第28話 ご褒美
ご褒美。好きなことしていい。美少女の口からその単語を聞いて、滾らない男子はいるのだろうか。俺は今、正にその状態だった。
好きなことしていいってことは、アレだよな? そういうことだよな? い、いや。なに考えているんだ俺は……あんまり無茶なこと言うと奏ちゃんに嫌われてしまうぞ。しかし、どこまでがセーフでどこからがアウトなのか……俺には全く想像がつかなかった。
二人の女性と付き合ったことがあるとはいえ、俺はまだ恋愛経験値は少ない。所詮は、そこら辺にいる男子高校生に過ぎないのだ。
「好きなことしていいって例えば……?」
な、なにを訊いているんだ俺は。俺の質問を受けて、奏ちゃんは頬を赤らめて俯いてしまった。
「も、もう。そういうことを考えるのは問題を解いてから。さあ、早く問題解いて」
「あ、ああ」
俺は一気に現実に引き戻された。そうだ。まずはこの問題を解かないことにはどうしようもない。俺は一生懸命頭を働かせようとする。しかし、奏ちゃんのご褒美が気になって全く集中できない。
俺の思考は完全にピンク色に染まっている。ただでさえ、難しい問題なのに集中力を欠いた状態で解けるはずがなかった。
「この問題が解けないってことは……真人君。私のこと好きじゃないの?」
奏ちゃんが上目遣いでこちらを見てくる。その瞳は反則だ。まるでこちらが悪いことをしているみたいだ。妙な罪悪感が俺を襲い、余計にプレッシャーがかかる。
「あ、いや、その……奏ちゃんのことは好きだけど、それとこれとは話が別というか」
「ふふふ。慌てちゃって面白いんだから」
完全に奏ちゃんに
「この問題は難しいから一緒に解こう」
奏ちゃんがシャープペンを持って、俺のノートに書きこみをした。解説しながら、解法を書いてくれて、とても助かる。奏ちゃんの説明はとてもわかりやすくて、頭にすっと入ってくる。
「はい。それじゃあ今度は自力でやってみて」
「わかった」
俺は奏ちゃんに教わった通り問題を解いた。解き方はあっていると思う。後は計算ミスさえしなければ完璧だ。俺は正解していることを神に祈りつつ、回答を奏ちゃんに見せた。
「ふんふん。正解。やったね真人君」
「え? 本当に。やった」
問題が解けて嬉しいとは。俺は奏ちゃんのお陰で勉強が少し好きになったのかもしれない。本当に少しだけだけど。たまにはこういうのも悪くないかな。
「じゃあ、約束のご褒美を……って思ったけれど、私の助言があって答えたからなー。どうしようかなー」
奏ちゃんが意地悪な微笑みを浮かべる。確かに、俺は自力で問題を解くことができなかった。奏ちゃんのアドバイスありきだから、ご褒美を受け取る資格はないのかもしれない。こんなことなら、もっと普段から真面目に勉強しておくべきだった。
「それじゃあ間を取って、私がご褒美を受け取ることにしよう」
「どことどこの間を取ったらそうなるんだよ!」
俺は思わずツッコミを入れてしまった。奏ちゃんの超理論に翻弄される。
「別にいいじゃない。真人君に勉強教えてあげてるんだから、私に感謝する気持ちがあったら、素直に受け入れなさい」
「う、そう言われると弱い」
奏ちゃんに世話になっているのは事実だ。ここは勉強を教えてもらったお礼ついでに、彼女の望みを叶えてあげよう。でも、奏ちゃんはご褒美で俺に何を要求するんだろうか。少し気になる。
「そうだね……私が要求するのは。真人君の胸を触っていい?」
「胸!? なにその
予想外の事態に思わず声を荒げてしまった。男子が女子の胸を触りたがるのはわかる。けれど、奏ちゃんは女子で、俺は男子。だから、理解が全く追いつかなかった。女子も男子の胸が好きなのか?
「真人君は覚えてないかもしれないけれど、私と真人君がお化け屋敷に行ったことがあったんだ。私、その時怖くて怖くて……でも、その時に真人君の胸板に触れたら、安心したよ。この人なら私を守ってくれそうだって」
全く記憶にない。というか、記憶を失くす前の俺は奏ちゃんと一緒にお化け屋敷に入っていたのか? なんでそんな大事な記憶がすっぽり抜け落ちてるんだ。勿体ない。
お化け屋敷って言ったら男女の密着度が上がるアレのことじゃないか。奏ちゃんが俺の胸板に触ったということは、当然俺も奏ちゃんの感触を感じたということで、いい思いができていたはずだ。俺のバカ! バカ! 今すぐその感触を思い出せ。
まあ、いくら念じたところで失った記憶は戻ってこない。そんなんで戻ってきたら苦労はしない。
「だからお願い真人君。私にもう一度あの感触を味わわせて。そうしたら、私もうこの世に思い残すことはない!」
「いや、この世に未練がある地縛霊かよ! そのままの流れで成仏されても困るわ!」
「ダメなの?」
奏ちゃんは目を潤ませて訴えかけてきている。ずるい。こんな目をされたらどんなお願いも叶えたくなってしまう。はー……男ってやつは美少女に弱い生き物だ。
「わかった。奏ちゃんの気が済むまで触っていいから」
俺は覚悟を決めた。奏ちゃんの顔がパアっと明るくなる。そして、俺の胸にまっしぐらに突き進んだ。少し軽めの衝撃が俺の胸板に伝わる。奏ちゃんの体重の半分くらいの負荷がかかっただろうか。俺は奏ちゃんの小さな体当たりを受け止めた。
「んー。この感触……やっぱり男子は違うね」
頭ごと俺の胸板に密着する奏ちゃん。俺の顔の真下にはちょうど、奏ちゃんの頭頂部がある。そこから少しだけいい匂いが漂ってくる。その香りが俺の感情を昂らせて、顔が熱く火照ってくる。
「奏ちゃんごめん」
俺は勢いで奏ちゃんを引きはがした。奏ちゃんはなにが起きたかわからない顔をしている。
「どうしたの? 真人君」
「ごめん。その、顔を密着させるのはナシで。俺の理性が持たない」
「えー。でも真人君がそういうならしょうがないね」
結局、その後は奏ちゃんは手のひらで俺の胸板の感触を楽しむだけにした。
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