第3話 上条の嫉妬
翌日、俺は朝早く登校した。理由はもちろん同じく朝早くから来ているであろう優等生の石橋に会うためである。朝早い教室は殆ど生徒がいなくて、石橋しか教室にはいなかった。昼間の騒がしい教室とは違い、静かなその空間は少し新鮮な気持ちになる。
「よお。石橋おはよう」
「おはよう東郷君。キミが早く来るなんて珍しいね」
俺は石橋の肩に手を回す。
「よお、石橋君。俺ら友達だよな?」
「う、うん。クラスメイトだね」
石橋は俺が何かしでかすんじゃないかと思ってびくびくしている。はっはっは、そんなにビビらなくても別にとって食うつもりなどないのに。
「俺さ、昨日の英語の宿題やってないんだよね? だから、石橋君の奴写させてくれないかな」
「ん? そんなことでいいの? はい」
「おお! ありがとう石橋! 心の友よ!」
こいつチョロいわ。こんなにあっさり写させてくれるとは思わなかった。真面目そうな顔をして物分かりがいい奴だ。
俺は石橋のノートを借りて、ささっと宿題を済ませた。いやあ、持つべきものは大して仲のよくない友達だなあ。
「サンキューな石橋。お陰で助かったわ」
「気にしなくていいよ」
その後、することがなくなった俺はスマホを弄り始めた。最近入れた漫画アプリにハマっていて、一作品につき、一日一話無料で読める形式を取っている。俺は今日の分の漫画をこの空き時間を利用して読むことにした。
漫画を読み終わった頃には生徒の殆どが来ていた。来ていない奴と言えば不真面目でいつも遅刻ギリギリに来るような奴らばかりだ。
ふと二宮さんの席の方を見る。二宮さんは既に席に付いていて一人で本を読んでいる。参ったな。漫画アプリに夢中になりすぎて、二宮さんが入って来たのに気づかずに朝の挨拶をしそびれた。今からでもしに行くか。
「二宮さんおはよう」
「あ、東郷君おはよう……」
「何の本読んでるの?」
「えっとね……これ恋愛小説なんだ」
「へー。二宮さんは恋愛小説が好きなんだ。何だか可愛らしいね」
俺のその言葉に二宮さんの耳が真っ赤になった。なんだこの反応は。可愛すぎじゃないか。
「それさ、俺も読んでみたいな。読み終わったら貸してよ」
「えっと……いいけど、これ女性向けだから東郷君が呼んでもあんまり面白くないかも」
「面白いとかそういうのは求めてないさ。俺はただ単に俺が好きな人がどんなものが好きなのか知りたいだけなんだ」
「うぅ……東郷君。それ反則だよ……」
二宮さんは真っ赤になった顔を本で隠して俺に視線を合わせないようにしている。その仕草がとても愛らしくてそそる。
「えっと……今日の放課後までに読み終わるから待っててね」
「そんな急がなくてもいいって」
「私、友達とかあんまりいないから、休み時間いつも一人。だから本を読むことくらいしかすることないんだ。だから順当に行けば読み終わる」
「二宮さん……一人だなんて寂しいこと言わないでよ。俺がいるじゃないか! 休み時間は俺と一緒に話して過ごそう!」
「え? 本当? 本当に私と話してくれるの?」
「当たり前じゃないか。俺達付き合ってるんだからさ」
次の瞬間、始業を告げるチャイムが学校中に鳴り響いた。そろそろ席に付かないと先生が来る。
「それじゃ二宮さん。休み時間必ず行くから」
「うん……ありがとう」
朝のホームルームが始まる。退屈な時間だ。先生が出欠確認を行った後に、軽い連絡事項を伝えて、何らかの係の者が連絡事項があれば発表するだけの場。特に面白いことなど何もない。
「では、出欠確認を取る。いない人手をあげろー」
先生のお決まりのギャグが炸裂する。最初の頃はユーモアある先生だと思ったが、何度もやられると流石に寒い。中年というのはどうしてギャグがしつこいのだろうか。高名な学者が研究して学会で発表して欲しいくらいだ。
ホームルームも無事に終わり、一時間目の授業が始まる。一時間目の授業は英語だ。俺はハッキリ言って英語が嫌いだ。国語も嫌いだし、理科も嫌いだし、社会も嫌いだし、数学も嫌いだ。好きな教科を聞くやつはハッキリ言ってナンセンスすぎる。教科全て嫌いな人のことを考えてないからな。
俺は英語の授業の内容を殆ど聞き流した。俺はそれで問題ないと思っている。何故なら聞き流すだけで英語を覚える勉強法があるくらいだからな。真面目に授業を聞く必要なんてないのさ。
授業の終わりに先生が宿題の回収をする。俺には石橋という大して仲が良くないのにも関わらず宿題の答えを見せてくれる最強の友達がいるからな。それで今日も乗り切る。
授業も終わり休み時間。次の授業の準備を手早く済ませて俺は二宮さんの所に向かおうとする……が、その道中を上条によって阻まれた。
「真人君。ちょっといい? 話があるんだけど、廊下まで来てくれる」
うわあ……ブスに絡まれたよ。何故か周りの男子に睨まれる。こいつブスの癖に周りの男子に妙に人気があるんだよな。世の中には案外ブス専が多いんだな。
「悪いな上条。俺、二宮さんに話があるんだわ」
「私より二宮さんの方が大事だって言うの?」
「ああ。二宮さんは俺の彼女だからな」
「本当に大事な話なの。来て」
「先に約束したのは二宮さんの方だ、後から割って入らないでくれるか?」
「何それ。そんなに二宮さんが大事なの? その子は真人君の何を知っているって言うの? 真人君の好きな食べ物知っているの? 好きな音楽は? 嫌いな教科を全部言えるって言うの?」
俺と上条が揉めているのを横目で見ている二宮さんはバツが悪そうな顔をしている。二宮さんにあんな顔させるなんて上条は酷い女だな。
「確かに俺と二宮さんはロクにしゃべったこともないかもしれない。俺の好きな食べ物だって二宮さんは知らないかもしれない。けどな、そんなのこれからお互いのことを知っていけばいいだろ。知らないなら知らないなりに、これから知っていく楽しみっていうのがあるんだ」
「もういい。知らない。折角真人君が見たがってた映画のチケットが二枚あるから一緒に見に行こうと思ったのに」
「え!?」
く……正直言って映画のチケットは惜しい。上条だってブスなだけで趣味が合う女友達だから映画を一緒に見に行ったらそれはそれで楽しいだろう。でも、今は二宮さんと付き合っているし、女友達と映画を見に行くのって浮気になるよな……
「二宮さんと一緒に映画行けば。自腹でね」
何故か上条は勝ち誇った顔でこちらを見ている。何故だ! 負けてはいないはずなのに負けた気分になってる。
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