第27話 神前の気持ち
私は一人お風呂に入り考える。
これって紅凛――凛ちゃんが入ったすぐ後じゃないかと。そんな事はないんだろうけど、凛ちゃんの匂いが残っているような気がする。
流石に自分の家ではないので、スマホは持ってこなかったのだけど、こういう時に話し相手が居ないのは寂しい。
お風呂に入ってもやることがないので旗持さんに会った時の事を思い出す。
正直言って私には旗持さんの気持ちが全然理解できなかった。
『本当に分からないの? 素晴らしい世界ないじゃない。強い魔女を持っていれば何でも自分の思う通りになるのよ。もう、ビクビク怯えて夜を過ごす必要もない。人の顔色を見て生活する必要もない』
旗持さんの発言からどうやらイジメだったり、何らか虐げられていたのは分かるけど、旗持さんのやろうとしている事はイジメていた人たちと同じじゃないんでしょうか。
魔女を召喚できるほどのプログラムが作れるのならどうしてもっと違った使い方ができるようにしなかったのでしょう。
それに旗持さんが持っている『原初の魔女』ってのが気になる。
エヴァレットにはそう言う魔女がいるって言うのは聞いていたけど、世界を作りかえるような力を持っているなんて私は聞いてなかった。
旗持さんは私たちの他に十人ぐらい魔女を持っている人がいるって言っていたけど、その中に『原初の魔女』って存在しているのでしょうか。
もし、『原初の魔女』を持っている人がいるなら早く会って……。会って私はどうしたいんだろう……。
その魔女を消してしまうの?
もしかしたら私たちと同じように魔女を悪いように使おうとしてないかもしれない。
でも、旗持さんと同じように何か自分のために使おうとしていたら……。
その時、私は消す事ができるのかな……。
エヴァレットとは今、良い関係が築けていると思う。
だけど、誰かに魔女はこの世界にいちゃいけないからと言われた時、素直に従う事ができるでしょうか。
――できないと思う。だってエヴァレットは何も悪い事をしてないんだもの。
でも分かってる。今の状態が普通の状態じゃないってことを。どこかで必ず区切りを付けなくちゃいけなくなるって事を。
いけない。少しお風呂に長く入り過ぎちゃった。
湯船から上がると軽くクラッと来たけど、すぐに持ち直した。
お風呂を上がり、凛ちゃんの部屋に戻ると私の方をジッと見て来ている。
私はお化粧を全くしてないのを思い出し、恥ずかしくてタオルで顔を隠してしまった。
だけど、凛ちゃんは真剣な顔をして私にベッドに座るように言ってくる。
もしかして、告白の返事をくれるの? それなら私はまだ心の準備が……って思っていたのだけど違っていた。
「今後の話がしたいんだけど」
そんな事なら軽い感じで言って欲しい。しかし、私の気持ちは治まらず、枕を思いっきり投げつけてしまった。
バフッ!
という音と共に枕が凛ちゃんの顔面に当たると少しスッキリした。
「旗持さんが気付いているか分からないが、学校のサーバーを破壊しておいた方が良いと思う」
どうやら凛ちゃんはこれ以上、魔女を持つ人が増えるのを警戒しているみたい。
リンクは削除したからアプリを落とす人は増えないと思うけど、旗持さんが直してしまったらまたアプリを落とす人が出て来てしまうかもしれないのでその案には賛成だ。
少し遅い時間だけど、あらかじめ遅くなるとお母さんに言っておけば大丈夫でしょう。
あれ? 話が途切れてしまい、私と凛ちゃんとの間に微妙な感じの空気が流れる。
何か話さなきゃって思えば思うほど言葉が出てこず、何か恥ずかしくなって俯いてしまった。
でも、何時までも俯いている訳にもいかず、何でも良いから話そうと思い顔を上げて声を出す事にする。
「「あの……」」
言葉を発したタイミングが凛ちゃんと一緒になってしまった。
しかも、顔を上げてしまったので、凛ちゃんと目が合ってしまった。
なんだか久しぶりにこんなにマジマジと凛ちゃんの顔を見た気がする。
何か前よりも精悍になった感じがするのは私の気のせい?
