第65話 減っていく魔女
一歩前に出た僕を見て串間が笑みを浮かべる。どうやらこちらの状況を分かったようだ。
「どうするの? 魔法はもう使えないわよ」
フォルテュナが心配そうに聞いてくるが、そんなのは決まっている。僕自身が魔法を使って串間を倒すんだ。
「前にやっていたやつね。ちゃんと魔法は使えるようになったの?」
そんなのはやってみないと分からない。別に魔法を使うために練習なんてしてないし。
「何で練習しておかないのよ。どんな魔法が使えるのかもわからないじゃない」
こんな状況になるなんて思ってなかったから仕方ないじゃないか。
それに使える魔法は炎の魔法が使えるのは分かっているからそれのごり押しで行くしかない。
串間の方もどうしてか知らないけど、ジェマに身体強化をさせて居なくなっているのでスピードという観点では同じだ。
「ただ、相手は『原初の魔女』の魔法が使えるけどね。何でも良いから無駄打ちさせて充電を切らせる方が良いかもね」
あっ、そうか。串間の方も充電が減って来たからジェマに体を操作させるのを止めたのか。
となると串間が魔法を使えるのも後数回って考えるのがしっくりくる。
「そのあと何回かしかできない攻撃でも一度でも当たれば死ぬかもしれないけどね」
縁起の悪い事を言うんじゃない。
僕も充電が切れるまで逃げるのもありなのかなって考えはあったんだけど、それには僕が串間の攻撃をすべて避けなければならない。
だけどそれは難しいだろうな。なんたって『原初の魔女』の魔法は威力もそうだけど、範囲も広いからそれを避け続けるのは厳しい。
「そんな褒められても」
褒めてないし。
照れ笑いを浮かべているフォルテュナだが、もう黙っていてもらおうか。集中しないとちゃんと魔法が使えないからな。
『
僕たちが話している間に串間が先制攻撃をしてきた。
目の端に串間がこちらに手を向けていたのが見えたので、咄嗟に反応して躱す事ができたが危ない所だった。
「コーリン! 大変よ!」
分かっている。この状況で全然平気何て言う余裕は僕にはない。だから大人しく見ていてくれ。
僕はフォルテュナの事を放っておき、戦いに集中する。
串間があと何回魔法を使えるか知らないけど、先に攻撃をされたら不利だ。
起き上がる手間さえ惜しみ、片膝を付いて僕は串間に狙いを付ける。
『
僕の放った一撃は串間に躱され、後ろにあった荷物を破壊して消えてしまった。
駄目だ。今の威力やスピードじゃあ躱されてしまうし当たったとしても串間を倒すまでにはいかない。
もっと集中して魔力を溜めてからでないと倒せる気がしない。問題はそんな集中できるだけの時間が作れるかどうかだ。
そんな心情を知っているかの如く串間はもう僕に狙いを定めている。
クソッ! 魔力を溜める時間がない。
放たれた土の槍が飛んできて避けようとした僕の足に突き刺さる。
「いってぇぇぇぇ!!」
痛いんだけど直撃しなかった事を喜ぶべきか。だが、これで動き回る事ができなくなってしまった。
僕のふくらはぎからはとめどもなく血が流れている。感覚が徐々になくなってきているのかそれほど痛みを感じなくなってきている。
どうする? 一か八か魔法が飛んでくるまで魔力を溜めて魔法を相殺するか?
駄目だ。そんな器用な事はできないし、魔法に魔法をぶつけたと言って相殺できるのかもわからない。
串間が倒れている僕に向けて狙いを定めてくる。
クソッ! 逃げられない。
それでも何もしないよりはマシと思い、集中して魔力を高める。
ドロッとした魔力が僕の体の中を駆け巡り、それだけで気分が悪くなってくる。
『
串間が風の魔法を僕に放ってきた。ある程度魔力は高める事ができたのだが、この程度の魔力ではだめだ。もっと、もっと魔力を高めないと。
だが、そんな魔力を高めている時間なんて僕にはない。半分諦めながらも目を瞑って魔力を高めることに集中する。
『
僕の前から声が聞こえた。不意に聞こえた声に目を開けてその姿を確認すると、そこには千景の姿があった。
千景には後ろにさがっているように言っていたのに何故?
