第20話 放課後浮気デート

 学校の終業を告げるチャイムが鳴る。これで今日の授業は終わり、後は帰るだけだ。久々の学校は、なんだか疲れたな……皆記憶喪失の俺が珍しいのか奇異の目で見て来る。隣のクラスの名前も知らない奴らが俺らの教室を遠目で見てきているし。


「あの……真人君。今日の放課後一緒に帰らない?」


 上条さんが俺に話しかけて来てくれた。願ってもないチャンスだ。こんな美人の上条さんと一緒に帰れるなんて嬉しすぎる。


「え? いいのかい?」


「うん……真人君が良かったらだけど、帰り道に寄りたいところがあるんだ」


 チクショウ! 可愛すぎるだろ。照れているのかもじもじとした仕草がなんとも男心をくすぐる。一度は振ってしまった子だけれど、もう一度チャンスあったりしないかな?


 俺がデレデレとしていると、背後から怨念めいた気配を感じた。この方向は確か二宮さんの席があった方向だ。俺がゆっくりと振り返ると、呆然とした二宮さんの姿がそこにあった。


「なんで……東郷君。今日用事あるんじゃなかったの……?」


 二宮さんがそう呟いていたのが聞こえた。ああ。彼女の誘いを断るために、適当に嘘ついてしまったな。


 二宮さんは手早く帰り支度を済ませて、足早に教室から出て行ってしまった。何だか悪いことをしてしまったようだ。


「ねえ、真人君。行こう?」


「ああ……」


 何だろう……二宮さんは確かにブスで俺の好みではないけれど、胸が締め付けられる感覚がする。記憶を失くしていて、彼女には何の思い入れもないはずなのに何だろうこの感覚は……



 俺は上条さんと一緒にゲームセンターに来ていた。上条さんの情報によると、俺は記憶を失くす前はゲーセンが大好きで、よく梅原達と一緒にここに来ていたようだ。だけれど、俺にはその記憶が全くない。サイフの中を見てみると、ゲーセンで作ったと思われるIDカードが入っていたから嘘ではないと思う。


「ねえねえ。真人君。私あれが欲しい」


 上条さんは俺の制服の袖を掴みながら、UFOキャッチャーの景品を指さした。最近女子中高生の間で人気の猫のキャラクターのぬいぐるみだ。


「えっと……取れるかどうかわからないけど頑張ってみる……」


 記憶を失う前の俺はUFOキャッチャーが得意だったのだろうか。だとしたら体が感覚を覚えているのかな。一応やってみるか……


 俺はコインを投入して、クレーンを動かす。上条さんの前で良い所を見せたい。そう思うと緊張して手が震える。えっと……ここでいいのか?


 俺は適当な位置でクレーンを止めた。クレーンが下に下がり、アームが開く。ぬいぐるみにアームが触れるが全く取れる気配はなく、すり抜ける。何もキャッチ出来なかったアームはそのまま取り出し口まで動き、アームが開くという意味のない動きをする。なんとも虚しい時間だ。


「あー。惜しかったねー」


 上条さんの残念そうな顔が俺の心を突き刺す。いい所を見せたかったはずなのに、何か情けない結果だ。


「くそう! もう一回だ!」


 俺は再びコインを投入口に入れた。しかし、結果は何度やっても同じこと。多少、景品の位置を動かすことは出来たが、それだけだ。このアームの設定狂ってるんじゃないのか。本当に取れるのかこれ。


「あのー。良ければ、景品の位置を動かしましょうか?」


 店員が俺に声をかけてきてくれた。何という気が利く店員だ。正直、自力で取れなかったのは情けないが、なりふり構ってられない。


「お願いします」


 俺は藁をも掴む思いで店員にすがった。店員はカギを開けて、ぬいぐるみの位置を調整してくれた。今度こそ取れるはず。


 俺は再びコインを投入する。今度こそ……今度こそ取ってみせる! 俺の思いが天に通じたのか、アームがぬいぐるみを捕らえた。そのまま、落ちることなく投入口の真上に来た。そして、アームが開きぬいぐるみがストンと落ちる。


「やったー! ありがとう真人君!」


「助かりました。ありがとうございます」


「いえ。いつもご贔屓にさせて貰ってますから」


 なんだ。俺はこの界隈では有名人だったのか。店員にまで顔が知られているとはな。日頃の行いが実を結んだ結果か。


 上条さんは手に入れた猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめている。え? 可愛すぎない? 頑張って取った甲斐があったというものだ。


「それにしても、いつもより調子が悪かったですね。普段ならもっと早く取れてもおかしくないのに」


 店員が俺に対してそう疑問を呈した。そうか。やはり、記憶を失う前の俺はUFOキャッチャーが上手かったようだな。


「あの……真人君は記憶喪失になってしまったんです」


「え? 記憶喪失? そうだったんですか? すみません」


「いえ、気にしないで下さい」


 なんだか気を遣わせてしまって逆に申し訳なく思う。


「ねえ、真人君。この音ゲーやろうよ」


 上条さんは俺の腕を掴んで、音ゲーコーナーに引っ張って行く。初めて見る筐体のはずなのにどことなく懐かしい感じがする。記憶を失う前の俺はプレイ済みなのだろうか。


 まずは上条さんが音ゲーをしてみる。今流行りの国民的女性アイドルグループの曲を選択したようだ。これはあんまり覚えがない。懐かしい感じもしないことから、俺は女性アイドルとかには興味なかったようだ。


「うん……よし……あ! もう!」


 序盤こそ善戦していた上条さんだが、中盤辺りからリズムを崩してしまいミスを連発してしまった。


「あー終わっちゃった。難しいよこれ」


「じゃあ俺がやってみるかな」


 この筐体の前に立った時、俺は少し記憶が戻ったそんな感じがした。そして、音とリズムに合わせてパネルをタッチしていく。


 感覚的には初めてやるゲームだ。だけれど、俺はこのゲームを既にやっているかのようなそんな感覚に陥った。体が覚えているという奴だろうか。音ゲーはUFOキャッチャーに比べて、反射神経が要求される。だから、体が覚えているのだろう。


「凄い! 凄いよ真人君!」


 俺は気づいたら、上条さんのスコアより倍以上の差をつけていた。


「真人君格好いい……」


「そ、そうかな……」


 どうやら上条さんに良い所を見せられたようだ。それだけでこのデートは収穫はあった。


 その後も俺達はゲームをして遊んだ。凄く楽しい充実した一日だった。こんな美少女とデート出来て良かった。俺は心からそう思った。この子が俺の彼女だったらな……

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