第30話 記憶の欠片を集めて

 再試も無事にクリアした俺。なんとか両親に報告されるのを免れた。これで俺の単位も保障されるだろう。となれば、俺がやるべきことは決まっている。そのために俺は梅原に遊園地デートに行くことを提案した。


「え? 遊園地デートに行きたいだって?」


 梅原は俺の突然の申し出に頭に疑問符を浮かべている。


「行けばいいだろ。上条と二人で一緒に」


 真っ当な返しをされてしまった。


「頼む梅原。お前も一緒についてきてくれ」


「はあ? なんでだよ! 俺行く必要あるか? 完全に蚊帳の外になるだけじゃねえか」


 そりゃそうか。梅原が俺と一緒に行く理由がない。俺は過去に奏ちゃん、二宮さん、梅原と一緒にダブルデートをした。その時と同じことを再現できれば記憶を取り戻せると思っていたのだけれど。


「俺が記憶を失くす前は一緒にダブルデートに行ってくれただろ」


「そりゃ、あの時とはもう状況がちげえよ。俺はあの時、上条を狙っていたからこそダブルデートが成立した。だけど、今は上条はお前と付き合っているんだろ? なら、この話はナシだ」


 断られてしまった。梅原のメリットを提示できないのは辛かった。梅原がいないんじゃダブルデートで記憶を取り戻す作戦は使えない。


「いや、その……あの時と同じ状況を再現すれば俺の記憶を呼び戻せるんじゃないかと思ってな」


「なるほど。だとすると誘うのは二宮じゃねえか。俺は二宮を狙っているわけじゃないから余計にパスだ。それに、一度フッた相手をダブルデートに誘えるのかお前は」


 痛いところを突かれてしまった。確かに俺は二宮さんを一度フッている。どのつら下げてデートに誘えと言うんだ。


「まあ、難しいこと考えずに上条と二人でデートを楽しめばいいんじゃないか? 別に記憶を呼び戻すのに完全再現する必要もなかろうて」


「確かに言われてみればそうだな」


 俺は梅原の言う通りにまずは純粋に奏ちゃんとのデートを楽しむことにした。記憶は確かに戻ってきてほしいけれど、過去ばかりに縛られていて今付き合っている奏ちゃんを疎かにしてはいけないな。



 俺は奏ちゃんを遊園地デートに誘った。そして、その当日。俺らは遊園地の最寄り駅で待ち合わせをした。


 俺は時間を守る方だ。特に女子を待たせるなんてことはしたくない。待ち合わせよりも早い時間に駅にたどり着いた。


 しばらく待っていると駅から奏ちゃんがやってきた。服装のセンスが良くて、普段の制服姿の奏ちゃんとは全く違ったおもむきがある。


「お待たせ。真人君、相変わらず待ち合わせより早く来るんだね」


「ああ。奏ちゃんに早く会いたいからね」


「もう、そんなに私を喜ばせてどうするの全く……」


 奏ちゃんは顔を赤らめてそう言った。


「さあ、いこうか」


 俺は奏ちゃんに向かって手を差し出した。奏ちゃんはそれに応えて俺と手をつないだ。やわらかい。これが女子の手の感触なのか。気持ち暖かくて、癒される感触だ。


 そのまま俺たちは手をつなぎながら徒歩で遊園地に向かった。美人な彼女を連れて歩いている優越感に浸っている。今日はいい日だ。天気もいいし、風も爽やかだ。都会の中に微かに残った自然が俺たちを祝福している。そう感じた。


「高校生2枚で」


 俺と奏ちゃんはチケット窓口に料金を支払い、チケットを受け取った。そのまま、そのチケットを持って出入り口の受付に向かう。チケットを見せて中に入場する。


 とりあえず、遊園地には来てみた。けれど、全く記憶は呼び戻らない。まだこれだけでは刺激が弱いのだろうか。


「今日はなにに乗ろうかな。前回乗れなかったアトラクションに乗りたいな」


 子供のようにはしゃぐ奏ちゃん。ああ、そうか。それが普通の反応か。俺としては前回と同じアトラクションに乗って、記憶を戻したいのだけれど俺はその目的を奏ちゃんに伝えてなかった。


「あのさあ、奏ちゃん。悪いんだけど、前回のダブルデートの時と同じアトラクションに乗らない?」


「え? なんで?」


 奏ちゃんは疑問に思っている。二度も同じアトラクションに乗る必要があるのか。それは当然の疑問であろう。


「俺は記憶を戻したいんだ。だから、記憶をなくす前と同じ刺激を与えれば記憶が戻るんじゃないかと思って」


 そう言った途端奏ちゃんの表情が変化した。眉が吊り上がり、口はつぐみ、なにかを堪えている。俺を非難するような、悲しみを抱いているような……複雑な表情を見せた。


「なんで記憶を戻す必要があるの?」


「え?」


 確かに、俺はなんで記憶を戻したいのか……それは考えたこともなかった。普通の人は記憶喪失になることはないだろう。


 大事な記憶がすっぽり抜け落ちる。そのことで、周囲の人間と若干、話がかみ合わない。それは確かに少し不便だ。でも、生活に支障をきたすレベルかどうかと言えば違う。


 別に俺の記憶が戻らなくても俺は問題なく生きていくことはできるだろう。でも、俺は自分が何者なのか知りたい。記憶をなくす前はなにを考えて、どういう風な意図をもって行動したのか。


「記憶がなくても真人君は真人君だよ。そんな過去に縛られてないで前を向いて生きようよ? ね?」


 なんだこの感じは……奏ちゃんは俺の記憶が戻って欲しくない理由でもあるのか? わからない女心がわからない。あれ? そういえば俺は奏ちゃんの告白を断ったことがあったんだっけ。どうしてこんな美人の告白を断ったんだ?


 知りたい。俺が奏ちゃんの告白を断った理由を。その時になにを考えて、断ったのかを。もしかすると、相当な理由があって断ったのかもしれない。例えば、この美人を打ち消すくらいの相当なことをしでかしたとか。その記憶を失ったまま付き合うのは、真剣に奏ちゃんに向き合っていると言えないのでは? 


 俺は奏ちゃんの全てを受け入れたいと思っている。だからなんとしてでも記憶を取り戻したい。


「あのさ……俺は……」


「ダメ。それ以上言わないで。真人君は真人君。今のままでいいの。絶対に記憶を取り戻しちゃダメ」


 記憶を取り戻しちゃダメとまで来たか……もしかして、奏ちゃんは不都合な事実を隠そうとしているのか? 今の俺に内緒にしておきたい事実。なんだろう。気になるな。

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