僕は千景がいただろう場所を見るとモバイルバッテリーが投げ捨てられているのが見えた。
どうやら後ろにいる時に充電していて魔法を使えるようにしたようだ。
「うぅ……。メルヴィナ……ごめん……」
千景がその場に崩れ落ち、スマホに向かって謝罪をしている。
スマホの画面を見ると画面が消えており、どうやら充電がなくなってしまっているようだ。
後ろにさがっている間に充電した分で今の攻撃を防いでくれたんだろう。
千景を……。僕の妹を泣かしたな?
千景は小さい頃は確かに泣き虫ではあったのだけど、こんな悲しそうに泣く千景を見るのは初めてだ。
絶対に許さない! 千景がメルヴィナと別れもせず僕を助けてくれた意気に答えるためにも、千景を泣かせた罰を与えるためにも。
僕は途中まで高めていた魔力を再び高め始める。
体の中を流れていた魔力が右手に集まってくる。この一撃で終わらせる。そう心に決めると魔力がどんどん集まってくる。
もうこれ以上は無理だと思えるぐらい高めた魔力を使って魔法を詠唱する。
『
千景を泣かせた恨みをぶつけるように僕に使える最大の魔法が右手から放出された。
『
僕の魔法を防ぐため、串間が防御魔法を使うのだが、僕の魔法は防御魔法すら破壊して串間の所に着弾する。
多分だが、僕の魔法の威力が串間の予想より高かったのと充電がそこまで残っていなかったのが原因だろう。
見事着弾した魔法は巨大な炎を上げ、周りにあった物をすべて燃やし溶かし始めている。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
炎の中から串間の悲鳴が聞こえる。どうやら今回の魔法を防ぐ事ができなかったようだ。
串間を本当に倒せたかどうか確認できないが僕は体の中の魔力を全部使ったためだろうかその場に崩れ落ちてしまった。
「凛兄! 大丈夫!?」
泣いていた千景が僕の異変に気付き、近寄ってきてくれた。
何とか大丈夫。千景のお兄ちゃんはこんな事で死んだりはしない。
それよりも千景を泣かせた奴に一発ぶち込んでやれたほうが嬉しい。
「あの人はどうなったの? 魔女はいなくなったの?」
僕も串間がどうなったのか確認はしていない。轟々と燃えていた炎が治まり、魔法が着弾した場所を見るが串間の姿はない。
多分だけど僕は人を殺してしまったのではないだろうか。
怒りに任せた一撃だったとはいえ、人を殺してしまった事で罪悪感が僕を襲ってくる。
これで神前に告白の返事をする事ができないな……そう思っていた時、
「うぅ……」
串間がいた場所から離れた所で声が聞こえた。慌てて声のした方を向くとそこには黒焦げになった串間がいた。
魔力の使い過ぎで上手く動かない体を千景に支えてもらいながら串間の所に行くと体中にやけどを負っているがまだ生きているようだ。
良かった。僕は人を殺していなかった事に安堵した。
串間の手を見ると手に持っているスマホは画面が割れ、炎の熱で形が崩れ画面が暗くなっていた。
「これってスマホの電源が切れてるよね? って事は魔女はもう居ないって事?」
そうなるだろうな。防御魔法を使ってスマホの充電が切れたのか、僕の魔法を受けた影響で壊れたのか分からないけど、スマホの電源が入ってないのは分かる。
「良かった。メルヴィナが消えちゃった意味があったって事ね」
あぁ、千景が助けてくれたおかげで串間を倒す事ができた。
少し休んだおかげで何とか一人で立てるまでになった僕は千景の頭を撫でてあげると嬉しそうな顔をしている。
「この人はどうするの? このままにしておくの?」
正直言えばこのまま放置しておいてしまいたいという気持ちもある。
でも、折角人殺しをしなくて済んだんだ。このまま串間を放置しておいて死なれてしまっては気分が悪い。
僕はスマホを取り出して病院に連絡しようとした所で倉庫の中に声が響いた。
「前よりも魔法を使えるようになってるわね。もう逃がさないわよ」
暗がりの中から姿を現したのはリリーさんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます