第三章 魔女教団
第28話 夜の学校侵入
時間になるまで僕は眠れなかった分を取り戻すように眠っていた。
夏の昼間に寝ると言うのはなかなか過酷な物であったが、エアコンを全開にして寝ていたため意外とぐっすりと眠れた。
夕方ごろ家を出て、待ち合わせになっている喫茶店に入ると、
「いらっしゃいませー」
ノーパンウエイトレスさんの元気な挨拶で席に案内される。こんな時間までノーパンウエイトレスさんは働いているのか。
来ると必ずいるし、大学生だとしたら僕たちと同じように休みだからガッツリバイトを入れているのだろうか。
「お金が必要だからね。頑張ってバイトしないと。今日は騒いじゃ駄目よ。仕事を増やさせないでね」
大丈夫。今日は待ち合わせの少しの時間だけだから騒いだりしない。
って言うか僕はウエイトレスさんにまでマークされている存在なんだ。パンツの事を熱く語っただけなのにおかしいな。
そんな事を考えつつ、アイスコーヒーを飲んでいると神前が姿を現した。
別に制限時間とかはないけど、あまり遅い時間になってしまうと神前が困ると思い、僕たちはすぐに喫茶店を出る。
「ありがとうございましたー」
そんな声と共にノーパンウエイトレスさんが小さく手を振ってくれた。
「何? いつの間にあのウエイトレスさんと仲良くなったの?」
ん? 仲良くなったって感じじゃないけどな。ただ騒がないようにマークされていただけだ。
「まあ、良いけどね。それよりもどうやってサーバーを壊すの?」
それは簡単だ。フォルテュナに魔法を使って貰えば良い。魔法を使ってハードディスクを粉々にしてしまうんだ。
「魔女を増やさないために魔女を使うのか。何か変な感じね」
確かに変な感じだが、一番簡単で一番確実な方法だからな。
学校に着くと以前、串間に教えてもらった窓から中に入る。もしかして修理されてしまっているかとも思ったが、無事(?)壊れたままだった。
学校の中は窓が全部閉まっているため風が通らず蒸し暑いのだが、神前は僕の腕にしがみ付いて来ている。
腕に当たる胸の感触は良いのだが、正直暑いし動きにくいので離れて欲しい。もしかして、怖いのか?
「そんな訳あるはずないじゃない。何かあった時にすぐ体を引っ張って助けられるようによ。私の優しさに感謝しなさい」
そう言う神前は壊れたおもちゃのように首をしきりに左右に動かし、周囲を警戒している。怖いなら正直に言えば良いのに。
神前の歩くスピードに合わせたため、予想以上に時間が掛かってしまったが、無事にサーバー室に着く事ができた。
僕はサーバーのコンセントを抜くと、フォルテュナに石とかでサーバーを圧し潰してしまうような魔法を使うようにお願いする。
「分かったわ。そんなの簡単よ。危ないから少し離れておきなさい」
僕たちはサーバーから少し離れると魔法を使うためにサーバーに向けて狙いを定める。
『
詠唱と共にどこからともなく現れた岩がサーバーの上に落下し、サーバーを圧し潰す。
サーバーが壊れる音が僕たちの他に誰も居ない学校に響くが、これぐらいの音なら許容範囲内だろう。
見事に破壊されたサーバーを確認すると、粉々に砕け、ハードディスクもぺちゃんこになっている。これなら復旧できないと確信する。
「無事に終わったわね。サーバーはどうするの? どこかに捨てて行くの?」
そうしたいんだけど捨てる場所も思いつかないし、このままにしておくかな。
「離れて」
神前のスマホから声が聞こえた。どうやらエヴァレットが喋ったようだ。
何をする気かよく分からないが、僕たちはエヴァレットに従い壊れたサーバーから距離を取る。
『
エヴァレットが魔法を唱えると、黒い闇がサーバーを包み込み、闇と共にどこかに消えてしまった。
あれ? これって旗持を逃がさないようにする時に使った魔法だよな。こんな使い方もできるのか。
『えぇ、魔法でサーバーを異空間に閉じ込めたの。これでサーバーが見つかる事は絶対にないわ』
へぇー。同じような詠唱でもいろいろ使い方があるんだな。で? その異空間とやらはどこにあるんだ?
