第18話 俺は一体誰なんだ?
俺が目を覚ましてから数日が過ぎた。未だに俺は入院生活をしている。今までは両親以外面会謝絶だったが、今日から面会が解禁されるらしい。
と言っても、誰が来ても俺はその人のことを覚えていないだろうけど……何てったって自分の両親の顔と名前すら忘れていたのだから。
俺は東郷 真人。俺の両親を名乗る人から教えてもらった名前だ。俺は車に轢かれて記憶を失ったらしい。
俺を轢いた老人は既にこの世にいない。心臓に持病がある人で運転中に亡くなったらしい。俺を轢いた時には既に息絶えていたと警察は断定した。死人がブレーキを踏めるはずもなく、俺はそのまま轢かれてしまったというわけだ。
俺はクラスの皆で撮った写真を見ていた。この中の誰一人として顔が思い出せない。それにしてもこのクラス面白いな。とんでもない美少女とありえないくらいのブスがいるなんて。そのギャップ凄すぎるだろう。
この美少女の子本当にいい顔しているな。もし、付き合えるならこういう子と付き合いたい……というか俺に彼女いるのかな? それすら思い出せてない。まあ、俺は結構イケている顔だし、彼女の一人や二人いてもおかしくないか。
お昼と夕方の間くらいの時間帯。俺の病室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」と俺が言うと、ドアががらりと開く。入って来たのは気の良さそうな男子だった。名前は思い出せないけれど、クラス写真にいたから同じクラスなんだろう。
「よお、真人。生きてるか?」
「はは、なんとかね」
俺とこの人はどういう関係性だったんだろう。それすらわからない。お見舞いに来てくれるってことは結構仲が良いと思う。けれどどの程度心を許しているかはわからない。下手に馴れ馴れしい態度を取ることは出来ないからどうしてもぎこちない感じになってしまう。
「お前記憶ないんだってな。俺のこと思い出せるか?」
「ごめん……」
俺には謝ることしか出来なかった。自分のことを忘れられるなんて相当ショックなことだろう。俺は彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「お前が謝ることじゃねえって。俺は梅原。思い出せたか?」
「梅原君か。やっぱり思い出せない」
「おいおい、君づけはやめろって。気持ち悪いな。梅原でいいよ」
彼の態度を見るに俺達はそこそこ仲が良いみたいだ。冗談を言い合える関係だったのかな。
「記憶をなくして色々辛いよな……俺も精一杯お前のサポートをするからよ。何か訊きたいことがあったら答えるぜ」
「俺とキミは友達なんだよね?」
「ああ。そうだ。友達同士に遠慮はいらねえぞ。お前はもっと俺の扱いは雑だったぞ」
「そうか……」
こんな良い友達を雑に扱っていたのか俺は……なんてバチ当たりなんだ。いや、バチが当たったから車で轢かれたのかもな。
「なあ、梅原く……梅原。俺に彼女っていたのか?」
「ん? ああ。いたよ。同じクラスの二宮 舞って子だ」
「その子って可愛いのか!?」
「ん? ああ。まあ人の好みはそれぞれだからな。俺からは何も言えねえ。ただ、お前はその子を学年一可愛いと思っている」
なんだこの歯切れの悪さは……梅原は何か隠してそうだな。
「おっと。俺は用事があったんだ。じゃあまたな。時間ある時にまた顔出すわ。お前も早く怪我直して退院しろよ」
「ああ。来てくれてありがとう」
梅原は去っていった。また病室が静寂に包まれる。少なくても俺には友達と彼女がいた。孤独な人生ではなかった。それは良かったんだけれど……彼らのことを何一つ思い出せないことに罪悪感を覚える。
しばらく待っていると本日二人目のお見舞い客がやってきた。今度は女子のようだ。何だこの可愛さは……確か、クラス写真にも写っていた子だ。一際美しいその顔立ちは思わず目を引いてしまう。写真で見るよりも実物で見る方が圧倒的に可愛い。もしかして、この子が俺の彼女なのか? 学年で一番可愛いレベルだろ。これは。
名前も知らない美しい子は俺の顔を見るなり泣き出してしまった。
「良かった……生きてた……心配したんだよ……」
泣き出すくらい俺のことを思っていてくれるなんてきっと彼女に違いない。この子がきっと俺の彼女の二宮さんに違いない。
「えっと。ごめん。確認するけど、キミの名前は?」
「ああ、そうか。記憶ないんだったよね? 私の名前は上条 奏。真人君とは同じクラスなんだ」
上条 奏……? あれ? おかしいな。俺の彼女は確か学年一可愛いレベルだったはず。この子がそうじゃないのか? 俺の彼女はこの子よりも可愛いのか?
「えっとごめん。上条さん。一つ訊いてもいいかな? 二宮 舞って子はこの中にいる?」
俺はクラス写真を上条さんに見せた。上条さんは一瞬不機嫌そうな顔になるが、俺の要求に応じてくれた。彼女が指さしたのは……俺がこの写真の中で一番ブスだと思った女子であった。
嘘だろ? 何で? 俺の彼女がこんなブスなんだ? え? 記憶を失う前の俺どうかしているのか? いくら妥協したってこのレベルはありえないだろう。
「嘘……だろ……」
俺は頭を抱えた。何かの間違いであって欲しい。梅原が言うには、俺の彼女は学年で一番可愛いはずなんだ。
「あ、あの……上条さん。俺とキミってどういう関係なの? 友達だよね?」
「私が真人君に告白した。そしてフラれた。そういう関係よ」
は!? え? 待って。なんで、なんで俺こんな美人をフってんの? ありえない。そんな千載一遇のチャンスを蹴ってブスと付き合う? 待ってくれ……何かがおかしい。
「待って、嘘だよね? キミみたいな可愛い子の告白を断るだなんてありえない」
俺はこの上条さんが俺の記憶がないことに嘘をついているのかと思った。記憶喪失の人間を騙すなんて悪質なことだけれど、俺はこの上条さんの性格を知らない。もしかしたらそういうことを平気でする極悪人なのかもしれない。
「え? わ、私のこと可愛いって? ま、真人君! もう一回言って? お願い!」
「え? ああうん。上条さんは可愛いと思うよ」
上条さんの顔が赤くなる。え? この反応、ガチで俺上条さんに好かれてるの?
俺はますます混乱した。一体何が真実で何が嘘なのか分からない。俺は違う世界に来てしまったのか?
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