第24話 追跡
ボクが繁華街を歩いていると花音の姿を見つけた。ムカつく事に神前さんとまだ一緒にいるようだ。
神前さんもボクに言ってくれれば助けてあげるんだが、何時まで花音の指示に従っているんだろう。早く素直になってボクに助けを求めて欲しい。
ここで颯爽と登場し、花音から神前さんを助け出すと言うのも格好良いのだが、その前に二人がどこに行くのか気になる。繁華街から離れて行っているみたいでもしかしたら人気のない所で花音が神前さんを襲うのかもしれない。
それなら神前さんが襲われている所を助けた方がボクの評価が上がるのではないかと思い、二人の後を付けて行く。
暫く歩くと二人は完全に繁華街から離れ、一棟の倉庫の中に入って行った。
夜にこんな人気のない倉庫に女性を誘い込むなんて花音が神前さんを襲おうとしているのは間違いない。
そう思ったボクは倉庫の中に入って神前さんを助けに行こうと思ったのだが、その足が止まった。
何故なら花音はスマホに夢中になっており、神前さんを襲うような感じがまるでないのだ。
襲うなら早く襲っちゃえよ。そうすればボクが神前さんを助け出せるのに。
それにしても、花音はこんな外れにある倉庫に来てまでスマホか? どれだけスマホ中毒なんだよ。
しかも、花音は何やら独り言を言っているようだ。
「どう……魔女……るんだ」
遠いせいもあって何を言っているのかちゃんと聞こえない。でも、今、魔女って言ったよな?
ボクは花音が誰かに向けて話している方を見ると、暗くてよく見えないのだがそこには人がいるように見える。もしかして花音はあの人物と会話をしているのか?
花音たちに見つからないように物音を立てることなく倉庫の中に入り、壁沿いを伝って姿の良く見えない人物の後ろの物陰まで来て姿を隠す。倉庫が暗いのが功を奏し、見つからずに倉庫の中で姿を隠す事ができた。
遠くからでは暗くて良く見えなかった人物はどうやら女性のようで、後ろから見ると長い髪が揺れているのが分かる。
女性は声を発する事なく、花音が話した後にスマホを操作すると、また、花音が話すと言う事を繰り返している。もしかしてこの女性は声を出す事ができないのか?
女性がなんて返事を返しているのか分からないが、花音の話だけを聞いていて興味深い事が分かった。
この女性は魔女アプリの製作者のようで、どうやらこの世界を魔女を使って作り変えたいようだ。
素晴らしい!!
思わず声を上げそうになったが、何とか堪えたおかげで見つかる事はなかった。
この女性はそんな事を考えて魔女アプリを配布していたのか。なんて素晴らしい考えなんだ。ボクの考えていた事と一致するじゃないか。
ボクもこの世界を魔女を中心とした弱肉強食の世界に変えたかったんだ。そうすれば花音なんかに神前さんを……。いや、神前さんて目じゃない。もっと良い女性が僕に言い寄ってくるはずだ。
そんな世界の事を考えると思わず体がブルっと震えた。
だが、花音にはそんな素晴らしい世界が理解できないようだ。馬鹿な奴だ。製作者が言っている世界の素晴らしさが分からないなんて。
こういう奴ほど魔女に駆逐されてしまえば良いんだ。
『
『
花音と神前さんのスマホから声が聞こえたと思ったら、倉庫一帯が何かに包まれるような感覚があり、元々暗かった倉庫だが、全く周りが見えなくなってしまった。
なんだこれは? 無駄とは思いつつもイリーナに聞いてみる。
「知らないわよ。面倒臭い。何か魔法でも使ったんじゃないの?」
魔法を使ったのは分かる。その魔法が何かを聞きたかったんだけど……。イリーナが今どんな格好をしているのか暗くて分からないが、絶対に寝転がってそっぽを向いているだろう。
ふん! こっちには『リガートゥル』があるんだ。何時だっていう事を利かす事ができるけど今は使わないでおいてやろう。値段が高いしな。
『
また魔法が使われたようだ。今度は倉庫を覆っていた膜みたいなのを破壊する魔法だ。それと同時に周りを覆っていた暗闇も晴れてきた。破壊された膜がキラキラと舞い落ちてくる。
その光景に目を奪われそうになってしまったが、製作者はこの隙に逃げるようだ。
荷物の上に乗っていた製作者は素早く床まで降りると花音たちがいる方と反対の方に走り出した。
こうなると花音たちが製作者を追ってこっちに来てしまうかもしれない。神前さんを助け出すのは後にして、ボクも見つからないように製作者の後に付いて倉庫を出て行く。
ハァ、ハァ、ハァ。
倉庫から結構離れた場所まで走って来たが、花音たちは追ってくる事はない。どうやらうまく逃げられたようだ。
さっきの感じからして製作者と花音たちが決裂したのならボクに付け入る隙はあるかもしれない。ここで製作者と手を組めば――いや、待てよ。
今、製作者は花音から逃げきれた事で完全に油断をしている。これはスマホを奪うチャンスじゃないのか。
ボクのイリーナと製作者の魔女。魔女を二人も持つことになればボクが誰かに負けるなんて事はなくなる。イリーナが言う事を聞かなくても奪った方の魔女に働いて貰えば良いのだ。
どうせ素直に言う事を聞かないイリーナに『リガートゥル』を使い、魔法を使わせる準備をする。
イリーナ。やれ! 製作者のスマホを奪うんだ。
『リガートゥル』が効いているイリーナは抵抗しながらも面倒臭そうな顔をして魔法を行使する。
『
製作者の足元から無数の土の槍が飛び出し、前から後ろからそして、横からと製作者を串刺しにしていく。
馬鹿な。イリーナは一体何をやってるんだ! ボクはスマホを奪いたかっただけなのに。あんな攻撃をしたら製作者が死んでしまうではないか。
「お前が『殺れ』って言ったじゃないか。自分の発言には責任を持って欲しいねぇ。面倒臭い」
ボクは相手を殺せと言う意味で『やれ』と言った訳じゃないのに。
魔法が消えると製作者は自分の流した血の海の中倒れていた。
錆びた鉄のような匂いが鼻腔を刺激するが、不思議と嫌な感じはしない。
それどころか性的な興奮と似たような高揚感がボクの中に湧き上がってくる。
あれ? ボクは何を困っていたんだ? 別に困る事でもないじゃないか。だってスマホはちゃんと手に入れられるんだから。
血の海の中から製作者が持っていたスマホを拾い上げる。血の付いたスマホは持つと血で温められたのかほんのりと人肌の温度になっていた。
もう、汚いな。スマホを振るって血を吹き飛ばすとスマホの画面を付ける。そこに居たのは少女のような可愛らしい姿をした魔女だった。
「お前は誰だ?
環季? あぁ、製作者の名前か。初めて知ったわ。
それよりもこの小さいのが製作者が持っていた魔女か。イリーナよりも幼い感じがして頼りなさそうだが、確か『原初の魔女』とか言っていたな。
「ハッ! お前みたいな小僧に我の偉大さが分からないのは仕方がないが、あまり無礼な口を利くなよ」
この魔女も素直に言う事を聞くような感じじゃないな。まあ良い。ボクには必殺技と言えるアイテムがあるんだ。
拾ったスマホを操作し、自分のクレジット情報を入力すると、アプリから『リガートゥル』を購入してすぐに使う。
生意気な魔女を屈服させるならこのアイテムを使うのが一番だ。
さて、どんな顔を見せてくれるかな? 期待に胸を膨らませながら魔女を見るが、特に変わった様子はない。
おかしい。確かに『リガートゥル』を使ったはずなのに魔女の方に変化がない。
試しに土下座をしろと魔女に命じるが、ボクの命令が聞こえないのか魔女は尊大な態度をしたまま身動きをする事はない。
「ハッ! 馬鹿だねぇ。そのアイテムは普通の魔女になら効果はあるが、『原初の魔女』である我には効かぬわ」
何だと!? アイテムが効かないだと?
そんな事が信じられないボクはもう一度、アイテムを使用して右手を上げろと命令するが、魔女は微動だにしない。
「無駄な事は止めるんだな下郎。このジェマ=リヴィア。お前のような奴の命令を聞くほど落ちぶれてはいないぞ」
なんだこの魔女。イリーナの百倍使いづらいぞ。
だが、焦る事はない。イリーナは面倒臭いと言って会話が成立しなかったが、ジェマという魔女はまだ会話が成立しそうだ。
ゆっくりとボクの言う事を聞くように調教してやる。
魔女の事は後にするとして、この死体をどうするかな。このまま放置しておいてもボクが捕まるとは思わないが、いろいろ聞かれたりするのは避けたい所だ。
ボクは自分のスマホを操作し、イリーナに再び『リガートゥル』を使用する。
『
血の海に沈んでいた製作者の体がメラメラと音を立てて燃えて行く。
すべてを焼き尽くし、真っ黒になったと思ったら風に吹かれ製作者の灰はどこかに飛んで行ってしまった。
これで良し。ボクは証拠が残っていないのを確認すると、二つのスマホをポケットに仕舞い夜空を見上げる。
新しい世界を作れる。そう思うと笑いが止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます