第12話 ダブルデート

 ダブルデート当日の日、俺は待ち合わせ場所に早く来ていた。デートで女の子を待たせるわけにはいかないからな。特に可愛い二宮さんなら猶更だ。まあ、今は待ち時間にスマホで暇を潰せる時代だからな。いい時代になったものだ。


 次に来たのは上条だ。髪をアップにして中々気合入っているようだ。このデートにかける意気込みというものを感じる。


「真人君。おはよう。いい朝だね」


「いい朝かどうかは知らないけどおはよう」


 俺はスマホをしまった。流石に人と会っている時にスマホを弄りまわす程無神経な男ではない。いくら上条がブスだからと言って、やっていいことと悪いことはある。


「真人君。今日のデート楽しみだね」


「別にお前とデートするわけじゃねえし」


 俺は不貞腐れた。なんでよりによって上条と二人きりなんだ。あからさまに俺を狙っている上条。ハンターのような眼光で俺を見つめている……ような気がする。


「真人君も今日のデート楽しみだから早く来たんでしょ? 私も真人君に早く会いたいから早めに来ちゃった」


 俺に会いたいから早く来ちゃった……か。もし、二宮さんに言われたら天にも昇るような気持ちだろう。しかし、相手は上条。別に嬉しくともなんともない。


「俺は時間をきっちり守る男だ。何かあった時のために早めに出るのは当然のことだろう」


 上条はやたらとニコニコした顔でこちらを見ているし、何か気まずい。この状況で二宮さんが来たらどうなるんだろう。二宮さんと上条は相性が悪いからまた衝突するんじゃなかろうか……そうなると梅原の存在が今ここで欲しい。梅原ー! 早く来てくれー!


 しかし、俺の願い虚しく次に来たのは二宮さんだった。梅原! 何してんだ! 女子待たせてんじゃねえぞ!


「あ、東郷君おはよう。上条さんもおはよう」


「何、私はついでみたいな扱いなの?」


 うわー。早速上条の奴が二宮さんに突っかかってきてる。どうするかこの状況。


「ご、ごめんなさい。私そんなつもりじゃないの」


「わかればいいんだよ。全く」


 うわあ、結局上条が終始偉そうな態度を取って二宮さんに攻撃して終わった。気の弱い二宮さんは、滅多なことがないと上条に逆らえないからな。


 上条と二人きりの時よりも気まずい空気が流れる。何か話題はないのだろうか。


「えっと……梅原の奴遅いな」


「ええ。そうだね。もうすぐ約束の時間すぎる。デートの開始時刻10分前に来てない時点で男としてはダメね。論外」


 梅原。お前上条狙っているのに論外扱いされてるぞ。好きな人に論外扱いされるなんてかわいそうなやつめ。


「梅原君遅いな。何かあったのかな? 心配だな」


「あいつはいつも遅いからいいんだよ。二宮さん。でも、梅原の心配するなんて優しいな。そういう所好き」


「す、好きだなんてそんな……」


 二宮さんの耳が赤くなっている。照れちゃってとても可愛い。


「はいはい。私の前でイチャつかないでねー」


 まあ確かに上条に前でイチャつくのは良くなかったな。一応、あいつまだ俺のこと好きみたいだし、嫉妬心に火をつけることになる。余計なことはしないでおこう。


「よお。待たせたな皆」


 俺達の前に現れたのは逆立てた髪をワックスで固めてサングラスをかけている梅原の姿があった。服装もパンクな恰好をしていて、アクセサリもジャラジャラと付けている。梅原よ……お前に一体何があった。


「ぷ、あはは。梅原君。あんたどうしたのその格好。ウケる」


 上条は梅原の格好が完全にツボに入ったようだ。あまり笑ってやるな上条。あれは梅原の精一杯のお洒落なんだ。普段はボサボサの髪で、冴えない男だけど、このデートに命を懸けて来てるんだ。笑ってやるな。


「え? そ、そんなにこの格好変かな?」


 逆によく行けると思ったな梅原よ。お前そういうキャラじゃないだろ。


「なあ、真人なんとか言ってくれよ。俺変じゃないよな?」


「ヘンジャナイヨ。全然」


「カタコト!?」


 二宮さんは笑っていいのかどうかわからない絶妙な顔をしていた。


「まあ、とにかく遊園地に行こうぜ」


 俺はこの空気をどうにかしたかった。じゃないと友人のがんばりを笑ってしまいそうだ。まあ、しばらくすればこの空気にも慣れるだろう。


 入園料を払い、俺達は遊園地の中に入った。いざ夢の国へ。


 まだ開園して間もないと言うのに遊園地の中には既に多くの人がいた。一番人気のジェットコースターにはこれでもかと言うくらいの長蛇の列。これからもっと人が並ぶと思うと恐ろしい。


 遊園地を楽しむためにはあらかじめ行きたいアトラクションを決めておくことか。人気のアトラクションを楽しみたいなら並ぶタイミングも重要だ。


「私、ジェットコースター乗りたい」


 上条が一番人気のジェットコースターを指さしてそう言った。こういう時、自分が何したいのか提案してくれる人は案外ありがたかったりする。引っ込み思案な人間ばかりだと、誰も意見も何も言わずにぐだぐだになり、結局何から乗るのか決まらなくなるからな。


 列に並ぶこと小一時間くらい経った。俺達の番が回って来た。ジェットコースターは二列編成だ。


「私、真人君の隣がいい」


「だ、だめだよ! 東郷君の隣は私だよ! だって、付き合っているんだもん」


 流石の二宮さんも俺の隣を譲る気はないようだ。


 俺としては、二宮さんの隣に座りたい。あーでも、二宮さんの後ろに座って、視界に常に二宮さんを入れておくのみ悪くないか。どっちにしよう。


 ふと梅原の方を見ると梅原が俺に何かを目で訴えかけている。ああ、そうか。こいつは上条の隣に座りたいんだな。まあそういうことならいいだろう。


「俺はもちろん二宮さんの隣に座るぞ」


「東郷君!」


「わかった。今回は譲ってあげる。でも次は私が真人君の隣に座る番だからね!」


「次も譲らないよ!」


 席順が決まった所で俺達は係の人の指示に従って、座席に座った。安全ベルトをしっかりしめてジェットコースターがスタートした。


 ガタガタとゆっくり進むジェットコースター。段々加速度的に速度が早くなる。決められたレールの上を動くだけの乗り物。しかし、それに緩急が付くことによって途端に楽しくなる。


 急カーブを曲がり、高い傾斜をゆっくりと登っていく。緊張感が高まり、これから落ちる期待感と不安感が入り混じったような感覚を覚える。そして頂上に達した時、一瞬止まる。そこで気が緩んだ瞬間、一気に落ちる。物凄い風圧が俺達の体を刺激する。


 隣で二宮さんが可愛らしい悲鳴をあげる。後ろの梅原は情けないほどの絶叫をあげ、上条も甲高い声を上げる。


 その工程を数回繰り返した後に、俺達は元居る場所へと戻って来た。


「あー楽しかった。ね、真人君?」


「ああ。中々楽しめたな」


「ひひ……はは……あはは……」


 梅原は魂が抜けた抜け殻のようになってしまった。折角、セットした髪も風圧で崩れてしまっている。なんとも間抜けな奴だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る