第34話 DVD鑑賞

「奏ちゃん。今日、家に来ない?」


「え? 真人君の家に? 行く行く」


 俺は意を決して奏ちゃんを家に誘った。奏ちゃんはそれを快諾してくれた。良かった。断られたらどうしようかと思った。


「今日は一緒に映画を観ようと思ってね。帰りにレンタルショップに行ってDVD借りてこう」


「うん。いいねー。一緒に映画を観よ」


 放課後、俺たちはレンタルショップに立ち寄り、DVDを物色することにした。俺としては好きなホラージャンルの映画を観たい。だけど、奏ちゃんはなにが見たいのかな。女子はやっぱり、恋愛モノとかが好きなのかな。


「奏ちゃんはどういうジャンルの映画が観たい?」


「真人君の好きなのでいいよ」


「じゃあ、ホラーでいいかな」


「うん」


 良かった。俺の好きなのでいいと言いながら、ホラーがダメだって可能性もあるからな。ホラーは本当に人によって好き嫌いが分かれるから。


 そういえば、二宮さんもホラーが苦手だったっけ? あれ? なんで、俺が二宮さんの苦手なものを知っているんだ。聞いた覚えがないはずなのに。もしかして、記憶が戻りつつあるのか?


 どうせなら新作が観たいと思った俺は、新作のホラーコーナーに足を運んだ。その中でも目についたタイトルは【十三人目の来訪者】だった。なぜだろう。俺はこの映画を観たくて観たくてたまらない。この機会を逃したら、一生後悔する。そんな気さえした。


 俺がDVDを手に取ると奏ちゃんは「あっ」と小さく言った。


「どうしたの奏ちゃん?」


「ううん。なんでもないの」


 なんでもないってことはないだろう。この映画になにかあるのだろうか。


「もしかして、奏ちゃんこの映画観たことあった?」


 だとしたら、別の映画に変えたほうがいいかな。どうせなら二人とも初めてみる映画がいいし。


「いや。その映画いいと思うよ。真人君が観たいなら観よう。私も観たいしさ」


「そっか。なら問題ないか。じゃあこの映画を観ようか」


 俺はDVDをレジに持っていきレンタルをした。今から家に着くのが楽しみだ。こうしてお家デートをするのもいいものだな。この前、奏ちゃんの家に行った時は、お家デートというよりかは勉強だったし。



「ただいまー」


「お邪魔します」


 自宅についた俺はそのまま奏ちゃんを連れて自分の部屋に向かった。そして、DVDレコーダーに、【十三人目の来訪者】をかけた。


 DVDが再生される。最初はホラーらしからぬ陽気なBGMが流れる。ホラー映画というものは、恐怖の対象が現れる前の日常描写から、常に緊張感がある。難だったら、恐怖が当然と化す前のこの段階の方が、ドキドキすることもある。


 そうこうしている間に、主人公たちは館に閉じ込められた。この中には十二人の男女がいる。それぞれが、この館から脱出しようと好き勝手に動き回る。


 ホラー映画の登場人物ってどうして単独行動をしたがるんだろう。こういう時こそ固まって動けばいいのにと思ってしまう。


 すると、主人公は仮面を被った怪人に遭遇する。その人物は斧を持っていて主人公に斬りかかった。主人公はその攻撃を躱して、すぐに逃げ出す。怪人は主人公を構わず追い掛け回す。


 主人公がヒロインとすれ違う。主人公はヒロインに「怪人が出た! 逃げろ!」と叫ぶもヒロインは怪訝そうな顔をする。さっきまで追いかけていた怪人が消失したのだ。いつの間にか消え失せた怪人。主人公は頭を抱えた。


 突如、女性の悲鳴が聞こえた。主人公とヒロインは悲鳴がした方向に駆け寄る。と、そこには、主人公の母親の死体が転がっていた。


 それはかなり衝撃的な映像だった。まさか最初の犠牲者が名前もよくわからないモブじゃなくて、主人公の母親だとは思いもしなかった。


 その後も怒涛の展開は続き、館に閉じ込められた人物は次々に殺されていく。生き残ったのは主人公とヒロイン。そして、怪人だけとなった。


 そして、怪人と対峙する主人公とヒロイン。主人公が暖炉の火かき棒で怪人の仮面をかち割った。すると、そこには最初に死んだはずの主人公の母親の顔があった。なんと怪人の正体は主人公の母親だったのだ。


 最初に死んだと思われた主人公の母親は実は、主人公の双子の姉妹だったのだ。


 ヒロインが燭台を怪人に向かって投げつけた。すると怪人は火だるまになり、そのまま倒れこんでしまった。


 怪人の正体は自分の母親だった。命は助かったもののその複雑な思いを抱いたまま主人公とヒロインは館を後にするのであった。


「すげー! 面白かった!」


 俺は率直な感想を述べた。これはできれば映画のスクリーンで見たかった。きっと迫力もまた違ってくるんだろうな。


「真人君が楽しんでくれたようで良かった」


「奏ちゃん。どうしたの? 面白くなかったの?」


 俺は奏ちゃんの浮かない顔を見てそう感じ取った。これだけの傑作なのに、奏ちゃんの好みには合わなかったのかな?


 その時だった。俺はなんで奏ちゃんがこの作品を見て微妙な表情をしたのか思い出してしまった。


「あ……思い出した。この作品って確か、奏ちゃんが俺にネタバレした映画だったんだ」


 そうだ。俺がまだ二宮さんと付き合っている時、奏ちゃんが嫌がらせで俺に映画の内容をネタバレしたんだった。


「真人君。あの時は本当にごめんなさい。映画のネタバレをしてしまって、反省しているの」


「そっか。まだそのことを気にしてたんだね奏ちゃん。いいよ。幸か不幸か俺は記憶を失くしてこの映画を楽しむことができた。だから気にする必要はないよ」


 俺は奏ちゃんを許すことにした。記憶を取り戻そうとしている俺が言うのも難だけど、いつまでも過去に縛られるのはダメだ。人間は未来を見て生きて行かないと。


「うん。ありがとう真人君。優しいんだね」


 俺の記憶を戻りつつある。けれど、肝心の記憶は戻らない。俺はなんで二宮さんとあんなに長く付き合っていたんだろう。ただ単に罰ゲームってだけなら、そんな長い期間付き合う必要ないのに……

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