第16話 男を上げるトレーニング

 遊園地デートも終わった。俺はなんとも言えないような結果に終わってしまった。二宮さんと滅茶苦茶進展するのかと思いきや、観覧車の中で喧嘩をしてしまった。最終的に仲直りは出来たから良かった。もし、喧嘩が尾を引けば最悪の場合別れるということもありえた。


 上条の方とは親密な関係になってしまった気がする。あいつは確かにブスだが、話してみれば案外気が合うかもしれないと思い始めた。俺は面食いだと思っていたけれど、人間って顔じゃないのかもな。


 仲良くなりたかった相手とは進展しなくて、別にどうでもいい相手と進展してしまう。何ともねじれた結果だ。


 一方、上条を狙っていた梅原だけれど、観覧車で2人きりの時にガッチガチに緊張してしまっていたらしく、何も話せなかったらしい。あのブス相手に緊張するとか梅原も変わった奴だな。


 俺としては梅原には上条と付き合って欲しかった。上条も俺以外の彼氏が出来れば、俺と二宮さんのカップルに突っかかるのを辞めてくれると思うからだ。


 まあ、梅原にはドンマイとしか言いようがない。この失敗をバネにして次に向かって欲しい。


 また、いつものように憂鬱で退屈な月曜日が始まる。ついこの間までは二宮さんに会えるという希望を持って月曜日を迎えていた。だが、付き合い始めてからはそれもなくなる。休日にもデートして会えるなら、平日いらないじゃんと思うようになった。


 では、今は何をモチベーションに学校に来ているのかと言うと、やはり二宮さんの制服姿であろう。休日の時の二宮さんは私服だ。それはそれで大変可愛らしいのだが、やはり制服には制服の良さ。魔力というものがある。


 俺は気力を振り絞り、学校へと向かった。全ては二宮さんに会うために……


 俺は教室へと入った。二宮さんはまだ来ていないようだ。なら、適当に梅原達と喋って時間でも潰すか。


「よお。梅原。調子はどうだ?」


「はあ……俺ってやつは、上条と仲良くなるチャンスを逃してしまって。ちくしょう」


 梅原は落ち込んでいるようだ。まあ、気持ちはわかる。だけれど、ストレートに告白して成功した彼女持ちの俺が慰めても逆効果になってしまうだろうか。


「おい真人。お前、今日の放課後ちょっと付き合えや」


「えー」


「えーじゃない! トレーニングすんぞトレーニング」


 梅原がまた訳の分からないことを言い始めた。なんでいきなりトレーニングが出て来るんだ。


「いいか? 筋肉がある男はモテる! それは太古の時代より変わらない真理だ! だから、俺もムキムキボディを手に入れてやる!」


 梅原が燃えているようだ。まあ、体を鍛えるのは悪いことではない。俺も筋トレは嫌いじゃないからな。でも……


「悪い梅原。俺放課後は二宮さんと一緒にデートしたいから」


「何がデートじゃあ! 逆に毎回毎回デートしているカップルは早く分かれるぞおお! お互いが飽きてマンネリ化するからなあ!」


 恋愛経験のない梅原が彼女持ちの俺になんか言っている。


「まあ、確かに梅原の言うことには一理あるな」


「そうだろう? じゃあ俺と一緒に汗を流そうぜ」


「だけど俺は今日はデートしたい気分なんでパス」


「おいぃ!」


 そんなやりとりをしていると朝のホームルームの時間になることを告げるチャイムが鳴った。あれ? おかしいな。二宮さんはまだ来てないようだ。


 先生が教室に入ってくる。


「あー。実はな。今朝連絡があったんだが、昨日の夜に二宮のお爺さんが亡くなられたそうだ。そのため、二宮はしばらくの間休むことになった」


 そうなのか。それは気の毒に。しばらく二宮さんと会えないのは残念だけど、一番辛いのは彼女自身だろう。後で慰めの電話をしてあげないと。


「それじゃあ、出欠確認するぞ……二宮以外全員いるな。よし」


 流石の先生も今日は「いない人手を上げて」というギャグをかまさなかった。生徒のお爺さんが亡くなった時にそんなしょうもないギャグをかますほど無神経な先生ではなかったか。


 それにしても今日の予定どうしようか……二宮さんとデート出来なくなったからやっぱり梅原に付き合うか。



 そんなわけで梅原とトレーニングをすることになった。学校近くの公園に集まり、ここでトレーニングをするとか言い出した。周囲には小学生だらけで明らかに俺らは浮いている。


「梅原、やっぱり場所変えね?」


「何を言ってるんだ真人! 羞恥心を捨てろ! 童心を思い出せ! 公園は子供だけのものではないぞ!」


 まあ、確かにたまにホームレスやリストラされたお父さんがやってくるようなイメージはあるけれども……


「よーし! まずは懸垂だ!」


 梅原は高い鉄棒にぶら下がり懸垂しようとする。数センチ体を持ち上げて、しばらくぷるぷるした後にまた下がった。


「一回も出来てねえじゃねえか!」


「うるせえ! 出来ねえから練習するんだろうが!」


 まあ確かにその通りではある。誰でも最初から出来るとは限らない。出来ない者を笑う行為は恥ずべきことだな。出来なくてもやろうとする意思があるならそこは尊重してあげるべきだ。


「ふんぬ!」


 梅原が再度懸垂をしようとする。しかしまたもやプルプルとして、体が下がる。梅原は手を放して、低い鉄棒の前に移動した。


「やめた! 俺は逆上がりをする! せいや!」


 梅原は無駄に綺麗なフォームで逆上がりをした。そう言えばこいつ、小学生の頃はクラスで一番早く逆上がりを習得したっけ。


「逆上がりしたって懸垂は出来るようにはならんぞ梅原」


「じゃあお前がやってみろよ真人」


「おーけい。見てろ」


 俺は高い鉄棒にぶら下がり、腕の力を使い体を持ち上げた。そして、ゆっくりと体を元の位置に戻す……ダメだ。手が限界だ。放そう。


「お前も1回しか出来てねえじゃねえか!」


「1回出来れば出来た内に入るぞこの野郎! 1と2は大差ないけれど、1と0には圧倒的に差があるんだよ!」


「ぐぬぬ。じゃあ、俺が懸垂1回出来るようになるまで帰らせねえからな!」


「何故俺が付き合わなければならんのだ……」


 結局、その日は日が暮れるまで梅原に付き合わされてしまった。まあその甲斐あってか梅原は懸垂を1回出来るようになった。まあ、懸垂が出来るようになったからと言ってモテるようになるかどうかは知らない。

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