第10話 最初に好きになったのは私の方なのに
私は上条 奏。自分で言うのも難だけどこの学年で一番可愛いと思う。小さい頃から自分の容姿には自信があった。お母さんは昔、劇団の看板女優を張っていたし、お父さんも背が高くて格好いいと思う。そんな二人の両親の間に恵まれた私は、二人の顔のいい所を引き継いだのだ。
何だかんだ言って一番楽しかったのは幼稚園の頃だと思う。この頃はまだ、男子だの女子だのと言った違いを意識するような年齢じゃなかったから。小学校にあがり、学年が上がるにつれて、私は自身の容姿の凄さを思い知ることになった。
初めて告白されたのは小学校四年生の頃、違うクラスの男子に呼び出されて告白された。何で私のことが好きなのかわからなくて断った。だって、その男子とは一度も喋ったことがないのに。私は急に告白されて戸惑った。
私は何であの男子が私に告白してきたのだろうと考えた。答えは鏡の中にあった。そう、私は顔だけで男子を惚れさせていたのだ。
それから男子の動向をチェックしてみた。皆、どこかしら私を意識しているのがわかった。私は少し発育が早くて、その頃から既に胸が膨らんでいた。会う男子みんながみんな私の胸をチラっと見ては目を逸らすのを繰り返す。
私は全男子から意識される存在。そう思っていた。東郷 真人君に出会うまでは……
真人君は決して私をチヤホヤしなかった。他の男子は皆私に気を遣うのに対して、真人君だけはぶっきらぼうな態度でそれがたまらなく悔しかった。
初めての感覚。私が男子に好かれないなんてあるわけがないと思っていた。その日から私は真人君を意識するようになった……
今日はそんな真人君と一緒にカフェでデートする。真人君はこれはデートじゃないと言い張っているけど、男女二人がカフェでコーヒーを飲むなんて歴としたデート以外ありえない。少なくとも私はそう思っている。
今日は絶対に真人君との仲を進展させてみせる。この機会を逃すものか。だって、私の方が真人君のことが好きななのに、二宮 舞とか言う泥棒猫が真人君を奪うから。
好きだった期間は絶対に私の方が長い。好きの量だって私の方が上な自信がある。あのブスは所詮、真人君に言い寄られたから好きになっているだけだ。一番真人君を愛しているのが誰か、それを教えてあげれば真人君の目だって覚めてくれるはず。
認めたくないけど、真人君はブス専だ。美人の私に見向きもしないで、二宮さんという顔が不自由なお方を好きになっているくらいだから。
今朝はその確認もした。真人君は堂々と二宮さんの顔が好きだと言った。それがたまらなく悔しかった。
例えば学年で二番目に可愛い子に負けるならまだ納得は出来る。いくら私が可愛いからと言って、人には好みというものがある。私が負けるということもありえるだろう。
だけど、学年で一番のブスが私に勝つなんてそんなことあっていいはずがない。柔道のオリンピック選手が試合で小学生に投げ飛ばされるくらいありえないことだ。
私にも美人のプライドがある。だから、二宮さんには絶対に負けたくない。
そんなことを思っていると、カフェに辿り着いた。
「じゃあ上条。好きなの頼んでいいぞ」
「え? 本当にいいの? でも奢ってもらうから悪いよ。ホットコーヒーでいいよ」
流石にここは謙虚さを出しておこう。本当は、トールソイ抹茶クリームフラペチーノライトシロップウィズチョコレートチップエクストラパウダーが飲みたかったけど、そんなものを頼んだら真人君に嫌われると思う。
「そうか。じゃあ俺は、トールソイ抹茶クリームフラペチーノライトシロップウィズチョコレートチップエクストラパウダーで」
真人君が頼むんかい!
「真人君凄いね。呪文をそんなスラスラ言えるなんて」
「いつも梅原と一緒に来ているからな」
良かった。男友達の梅原君で。もし、二宮さんと一緒に来ているって言ったら嫉妬で頭が狂いそうだ。
「二宮さんと来たりはしないの?」
「二宮さんはこういう洒落た雰囲気の店は苦手らしい。だから、あんまりここには来ようとは思わないな」
「真人君はこういう雰囲気のお店好きなんでしょ? 私だったらいつでも付き合ってあげるのにな」
ここで理解力のある彼女アピールをしておく。二宮さんと一緒では楽しめないことも私なら楽しめると思わせるのは有効な作戦だ。私の方がいい女だってわからせてあげないと。
「んーまあ。二宮さんを無理矢理連れ出してでも来たい店じゃないしな。たまに梅原と行く程度で十分だ」
おのれ梅原。羨ましいぞ梅原。
「お待たせしました。こちら、ホットコーヒーとトールソイ抹茶クリームフラペチーノライトシロップウィズチョコレートチップエクストラパウダーです」
「さあ、これ飲んだらさっさと帰るぞ」
真人君はやっぱり二宮さんに後ろめたさを感じているのかな? そこまで思われている二宮さんが妬ましい。私だって、真人君に気にかけて欲しいのに。
「えーゆっくりしていこうよ」
私は真人君と二人きりでカフェにいるという幸せな時間を一秒でも長く感じていたい。だからギリギリまで粘ってみせる。
真人君が注文した例の品に口を付ける。一方私はまだコーヒーに口をつけないでいた。
「飲まないのか?」
「私、猫舌だから冷めるの待ってるんだ」
もちろん嘘である。じゃあ最初からホットを頼むなという話になるからね。私はこのホットコーヒーを頼むことで少しでも時間稼ぎがしたかった。それが乙女心というやつだ。
「そういうことなら仕方ないな。冷めるまで待つか」
やはり真人君は優しい。というか騙されやすい。
「ねえ、真人君はどんな性格の子が好みなの?」
顔は生まれついてのものだ。直すことは出来ないだろう。だけど、性格ならいくらでも矯正することは出来る。私は真人君の好みに少しでも近づきたかった。所詮、真人君は二宮さんの外見に惚れているだけだ。中身まで惚れているわけではない。付け入る隙があるとすればそこだ。
「俺は面食いだからな。あんまり性格とか考えたことないな」
その回答をされてはどうしようもない。でも引き下がるわけにはいかない。
「な、なんか一つくらいあるでしょ。優しいとか気が利くとか明るいとかサバサバ系とか?」
「んー強いて言うなら一緒にいて楽しい人かな」
漠然としているけど、真人君を楽しませれば私にも希望はあるかもしれない。
「私なら……真人君を楽しませられると思う! 真人君が行きたいところに行くし、やりたいことさせてあげる」
「うーん。そういうんじゃないんだよな。俺だけが楽しみたいんじゃなくて、二人で一緒に楽しみたいだろ? 一人より二人で楽しんだ方が倍楽しいって」
うぅ……結局真人君を満足させられる答えは出せなかった。その後も会話はあまり弾まず、私は惨めな思いをするのであった。
結局何の収穫も得られないまま、解散ということになった。折角のチャンスを無駄にした感が否めない。でも諦めない。必ず二宮さんから真人君を奪ってみせる。私の女のプライドに賭けて。
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