第64話 串間の猛攻
「魔女を渡してくれる気は……なさそうだな。それじゃあ実力行使で魔女を渡してもらうぞ」
串間がとんでもない速さで僕たちの方に迫ってきた。
ハリンのスピードもとても人間とは思えないほど速い物ではあったんだけど、串間のスピードはそれ以上かもしれない。
「うわっ!」
千景が蹴り飛ばされたと分かったのは千景が僕の隣から消えて少し経ってからだった。
「魔女を二人持っているって事はこんな事も簡単に出来るんだ」
僕の方に手を向けてきた所で咄嗟に両腕を上げてガードをしたが遅かった。
『
ガードの上から氷の塊が直撃し、千景と同じように吹き飛ばされてしまった。
魔女を二体持っているって事は充電もあまり気にする事なく、どんどん魔法を使って行けるって事か。
「察するにジェマに体を操作させて、イリーナに魔法を使わせてるって所なんじゃないかな」
『原初の魔女』に操作されると一気に廃人になってしまうって事だからそんな感じだろうな。
本人も言っていたが串間は本当に人間を止めてしまったらしい。となるとさっきの発言は串間の発言と言うよりジェマの発言って事になるのか。
「そうなるわね。でも体を操作されてすぐにここまでの力が出せるって事は本院もその世界を望んでいたからって事にもなるんだけどね」
単に操作されるってだけじゃなく、相性も良かったって事か。
でも、これは厄介だな。こっちも魔女が二人いるんだけど、串間のように充電を気にせずなんてことはなかなかできないし。
それなら千景の魔女を貸してもらってって事も考えられるがそうなると千景を守る人がいなくなってしまう。
「やらないのが正解よ。二人の魔女を同時に使うなんて本来なら体も心も持たないわよ」
それができるのは人間を止めてしまっている所以か。
僕が誇りを払って立ち上がると千景も同じように立ち上がった。どうやら千景の方も無事のようだ。
それにしてもあのスピードは厄介だな。僕はフォルテュナに操ってもらう事ができないので、前に神前がやっていたように千景に牽制してもらってその間に僕が魔法で仕留めるしかない。
僕が千景の方を見ると千景も意図が分かったようでコクリと頷くと凄いスピードで串間に向かって行った。
ハリンの時は上手く行かなかったけど、今度は失敗する事はできない。
「どうするの? 前の時みたいに大きいの一発ぶちかますの?」
あまり手数を掛けたくないからな。それに千景をあまり長い時間、魔女に操作されている状態にしておくのも危ない気がする。
「それじゃあ充電をかなり使っちゃうけど良いわよね?」
大きい魔法を使うんだ仕方がない。充電をケチって串間を倒せないよりはいいだろう。
だが、ハリンよりも速い串間を簡単に捉える事はできない。
これではだめだ。串間の動きを予想しなければ。そう思い、顔を動かす事なく、目だけで串間の動きを追ってみる。
そうすると上下左右自由自在に動き回る串間の動きにある法則があるのが分かってきた。
それは串間が千景に攻撃した後、必ず距離を取ると言う事だ。
串間本人の性格なのか操っているイリーナの性格が出ているのか分からないけど、必ず距離を取るのだ。
左右に体を振りながら串間が千景に攻撃をしてきた。ここだ! この後、必ず串間は距離を取るはず。
僕は串間が来るであろう場所にあらかじめ手をかざして待っておく。
すると僕の予想通り、串間は千景を攻撃した後、大きく飛び退いて手をかざした所に着地した。
『
フォルテュナが完璧なタイミングで魔法を行使した。
流石フォルテュナ。こういう所で失敗はしないな。
「私の事を誰だと思ってるのよ。魔女業界一可愛いのフォルテュナよ」
これさえなければ本当に完璧なんだけどな。
スマホの中で胸を張るフォルテュナを放っておいて、串間の所を見ると周囲に大きな火柱が上がっており、倉庫の天井を突き破っていた。
前の時も天井を破壊する火柱を上げたので、これで倉庫の天井には二つ大穴が空いた事になってしまった。
「凛兄、やったの? あれ以上は私も操作されるのは無理そうだったからちょうどいいタイミングだったわ」
多分だけどやったと思う。タイミングは完璧だったし、狙いも予想した所にちゃんと来てくれた。
轟々と燃え盛る炎を見ながら僕は祈っていた。このまま出てくるなと。
だが、そんな僕の祈りなどどこにも届いていないように炎の中から串間が姿を現した。
「そうだよ。これだよこれ! こうやって強い者だけが生き残る世界を作っていきたいんだ」
炎の中から姿を現した串間は両腕を広げて満面の笑みを浮かべている。
図らずも僕は串間が求めている事を実践していたようだ。だが、今は仕方がない。串間を何とかしないとこんな事が世界中で起こり始めてしまうのだ。
「どうするの? あの攻撃で倒せないなんて。私はもうメルヴィナに操ってもらうのは無理よ」
あまり無理をすると精神が壊れてしまうらしいからな。千景には僕のサポートをして貰う事にしよう。
そうなると問題は串間のスピードだ。今の僕たちにはあのスピードに対抗する術がない。
「何とかイリーナの操作を止めさせないとね。それ以外に勝ち目はないわよ」
フォルテュナの言う通りなのだが、その方法が思いつかない。
神前がいればお願いをして時間を作ってもらう所なのだが居ないのだから仕方がない。
何とか串間の動きに付いて行こうとするが、とてもじゃないが人間に対応できるスピードではなく、何度も体が弾き飛ばされる。
それでも何とか生きていられるのはフォルテュナが僕のダメージが少なくなるように魔法を使ってくれているからだ。
「充電があればもっと何とかしてあげられるけど、残りはもう二十パーセントを切ってるから後一回が限界よ」
クソッ! 串間の方はまだまだ余裕そうなのにこっちはもう限界か。
残り一回を防御に使ってしまえば串間を倒せなくなってしまう。
「凛兄、どうするの? 私の攻撃も全く当たらないし」
千景には隙を突いて攻撃をするようにお願いしているのだが、その攻撃は一度も串間に当たっていない。
「どうした? もう来ないのか? じゃあ、ボクがこの世界で一番強いって所を見せてやる」
僕たちの所に向かってこようとした串間だがその動きが止まっている。
どうして? とか考える事は一杯あるが、今は考えている場合ではない。
千景に視線を送ると千景も攻撃を合わせてくれるようだ。
『
『
僕と千景の魔法が同時に放出された。
止まっている串間ならこの攻撃で倒せるはずだ。
『
串間の出した魔法障壁に弾かれ僕と千景の魔法は倉庫の壁を破壊し消えてしまった。
倒せたと思ったのだが、魔法を防御されてたのだ。
クソッ! あれだけ魔法を使っていたらもう防御魔法なんて使えないと思っていたのに……。
「あーあ。イリーナの方の充電を使い切っちまったよ」
串間は持っていたスマホを放り投げると乾いた音を響かせながらスマホが転がった。
スマホの充電を使い切る事に何のためらいもなかったのか……。
「イリーナなんて居なくても問題ない。ジェマさえいれば世界は作りかえられるんだ」
最初に持っていたイリーナを失っても大した反応もしない串間に腹が立ってくる。
でも、これで串間の方も体を操作しての強化はできなくなったはず。
僕の方はもう魔法を使えないけど千景の方はどうなんだ?
千景の方を見ると首を振っている。どうやら千景の方も充電の残りがほとんどないようだ。
「私ももう魔法は使えない。どうしよう凛兄」
これ以上千景を戦わせるわけにはいかない。
千景を後ろにさがらせると同時に僕は一歩前に出た。
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