第五章 魔女のと別れ
第59話 家での話
千景は澤水さんを連れて自分の部屋に戻って行ってしまった。
神前も今日は止まっていくと言う事なので、お風呂に入った後、今後の話をしておく事にした。
「私たちが知っている人以外にまだ魔女を持っている人っているのかしら?」
神前は今思っている事を呟いた。それはボクも非常に気になっていた所だ。
旗持さんと串間、レメイの三人は魔女を持っているのは分かっているが、それ以外に居るか居ないかが非常に重要だ。
何人かの魔女を削除させてもらったのだが、まだ三人以外に魔女は残っているのだろうか。
「そう言えばフォルテュナちゃんって『原初の魔女』なんでしょ?」
僕が他に魔女が持っている人がいるの可能性を考えている間に神前は違う質問をしてきた。
『原初の魔女』って言うのの見分け方は知らないけど、本人がそう言っているので間違いないんだろう。
「旗持さんの持っている魔女も『原初の魔女』だったはずだからあと一人『原初の魔女』がいるのよね?」
そう言えば旗持さんは『原初の魔女』が三人いるって言っていたな。だとするとあと一人はすでに召喚されているか召喚される前に僕たちがサーバーを壊したかのどちらかって事だ。
僕としては後者の方が良いのだが、それは都合がよすぎる話か。
「だとしたら旗持さんたちを探す前に『原初の魔女』を持っている人を探した方が良いんじゃない?」
神前の言っている事は凄く分かるのだが、問題は探す方法が全くない事だ。
『原初の魔女』って言うのが持っているだけで何か禍々しさを感じるような物なら探す事はできるのだが、僕が旗持さんのスマホから何も感じなかったように僕のスマホを見ても神前とかが何も感じないのならやはり探し出す方法はない。
となると今までの今までの魔女たちと同じように偶然、持っている人に会わなければいけないので、運の要素がかなり強い。
「エヴァレットとかの魔法で何とかわからないかしら?」
そう言う事はできないような事を言っていたが、神前はエヴァレットに話を聞くためスマホを見ると「プッ!」っと噴き出してしまっている。
何か面白い物でも見つけたのかと僕も徐に神前のスマホを見ると、魔女たちがメッセージアプリで遊んでいた。
『あなたはまだ会ったばかりだから分からないだろうけど、コーリンには気を付けなさい。あの男は平気で魔女を泣かせてくるわよ』
『魔女を? 大人しそうな顔をしているけどそんなに攻撃的なの?』
『えぇ。エヴァレットなんてひどい仕打ちを受けたわ。見ていた私も背筋が寒くなったもの』
『彼は一体何をしたの? 魔女をそんなに怯えさすなんてなかなかできる事じゃないわ』
『プレゼントと称して水着の衣装を送り付けたのよ。それを着たエヴァレットを見て下卑た笑みを浮かべていたわ』
『私は嫌だったけど、水着を着ないと消すぞって脅されて無理やり……』
『なんて酷い男なの! 人ってやっぱり見た目では分からないのね』
『そうよ。でも、コーリンにも弱点があるわ。その方法を使えば何とか逃げる事ができるわよ』
『何? その方法って?』
『襲われそうになったら履いているパンツを脱いで遠くに投げるのよ。そうすればコーリンはパンツの方に行くからその間に逃げられるわ』
『そんな方法で……。でも分かったわ。危なくなったらパンツを投げ捨てて逃げれば良いのね』
何だこの会話は。メルヴィナに余計な事を教えるなよ。って言うか僕は無理やり水着なんて着せてないぞ。
それにいくら僕でも投げ捨てられたパンツを拾っている間に逃げられるってへまなんて絶対に侵さない。
「そう? 私は良い方法だと思うんだけど」
有り得ないな。大体、スマホの中でパンツを投げたとしても結局はスマホの中だろ? それに逃げるって言ったってスマホの中なんだから逃げられる訳ないじゃないか。
そして何よりその状況になったら僕は素早くパンツを拾ってさらに相手も逃がさないつもりだ。
「パンツを拾うって言うのは否定しないのね……。そっちの方が紅凛らしいと言えば紅凛らしいんだけど」
『アタシはパンツなんて履いてないから大丈夫ね。面倒臭い』
『我が作りかえる世界ではパンツを失くしてやろう。そうすれば誰も危ない目に遭う事がなくなるぞ』
おい、ふざけるな! パンツのない世界なんて空気がないのと同じじゃないか。
「絶対に同じじゃないわ。最悪パンツはなくても生きていけるもの」
と言うか、今の二人だ誰だ? 勝手にグループの中に入って来て会話をしてるんだけど。
僕はメッセージの主が誰かを確かめるために名前を見るとそこには「イリーナ」と「ジェマ」と名前があった。
イリーナは確か串間が持っていた魔女の名前だ。しかも語尾に「面倒臭い」が付いているから間違いないだろう。
じゃあ、「ジェマ」って言うのは誰なんだ?
「おっと、我の紹介がまだだったな。我は『原初の魔女』の一人、ジェマと言う。ここに我と同じ『原初の魔女』がいるであろう?」
『原初の魔女』って言うと旗持さんが持っていた魔女か。
ここに入ってきた狙いはフォルテュナって事か。でもジェマは誰が『原初の魔女』か分かっていないようだから敢えて教える必要はないよな。
『私が『原初の魔女』にして魔女業界一可愛い魔女のフォルテュナよ。私に話があるなら聞いてあげても良いわ』
言わなければ誰が『原初の魔女』だがバレなかったのにフォルテュナは堂々と宣言してしまった。まあ、フォルテュナらしいと言えばフォルテュナらしいのだが。
『フォルテュナ? あぁ、『大罪の魔女』のフォルテュナか。どうだ? 我と一緒に世界を作りかえる気はないか?』
『大罪の魔女』? そんなおどろおどろしい二つ名がフォルテュナにあったんだ。
今までの言動からはそんな怖いようなイメージはなかったんだけど。
『お断りよ。あなたと一緒になって変える世界になんて興味がないもの。私は今の世界が気に入っているのよ』
『そうか。なら無理やりにでも言う事を聞かせるしかないな。サーバーを壊したのもお前たちであろう? そのせいで今残っている魔女は我を含めてここに居る者とあと一人だけだからな』
そうなんだ。今ここに居ない魔女って言うとレメイと言う事になるな。って事は僕たちが出会っていない魔女はいないって事になる。
レメイはこの会話に入って来ていないのでコンタクトを取るのは難しいけど、会話に入って来ている二人なら何とか会う事ができるかもしれない。
『どうだ? 世界を変えたい我と世界を変えたくないお前。どちらの考えがこの世界に合っているか決着を付けようじゃないか』
これは願ってもないチャンスだ。何とか会えるように誘導していくつもりだったけど、向こうから会ってくれるのならその必要もない。
僕はフォルテュナに会えるように話を持って行くようにお願いする。
『良いわよ。受けて立つわ。『原初の魔女』が同じ時期に二人いるだけでも有り得ない事ですもの。私も貴方にあってみたいわ』
どうやら交渉は成立したようだ。この後何度かやり取りを行い、会うのは二日後の夜に街の外れの倉庫でと言う事になった。
「どうやら決まったようね。これで二人を削除できれば残りはレメイだけって事ね」
やっとっと言って良いのか、もうと言って良いのか分からないけど、間違いなく言えるのはフォルテュナたちとの別れが近いと言う事だ。
「ねぇ、明日って何も用事ないでしょ? それならちーちゃんも誘って私たち三人と魔女の三人でどこかに出かけましょうよ」
そうだな。フォルテュナたちと一緒に出掛けるなんてもう出来ないかもしれないからな。
フォルテュナたちにも伝えると飛び上がって喜んでいる。どうやら行った事がない場所に行けるのが嬉しいようだ。
そんな喜んでもらって悪いのだが、まだ行く所は全然決まってないんだよな。
「それならあそこなんでどうかしら? 最近できたって言うアミューズメントパーク。あそこならエヴァレットたちも楽しめるんじゃないかしら」
うん。良いかもな。アミューズメントパークならいろいろな施設があるし飽きる事もないだろう。
神前は早速部屋を出て千景にこの事を伝えるとOKの返事を貰ってきた。
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