第11話 梅原の提案
「なあ、真人ー」
昼休みに梅原が俺に絡んできた。まあ、こいつがだる絡みするのはいつものことか。さほど気にするような程のことでもない。
「なんだ梅原。自動販売機の下から小銭でも見つけたか?」
「んなわけねえだろ! そんな所探さねえよ! お前、俺を何だと思ってんだ」
「じゃあ、公園の茂みの中にエロ本でも見つけたか?」
「あ、それはちょっと欲しい」
実は俺も欲しい。まあ、梅原とは女の好みが合わないからな。こいつが気に入るような本ならいらない。梅原はブス専の気があるのか、俺がブスだと思ってる女優を可愛いとか言ってるし。目が腐ってるんじゃないかと疑いたくなる。
「真人ー。上条をさ、遊園地に誘ってくんね?」
「断る。何で彼女持ちの俺にそんなことを頼むんだ」
「話は最後まで聞いてくれよ。俺さ、上条とデートしたいんだよ。でも上条はお前のことが好きだろ? だから、ダブルデートという形に落とし込みたい」
なるほど。ダブルデートか。余計なのは二人付いてくるけど、二宮さんとデート出来るのは悪くはない。二宮さんは人見知りな性格だし、あんまり俺以外の人と関わろうとしないからな。彼女の人見知りを直してあげたい気持ちもあるし、いいかもしれない。
「まあ、そういうことならいいか。その代わり、上条の面倒はお前がきちんと見ろよ。後、二宮さんに手を出そうとしたら殺すぞ。顔面が変形するまで殴るぞ? もしくは、玉を片方握りつぶすぞ」
「心配すんな。俺は上条一筋だ。後、玉だけはマジでやめろ。シャレにならん」
まあ、よくも上条とデートしようだなんて気になったよな。まあ、俺としては上条と梅原がくっついてくれれば、それでいいんだけどな。上条に彼氏が出来れば、俺と二宮さんの邪魔をされなくなるし。案外、このデートは俺達にとっていい方に作用するかもしれない。
「わかった。二宮さん上条に相談してみるよ」
「頼むぞ真人! お前だけが頼りなんだ」
「おお、任せておけ」
俺は友人の梅原の願いを安請け合いしてしまった。まあいいか。俺らにも一応メリットはある話だし。
というわけで俺は上条の席へと向かった。上条は人気者らしくて、クラスの女子が彼女の周りに集まって会話をしている。今は会話を邪魔しない方が良さそうだ。後にしよう。
代わりに二宮さんの所へと向かう。彼女は相変わらず一人のようで、あまり友達もいないようだ。
「二宮さんちょっといいかな?」
「なに? 東郷君?」
「実はさ、遊園地に遊びに行きたいんだけどどうかな?」
「え? そ、それってデートの誘い?」
二宮さんの顔がわかりやすく赤くなる。本当にすぐに表情に出る子だ。俺はそこまで二宮さんに想われていると考えると、なんだか幸せな気持ちになった。けれど、これは単なるデートではない。折角のデートなのに俺と二人きりではないのは何だか申し訳ない。
「デートって言うより、ダブルデート? 梅原と上条も一緒に行く予定なんだ」
隠しても仕方のないことだし正直に話す。さっきまで、見るからにニヤついていた二宮さんの表情が少し落ちた。
「東郷君と二人きりじゃないんだ……」
「ごめんね二宮さん。いつか二人きりで遊園地行こうね」
「本当? 約束だよ?」
俺は上手いこと次のデートの約束を漕ぎつけることが出来た。これはこれで楽しみだ。
「えっと……上条さんも来るんだよね?」
二宮さんは少し不安そうな顔をしている。無理もないか。上条は俺達にとって天敵みたいなものだ。上条は獰猛な肉食獣。それに対して二宮さんは大人しい草食動物のようなもの。怯えるのはわかる。
「大丈夫だよ二宮さん。上条の相手は梅原がするらしい。それに万一、俺達に危害を加えようとしても、俺が必ず守るから」
「うん……そう言ってもらえると安心する。ありがとう東郷君」
二宮さんは来てくれるそうだ。後は上条か。適当な隙間時間を見つけて話しかけてみるか。
◇
昼休みも終わって、掃除の時間になった。俺と上条は運よく教室を担当することになった。これで話しかけられるチャンスは出来たわけだ。
「なあ上条。ちょっといいか?」
「真人君。今は掃除の時間だよ。話は後でいい?」
こいつ真面目に掃除する気か? 学校の掃除を真面目にやる奴なんて初めて見たわ。と、小学生の頃から掃除の時間は友人とふざけることにしていると決めている俺は思った。
「なんだよ。折角遊園地に誘ってやろうかと思ったのに」
その言葉を聞いた上条の耳がピクっと動いた。
「え? 本当? 真人君と一緒に遊園地行けるの?」
「まあ、二宮さんと梅原と一緒だけどな」
「チッ……梅原君はともかく、二宮さんも一緒なのね」
上条はあからさまに機嫌が悪くなった。それもそうか、上条はまだ俺のことを狙っている。上条にとって、二宮さんはとにかく邪魔な存在でしかない。
「二宮さんがいなければ行きたいなー」
「バカ言うなよ。二宮さんが来ないなら俺も行かねえぞ」
「じゃあ行かない」
「何でそうなるんだよ!」
梅原に「任せておけ」と言ってしまった手間、上条を引っ張ってこれないのは非常に都合が悪い。俺と二宮さんと梅原の三人で遊園地……? 気まずい。梅原に気を遣って、二宮さんと平然とイチャイチャ出来ないじゃないか。
「じゃあ、お化け屋敷一緒に入って」
「ん? ああ。そんなんでいいのか? 二宮さんホラー苦手だから別にいいぞ」
「ありがとう。じゃあ行ってあげる」
何で上から目線なんだこいつは。まあいいや。とにかく、梅原と男の約束を果たせた。俺もホラー系統は好きだからな。そういう意味では上条がいてくれて助かった。お化け屋敷を楽しむことが出来るし。ホラー苦手な二宮さんと二人きりならお化け屋敷いけないからな。
そうして、俺達はお互いの日程をすり合わせて、今度の日曜日に遊園地に行くことになった。余計なのが二人付いてきてるとはいえ、二宮さんと遊園地デートか。楽しみだなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます