第27話 奏ちゃんの家
くそ……一体なんでこんなことになってしまったんだ。俺が一体なにをしたと言うんだ。昼休み。梅原たちが楽しそうにインディアンポーカーで盛り上がっている中、俺だけが遊べないでいる。
なにをしたかと問われたら、しいて言えばなにもしていない。なにもしていないからこそ、この仕打ちを受けたのだ。そう俺は勉強をしなかった。
抜き打ちの数学のテストを受けた俺は見事なまでに赤点を取ってしまった。赤点の生徒は後日、再試を受けるとか言う最悪なことを数学担当の
今度のテストでまた赤点取ったら親に連絡すると言われた。流石にそれはまずい。うちの両親は割と怖い。もし、テストで赤点を二回連続で取ったとなったら確実に殺されてしまう。なんとしてでも赤点を回避しなければならない。
俺は生き残るために必死こいて勉強した。……が、授業を真面目に聞いてなかった俺が教科書を見ても理解できるはずがなかった。そりゃそうだ。教科書読むだけでテスト100点取れたら授業なんていらない。それがこの世の真理だ。
「石橋ー! どうやったらここの角度を求められるんだよ」
俺は頭のいい石橋に勉強を乞うていた。石橋の話では、記憶を失くす前から俺は勉強のことで石橋を頼ってばかりいたという。つまり、石橋は頼りになるやつってことだ。
「うん。それはね。ここの角度が67度でしょ? それで、四角形が円に内接するとき、四角形の対角の和は 180度になるから、113度になるわけだよ」
「なんで円に内接するとき、四角形の対角の和が180度になるんだよ」
「えー。その証明は範囲外なんだけどなー。手っ取り早く点数取りたいなら時間の無駄だと思うけど」
「いいだろ。気になるから教えてくれよ」
「まあいいや。説明するね……」
結局、昼休みに石橋に付き合ってもらったけれど時間が足りず、テスト範囲を全てカバーしきれなかった。
ちなみに、石橋の説明聞いてもなんで内角の和が180度になるのか全くもって理解できなかった。石橋の言う通り時間の無駄だった。俺はもう少し石橋の忠告を聞けばよかった。やつは勉強の天才。あらゆる手を使って点数を稼ぐ狡い戦術を持っているのだ。
すまん石橋。お前の貴重な昼休みを無駄にしてしまって。そして、ありがとう。心の友よ。お陰で赤点回避に一歩近づいた。
「真人君大丈夫?」
奏ちゃんが俺を心配してくれた。優しい。女神かこの子は。
「ははは。だ、大丈夫さ。俺はたまたま数学が苦手なだけなんだ」
「じゃあ得意な教科はあるの?」
「ない!」
俺は自信満々にそう答えた。何故、俺は勉強をしなければならないのだろう。……なんか小学生みたいなこと言ってるな俺。もうやめよう。
「ねえ、真人君が良かったら、今日家に来ない? 一緒に勉強しようよ」
「え? いいの?」
奏ちゃんは成績もそこそこ良かった気がする。その奏ちゃんに勉強を教えてもらえるとなるとこれはもう勝ったも同然だ。
「うん。今日の放課後、一緒に帰ろう。勉強を見てあげるから」
「ありがとう。本当に助かる」
やはり、持つべきものは成績優秀な彼女だ。俺は放課後、奏ちゃんと一緒に帰ることにした。
◇
奏ちゃんの家に辿り着いた俺。白を基調にした西洋風の建物で、一目見てお金持ちの家だとわかった。
「凄い立派な家だね奏ちゃん」
「ありがとう真人君。この家はお母さんの趣味なんだ。お母さんは昔、舞台女優をやっていてね。中々センスがいい人なんだ」
「舞台女優って凄いね。だから奏ちゃんは美人なんだ」
「もう。真人君ったら。ほら、家にあがるよ」
奏ちゃんが玄関の扉にカギを差し込む。そして、開錠して家の中に入る。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
玄関は靴が綺麗に整頓されていて、小奇麗な印象だ。俺は緊張しながら靴を脱ぎ、家に上がった。普段は揃えない靴をしっかりと揃える。この片付けられた玄関の中に雑に脱いだ靴を置くのはあまりにも忍びなかったからだ。
「奏、帰ってきたの?」
リビングからとても綺麗な女性がやってきた。奏ちゃんの面影があるその美人な人はどことなく気品溢れていて、まるで奏ちゃんの将来の姿を見ているようだ。
「お母さん紹介するね。東郷 真人君。私の彼氏だよ」
「お母さん初めまして。奏ちゃんとお付き合いさせて頂いています」
「あらあら。娘がいつもお世話になってます。ゆっくりしていってね」
なんなんだこの既視感は。奏ちゃんのお母さんとは初めて会うはずだった。でも、前にも似たようなことを経験した覚えがある。自分の彼女の家族と会い挨拶を交わす。そんな経験が俺にあったのか……?
「さあ、真人君、行こう?」
俺は奏ちゃんに案内されるがまま二階へと向かった。二階の奥の方の部屋。そこに奏ちゃんの部屋があった。
奏ちゃんの部屋は、花柄の壁紙、薄いピンク色のベッド、机や棚の上にはぬいぐるみが数多く飾られていてる。いかにも女の子の部屋という感じだった。
「さあ、勉強しよう。赤点回避のために頑張ろう」
こうして二人だけの勉強会が始まった。奏ちゃんの教え方はとてもわかりやすく、石橋に勝るとも劣らないほどだった。
「じゃあ、真人君。この問題解いてみて」
「ん、わかった」
俺は問題を必死こいて解こうとする。この問題はテスト範囲の中で一番難しい問題だ。いくら頭を捻っても答えがでてこない。基礎だけでは解けない。応用が必要なものだった。
「ダメだ。全然わからない」
「がんばって真人君。解けたら、ご褒美あげる」
「ご褒美?」
「うん。真人君が好きなことしていいよ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます