第2話 一緒に下校

「ねえ、東郷君。私と一緒に帰って良かったの?」


 二宮さんが俺に訊いてくる。好きな人と一緒に帰って何が悪いと言うのか。俺は二宮さんと一緒に帰りたいから帰っているだけだ。


「二宮さん。そういうのであんまり気負わなくていいよ。俺達付き合ってるんだしさ。一緒に帰るくらい普通だよ」


「そうかなぁ……でも、東郷君はいつも梅原君と一緒に帰ってたでしょ?」


「あいつはいいよ。小学生の頃からの付き合いだし、その頃から毎日一緒に登下校しているからそろそろ飽きるわ。それにあいつだって俺以外にも友達はいるんだから、そいつらと帰ればいいさ」


「そ、そういうものなの。何だか男子の友情ってカラっとしてるね」


「男同士があんまりベタベタしてて湿っぽいのは逆に気持ち悪いって」


「それは言えてるかもね」


 二宮さんがクスクスと笑った。笑った顔もとてもチャーミングで俺の心を揺さぶる。ああ、こんな可愛い子と付き合えるなんて生きてて良かった。


「ねえ、東郷君はどうして私に告白してくれたの?」


「そ、それは……」


 どうしよう。罰ゲームでしたなんて言えない。でも、きっかけが罰ゲームだったとしても、俺が二宮さんのことが好きだったのは紛れもない事実だ。そこを主張していこう。


「俺は二宮さんのことがずっと前からいいなって思ってたんだ。その……あんまり話したことなかったけど、顔とかタイプで良く見てたし、二宮さんは大人しくて引っ込み思案な性格だし、そういう所も守ってあげたくなるっていうか。なんていうか、好き……」


 自身の語彙のなさに吐き気を催すレベルだ。ああ、二宮さんをどれだけ好きか伝えたいのに残念ながら俺の言語能力ではこれ以上表現しようがない。もっと本を読んで文章力を鍛えておくべきだった。


「え……か、顔がタイプ……? 私、こんな顔なのに……?」


 二宮さんが首を傾げている。ん? どういうことだ。二宮さんは自分のことを美人だって思っていないのかな? なんて奥ゆかしくて謙虚な子なんだ。ますます好きになってしまう。


「そ、その……東郷君にはもっと素敵な子がいると思うんだ」


「え? それって俺をフってるってこと……?」


「え? ううん違うの! 東郷君さえ良かったら全然私と付き合ってほしいっていうか私からお願いしたいくらいなんだけど……私じゃ東郷君とつり合い取れてないよ……」


「そんなことない! 二宮さんはとても魅力的で俺にはもったいないくらいの美人だよ。むしろこっちが二宮さんとつり合いが取れる男になれるようにしっかりと男を磨きたいくらいだよ!」


 二宮さんは自分に自信が持てないタイプなんだ。鏡で自分の顔を見たことないのかな? こんな美人ならもっと自信に満ち溢れていてもいいと思うけど。


 二人並んで歩いていた俺達だが、交差点のところで二宮さんが止まった。


「あの……私、こっちの方向だから」


「あ、そっか。それじゃあここでお別れだね」


「うん。またね」


 俺に向かって手を振る二宮さん。可愛い。俺も名残惜し気に手を振り返す。幸せな時間はもう終わった。今日はもう家に帰って飯食って寝るだけだ。宿題? そんなものやる必要ある? 友達に写してもらえばいいだろう。宿題を真面目にやってテストでいい点数を取るなんてバカのすることだぜ。


「真人君……?」


 俺の背後から声が聞こえた。このブサイクな声は聞き覚えがある。俺に告白してきたブスの上条だ。下の名前は忘れた。俺はブスの名前は出来るだけ覚えときたくないからな。ブスの名前を覚えるくらいなら徳川家十五代将軍の名前全部覚えた方が有意義ってもんだ。まずは初代が家康だろ。二代目は秀忠で三代目は家光で四代目は家綱。五代目は忘れた。忘れたってことは大して有名じゃないんだろう。


「真人君。あなた、二宮さんと一緒に帰ってたけどどういうこと? 彼女と一緒に帰って付き合っているとでも噂されたいのかしら?」


「噂も何も実際に付き合ってるぞ。俺達は」


「え?」


 上条が間抜けな顔をする。ブスが不意に間抜け面見せるなよ。思わず吹き出してしまいそうになるじゃないか。


「何で? 何で二宮さんと付き合ってるの? 私のことはフッたのに? 何で?」


「いや、二宮さんと上条だと顔は雲泥の差だぞ」


「わかってるよそんなこと! だからどうして」


 ん? 何だか妙に会話が噛み合わない気がするな。何だろう。もしかして、こいつ自分が二宮さんより可愛いと勘違いしてらっしゃる? うわあ……よくいるんだよね。こういう自分を可愛いと思い込んでいるブスって。


「もしかして、私への当てつけのつもりなの」


「何でそうなるんだよ……俺はただ、純粋に二宮さんが好きだから告白して付き合ったんだよ。文句あるか?」


 上条は正に開いた口が塞がらないと言った感じだ。俺、おかしいこと言っているかな? ブスより可愛い子の方が好きって単純な話なのに、何でこいつはこんなに絡んでくるんだろう。


「私、真人君のこと諦めないから! 二宮さんから奪ってみせる!」


 うわあ……ブスの執着こええ……学年一可愛い二宮さんから彼氏を奪うってどんだけ自信家なんだよ。この学年一のブスは。学年で二番目に可愛いならまだしも、一番のブスだぜ? 冗談きついっすわ。


 折角の二宮さんとの下校デートで楽しい気持ちだったのに、上条のせいでもやもやとした気持ちを抱えながら俺は家に帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る