あっ、駄目だ。胸がドキドキしてきた。これ以上、顔を見つめていると心臓が飛び出しちゃうかもしれない。
「わ、私。話していたら湯冷めしちゃったみたい。もう一度お風呂入り直して来るね」
私は咄嗟に出まかせを言ってベッドから立ち上がり、部屋のドアを開けると、お母さんとちーちゃんが飛び込んできた。
どうやら二人は私たちの話を盗み聞きしていたみたい。
「か、母さんは下で寝て居たら物音が聞こえたから来てみただけよ」
お母さんが子供みたいな言い訳をしているが凛ちゃんには効かないみたい。でも、可愛い。
「わ、私は礼華お姉ちゃんに初めての感想を聞こうとしただけで……」
おっと。そこまでよ。ちーちゃんが余計な事を言おうとした所を耳を引っ張り上げて止めた。
本当にこの子は正直すぎて困る。ちゃんと話をするため、ちーちゃんの耳を引っ張りながら部屋を出た。
「ご、ごめんなさい。礼華お姉ちゃん。でも、急に開けるもんだから咄嗟に……」
咄嗟にだったとしても言って良い事と悪い事がある。
しかし少し怒り過ぎてしまったみたい。シュンとしているちーちゃんの頭に手を置いて撫でてあげるとちーちゃんはパッと笑顔を浮かべた。
全く。可愛いんだから。本当の妹みたいじゃないの。姉妹の居ない私はこんな妹が欲しかったのだ。
ちーちゃんに言って聞かせたので、お風呂に入りに行きますか。
お風呂から上がった私は部屋に戻ると凛ちゃんはまだ起きているみたいだった。先に寝てればいいのに。
さっきの事もあり、何も話さない時間があると気まずくなってしまうので、私は部屋に入って止まる事なくベッドに潜り込んでしまう。
流石に何も言わずに寝てしまうと言うのは失礼なので、「おやすみ」と言って寝てしまおうと思ったのだけど、
「おやすみ」
と言って電気を消してくれた凛ちゃんの声が私の耳から離れない。
枕からほんのりと凛ちゃんの匂いがするのと、隣に凛ちゃんがいると思うと、私の体はとても寝付けるような状態ではなく、何度寝返りを打とうが眠る事ができなかった。
結局私は一睡もできなかった。部屋の中が明るくなってくると凛ちゃんが部屋を出て行こうとしていたのでそれについて行く。
「二人ともおはよー。あら? そんなに目の下に隈を作って母さんたちがいなくなってからお楽しみだったのね?」
えっ!? 目に隈? 凛ちゃんが私の方を見てくる。止めて。そんな顔見せられない。恥ずかしい。
私は慌ててパジャマで顔を隠すとお風呂場に駆けこんだ。早くこんな顔を何とかしたいと思い、周囲に注意を払わず急いでパジャマを脱いだのがいけなかった。
キャァァァァァ!!
お風呂の中に誰かの姿を見つけて思わず悲鳴を上げると、相手も同じタイミングで悲鳴を上げた。
慌てて体を隠したけど、良く見るとお風呂に入っていたのはちーちゃんだった。
「何だ。礼華お姉ちゃんか。びっくりさせないでよ」
びっくりしたのは私も同じだけど、急に入ってしまった私の方が悪いのは明らかだ。
ちーちゃんに謝りを入れるとちーちゃんは大丈夫って言って笑って許してくれた。
女同士と言う事もあり、ちーちゃんと一緒にお風呂に入る事になったのだけど、ちーちゃんは意外と大人な体つきをしていた。
ちーちゃんって確か中学生だよね?
「うん。中学二年だから今年で十四歳だよ」
これは末恐ろしい。私は自分の体を見ると将来抜かれる事を今から覚悟しておいた方が良いと思った。
ちーちゃんと髪や体を洗いっこしてお風呂を一緒に出た後、朝食をいただいて私は家に帰る事になった。
「急に押しかけたりして申し訳ありませんでした。どうもありがとうございました」
「良いのよ。また何かあったら泊まりにいらっしゃい。千景も礼華ちゃんの事お姉ちゃんみたいに思っているし」
本当に良い家族だった。こんな良い家庭に凛ちゃんみたいなのが生まれてくるなんて本当に不思議だ。
私は手を振って凛ちゃんの家を後にし、自分の家に帰って行く。
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