「知らない」
エヴァレットも分からないのか。サーバーだから良いけど、人に対して使ったら恐ろしいな。
「無事に証拠もなくなったんだし良いんじゃない? それよりも早く出ましょうよ。汗でべちょべちょ」
サウナ状態の学校のせいで神前の服は雨に濡れたようになっている。
よく見ると服の下からピンク色のブラジャーが透けてしまっているのが暗がりでも分かる。
「キャ! 何見てるのよ! パンツ以外興味がないんじゃないの?」
失礼な。これでもれっきとした男子高校生だ。パンツ以外にも多少は興味はある。
「多少って所がもう末期症状よね」
神前が胸を隠しながら冷たい視線を向けてくる。
フン! 良いさ。そんな目を向けるなら腕を貸してやらない。僕がさっさと歩きだすと神前は慌てて謝りながら僕の腕にしがみ付いてきた。
学校を出た所で一息吐く。
「意外と時間が掛かっちゃったわね。それじゃあ家に帰りましょうか」
その原因が神前が腕にしがみ付いてきたからだとは言えず、学校の中が暗かったから仕方がないと言う事にしておく。
これで旗持さんが気付いたとしてもリンクを戻したりはできなくなった。
検索をかけて他にアプリがあるようなサイトは見つけられなかったけど、検索に出てこないようなサイトで公開されていたら分からない。そうなってない事を祈るのみだ。
繁華街まで戻ってきた所で神前とは別れる事になった。
男性として夜の遅い時間に女性を一人で歩かせる訳にはいかないので、家まで送って行くと言ったのだが、
「大丈夫よ。エヴァレットもいるし。何かあったら大声を出して逃げるからね」
そう言って神前は笑顔で家に帰って行ってしまった。本当に送って行かなくて大丈夫なのか心配だが、本人が大丈夫と言うのだから平気なのだろう。
僕は家に着くと汗を流すためにお風呂に入る事にした。
脱衣所で汗まみれになった服を脱ぎ、パンツ一枚になった所で玄関から声が聞こえてきた。
「紅凛! 大変! スマホ奪われちゃった!!」
僕が慌ててそのままの姿で玄関に行くと神前が玄関に座り込んでいた。
「紅凛! 助け……、キャァァァァァ!! なんで裸なのよ!!」
なぜかビンタまでされた。心配で来ただけなのに酷い。
「凛兄。慌て過ぎよ。せめて部屋まで待てなかったの?」
妹よ。この状況を見て僕が我慢できなくて裸になったと思っているのか?
「凛ちゃん。女性は雰囲気を大切にするのよ。玄関だなんて……少し興奮するわね」
止めろ。顔を赤らめるな。母さんが玄関でなんて想像したくない。
神前を見ると顔を隠しているのだが、頬から血が出ているのが分かった。
母さんに治療道具を持って来るようにお願いすると、神前が僕に迫ってきた。
「そんな事より大変なの! スマホ! スマホを教団の幹部の人に奪われちゃった!」
教団? 前に神前が言っていたちょっと変わった宗教団体か。それにしても奪われたなんて……。
あの時僕がちゃんと神前を家まで送って行っていればこんな事にならなかったのに……。そんな後悔に苛まれる。
それにエヴァレットが消されてしまったり、変な事に使われてしまったら拙い。
僕は急いで脱衣所に戻り、スマホを持って家を飛び出そうとした時、
「待って! 私も行くわ!!」
神前から声が掛かった。だが、神前は今、スマホを持っていない。
ただでさえ神前をちゃんと家まで送っていかなかった失態を犯したのだ。ここで神前を連れまわしてしまい、他の事件に巻き込まれたらご両親に申し訳が立たない。
「でも! 私!」
気持ちは分かるが、ここは我慢してもらいたい。
母さんに神前の治療と保護をお願いすると、僕は繁華街に向けて走り出した。何としてもスマホを取り返すんだ。
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