の仕方。まあ、いいけどよ」


 こうして、梅原が戦場へと向かっていった。向かっていく途中、何故か格好つけて俺に向かって親指を立てていた。なんのアピールだよ。俺にアピールしてなんの意味があるんだよ。


「位置について、よーい! ド……」


 梅原、ここで動く。しかし、フライング。ドンという前に走り出した奴はフライング。フライングは2回行ったら失格。梅原、もう後がない。


「位置について、よーい! ドン!」


 今度は梅原出遅れる。失格を過剰に恐れたのだろう。アイツらしい末路だ。100メートル走の出遅れはかなり痛い。長距離走ならまだ巻き返せる可能性はある。けれど、短距離はそうはいかない。結局、梅原。最下位。1位どころか、最下位。見るも無残な姿。


 そして、戻ってくる梅原。梅原は申し訳なさそうな顔をしながらクラスのみんなに頭を下げた。


「どんまいどんまい。まだ体育祭は始まったばかり。巻き返していこう」


 石橋が梅原を励ましている。石橋、いい奴。勉強ができるだけじゃない。勉強ができて優しいとか最高かよ。


「真人。女子100メートル走の次はお前が出る障害物競争だ。そこで俺の仇をとってくれ」


「やれやれ。結局、俺がやらなきゃいけないのか」


 俺は額に手を当てて恰好つけた。いや、このノリは自分でもよくわからない。けれど、梅原がさっき恰好つけたから、俺もなにか恰好つけなきゃいけない。そんな雰囲気に飲まれてしまったのだ。


「真人君格好いい」


 奏ちゃんがボソっと呟いた。いや、逆に恥ずかしいんですけど。無駄に恰好つけたところを彼女に見られるとか一生モノの黒歴史確定なんですけど!


女子100メートル走で俺たちのクラスは2位という高記録を出した。よし、これで梅原の分は取り返せているはずだ。後は俺がまくればいい。


「続いて障害物競争です」


 そうこうしているうちに俺の番だ。ここで1位を取って奏ちゃんにいい所を見せるんだ。そんな邪念が俺の中で生まれる。奏ちゃんのため……奏ちゃんのため……


「位置について、よーい! ドン!」


 俺は走った。俺の足はまあまあ速い。なんだかんだで1位を独走している。


 最初の障害物は網をくぐるというやつだ。俺は網を素早く持ち上げて中に入り込む。大丈夫。まだ俺がリードしている。


 俺に遅れて他の生徒たちが次々に網の中に入って行く。そして、最初に網から出たのは俺……ではなく、外国人留学生のナパチャットだった。ナパチャット恐るべし。やはり外国人はスポーツが強いのか。


 次々にみんなが網から出ていく。そして、最後に網から出たのは俺だった。


 網に入ったのが一番最初なら、出たのも最後だった。時空が歪んでいるとしか思えない。きっとこの網の中は素早さが高い方が遅くなるというトリックな部屋な現象が起こっているのだろう。そうに違いない。


 そんな現実逃避しながら俺は最下位でゴールした。


「お前なにやってんだよ! 障害物苦手なら障害物競争出んなよ!」


 なぜか梅原が俺に対してキツく当たってきた。いや、お前も最下位だろ。


「大丈夫。切り替えて行こう! 東郷君。足だけは速かったよ」


 石橋、お前いい奴だな。どこぞの梅原とは大違いだ。



 そして、待ちに待った三人四脚。俺はこの日のためにずっと練習してきたんだ。三人四脚リレーだ。


「さあ、紐をきつく縛るぞ。これが解けたら失格だからな」


 俺は奏ちゃんと二宮さんと足を紐で結んだ。競技が終わるまで外れない。正に3人は一心同体。


「二宮さん。緊張しているの?」


 奏ちゃんが二宮さんに話しかける。二宮さんは緊張が思いきり顔に出ている。


「う、うん。本番だから……」


「練習通りにやればうまくいくよ」


 奏ちゃんは笑顔でそう励ました。それに対して二宮さんも笑顔で「うん」と返す。なんだ。この2人、案外仲がいいな。


「位置について、よーい! ドン!」


 こうして、三人四脚リレーが始まった。次々に代わる代わる走っていく走者たち。そして、俺たちの番が来た。


「いくぞ! 1、2、1、2」


 きちんと走れている。二宮さんが緊張していたようだけど、なんとか様にはなっている。


 そして俺たちは何事も無く、次の走者に繋いだ。



 三人四脚の結果は俺たちのクラスが1位だった。俺は練習の成果が出て、とても嬉しく思った。


 その後も競技は続き、体育祭は終わった。総合成績では、俺たちの成績は2位だった。1位とは本当に僅差だった。もし、誰かさんが最下位じゃなかったら、優勝は俺たちのクラスだっただろう。おのれ梅原め。なんかブーメランが刺さっている気がするけど、梅原が悪いことだけは確かだ。


「ねえ、真人君。体育祭の打ち上げがあるらしいけど、行く?」


 奏ちゃんが声をかけてきてくれた。


「んー。いいや。どうせ俺は戦犯だし」


「そっか。真人君がいかないなら、私もいかない」


「上条がいかないなら俺もいかないわ」


 なぜか梅原が乗ってきた。いや、お前は全く持って関係ないだろ。彼氏彼女の会話に口を挟んでくんな!

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