第7話 謝罪
朝のホームルームが終わった後、俺は先生に呼び出された。理由はもちろん上条の件についてだ。
「さて、東郷。何があったかを訊こうか。上条とどうして揉めたんだ?」
「はい。実は、俺は前に上条に告白されたことがあるんです」
「え? マジ!? 上条がお前に?」
その発言に先生は目を丸くして驚いた。そんなに驚くようなことか。
「ええ。その後、俺は当然振りました」
「当然!? え? ちょっと待って。お前本当に上条を振ったのか?」
先生は念を押して訊いてきた。上条を振るのがそんなに不自然なことなのだろうか。俺には理解出来ないな。
「えっと。まあいいや続けてくれ。話の腰を折って済まなかったな」
「はい。その後、俺は二宮さんに告白しました」
「おま……チャレンジャーだな」
先生の言いたいことはわかる。学年一の美少女である二宮さんに告白なんてチャレンジ以外の何物でもない。普通は相手にされないか断られるかのどっちかであろう。だけど、俺は見事に二宮さんの彼氏の座を勝ち取ったのだ。
「そして、俺達は付き合うことになったんです。そしたら、上条が絡んでくるようになったんです」
「ん? 上条を振って二宮と付き合う……? ん?」
先生は何か合点がいかないようだ。そんなに不自然なことしているかな? 俺。
「上条は俺に嫌がらせをしてきたんです。そしたら、二宮さんが怒って上条に突っかかったんです」
「へー。あの大人しい二宮がなー。お前のためにか」
「そしたら、上条の奴が酷いんです。二宮さんに向かってブスって。それで俺頭に来ちゃったんです」
「まあな。付き合っている彼女をブスって言われたらそりゃ怒るわな」
「そして、俺上条に向かってお前の方がブスだって言ってしまったんです。そしたら、アイツが教室から出ていきました」
「お前……上条に向かってブスって言ったのか?」
先生は恐ろしいものを見るような目で俺を見ている。
「そりゃそうでしょう。顔はともかく、二宮さんに対する暴言が許せなくて……俺、本当は上条にブスって言いたくなかったんです。でも、あの時は二宮さんを傷つけられて頭に血が上ってしまって」
俺は頭を抱えた。何でこんなことになってしまったんだろう。あの時、俺が我慢していればこんなことにはならなかったのか? でも、大切な彼女を傷つけられて黙っているなんて俺には出来ないし。どうすれば正解だったのか俺にはわからなかった。
「そうか……そんなことがあったのか。東郷。どんな事情があったにしろ、女子に面と向かってブスだなんて言うもんじゃないぞ」
「はい。反省してます」
「先生が後で上条にも話を通してやる。お互い謝罪をして、それで終わりにしよう。さあ、東郷、そろそろ一時限目が始まる。急いで支度しろ」
「はい」
俺は結局、もやもやした気持ちのまま授業を受けた。そんな状態ではまともに集中出来るはずもなく、先生の話す内容の殆どを聞き流していた。あ、これはいつものことか。
一時間目の終わりの休み時間に上条は戻って来た。周囲の人間は皆上条のことを心配して、すぐに彼女に駆け寄る。上条は顔の割には結構周囲の人間には人気あるんだよな。友達が多いというか、腰巾着が多いというか、そんな感じだ。
「みんなごめんね。ちょっとどいてくれる?」
上条はそう言うと彼女に集まった人だかりは横に避ける。そして、上条はそのまま二宮さんの席へと向かっていった。
クラスの皆がざわめく。上条と二宮さんの今朝の喧嘩を見ているので、また一波乱あるんじゃないかと野次馬が集まってくる。
「二宮さん」
「は、はひぃ」
二宮さんはすっかり上条に対して怯えてしまっている。本来、二宮さんは小動物のように心臓が小さい子なんだ。心臓に剛毛が生えてそうな上条の相手なんか出来るはずがない。
「上条!」
俺は上条と二宮さんの間に割って入った。この一触即発の空気を彼氏として何とかしたかった。
「真人君……大丈夫。心配しないで。あなたの彼女には危害は加えないから。私はただ二宮さんに謝りたいだけ」
上条も思う所はあったのか、それとも先生に説教でもされたのか、自身の行いを反省しているようだ。
「二宮さんごめんなさい。私、貴女に酷いことを言ってしまった。私、今までブスだなんて言われたことなかったから、この言葉の持つ重みに気づかなかった。この言葉がどれだけ人を傷つけるかなんて知りもしないで……本当にごめんなさい」
上条は二宮さんに深々と頭を下げた。決して形式だけではない心からの謝罪だろう。上条は本当に反省してなければ頭を下げるようなことはしない。形だけの謝罪は屈辱的に感じる。そういう女だ。
「うん。いいよ上条さん。私もう気にしてないから」
「真人君もありがとう。私がどれだけ人を傷つけたか知らしめるために、あえて私にブスだって言ったんでしょ? そうでしょ? でなければ、美人の私にブスだなんて言うはずないよね?」
俺が深く考えずに発した言葉を上条は曲解しているようだ。そんな意図はなかったけど、そうだって言った方がこの場は丸く収まりそうだからそうしておこう。上条が美人であるかどうかは一先ず置いとくとして。
「あ、ああ。その通りだぜ。気づかせるためとはいえ、酷いこと言ってごめんな」
俺も頭を下げる。このまま上条に謝らずにいたら、それはそれで後味が悪いことだろう。この場は全て丸く収まったかのように思えたが……
「やっぱり真人君の発言の真意を理解出来る私が、真人君に相応しい女だと思わない?」
急に上条が自分をアピールし始めた。周りの視線が痛い。何か浮気男を見るような視線で俺を見ないでくれ。俺だって好きで上条に言い寄られているわけじゃない。
そうこうしている間に次の授業の時間を知らせるチャイムが鳴った。一先ず、この場では上条の口説きを回避することが出来た。俺は今日ほど授業に感謝した日はなかった。
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