第22話 意外な連絡

 今日は喫茶店の中で入るのではなく、喫茶店の外で待ち合わせる事にしてある。

 どうせ喫茶店に入ってもすぐに麗陽女子学園に行くのだから外で待ち合わせた方が都合が良いのだ。

 ノーパンウエイトレスさんの「今日は入って来ないのか?」と言う視線は痛いが、すぐに麗陽女子学園に行く予定なので喫茶店に入って注文をしてしまうとアイスコーヒーが来る前に神前が来てしまう可能性があるから入らない事にしたのだ。

 それに毎日のように喫茶店で注文する飲み物代も結構馬鹿にならない。モバイルバッテリーとかも買っているのでお小遣いがギリギリなのだ。


 喫茶店の前で待つこと数分。神前が待ち合わせをした時間より少し前に喫茶店に到着した。


「ごめん。待った?」


 数分は待ったのだが、それは僕が待ち合わせの時間より早く来ていたからであって神前が謝る必要はない。

 神前は昨日と違い、夏らしい装いでちゃんとスカートを履いている。


「どうよ? これなら文句ないでしょ?」


 腰に手を当てて胸を張ってくる神前のスカートは結構短い。そんなにパンツを見せたいのか?


「違うわよ! こんな暑い日にロングスカート何て履いてられないでしょ。別にパンツを見せたいから短いスカートって訳じゃないわよ」


 スカートの長さでそこまで暑さが変わるのだろうか。男の僕には分からない。

 てっきり僕は神前が新しい自分に気が付いて短いスカートをわざわざ選択したのかと思った。


「そんな自分に気付きたくもないし、そんな自分はいないわ。パンツを見せたがる人なんていないでしょ」


 うむ。偶然見えてしまうのは興奮するが、自分から見せてこられるのはそれほど興奮しないしな。

 それよりも柳舘さんから連絡はあったのだろうか? パンツの話なんてしている場合ではないんだけど。


「なんで私がパンツの話を振ったみたいになってるのよ。まあ、良いわ。あれから何度か世里に連絡したけど駄目ね。既読にすらならないもの」


 何か用事があって返信ができないと言う訳でもなさそうだな。そうなってくると増々柳舘さんが怪しく思えてくる。


「ここで考えていても分からないわ。まずは麗陽女子学園に行って情報を集めてみましょ」


 そうだな。ここで議論をしていてもきっと答えは出ないだろうからな。

 それに喫茶店の前と言ってもパンツの話ばかりしているとノーパンウエイトレスに再び注意されかねないしな。


 僕たちは喫茶店を後にし、麗陽女子学園に移動した。移動した僕たちは昨日と同じように部活終りの女子高生にヒアリングを始める。

 柳舘さんの情報はすぐに出てきた。大人しい性格で、あまり人との交流がないと言うのが女子高生から出て来た主な情報だ。

 やはりどの女子高生も正確な住所までは知らなかったが、電車とバスで通学しているとの情報は得る事ができた。麗陽女子学園からは一時間ぐらいかかる場所だ。


「どうするの? 今から行ってみる?」


 僕は行くつもりだけど、今の時間だと神前は現地に到着したらすぐ帰らなければいけない時間になってしまう。それなら僕が一人で行った方が良いだろう。


「もう少し近ければ一緒に行けたのに。残念」


 こればっかりは仕方がない。なんだかんだ言っても神前は女の子だからな。


「なんだかんだってどう言う事よ。私はちゃんとした女の子よ」


 僕の言い方が悪かったらしく、神前は頬を膨らましてそっぽを向いてしまっている。

 そんな怒らせるつもりはなかったのだけど、本当に女性って難しいな。


「コーリン! 何かメッセージが来たわよ」


 メッセージ? 神前は僕の目の前にいるので、メッセージなんて送ってくる人なんていないはずなのに。


「何寂しい事言ってるのよ。友達ぐらい作りなさいよ」


 作った友達が上渕だぞ。あんな友達を増やすぐらいなら一人の方がよっぽどましだ。

 それに友達を作るとメッセージのやり取りとかいろいろ面倒臭そうだしな。

 ってそんな事を言っている場合ではない。一体誰からのメッセージなんだ?

 僕がメッセージを確認すると知らない人からのメッセージだった。ただ、名前の所を見ると「旗持」と表示されている。


「旗持? 旗持ってアプリの制作者よね? どうして紅凛のIDを製作者が知ってるの?」


 そんなのは僕の方が聞きたい。教えた覚えも会った覚えすらないのに。

 どうしたら良いのか分からない僕に神前がアクションを求めてくる。


「友達に追加しないさいよ。コンタクト取りましょうよ」


 本当は知らない人を友達に追加するなんて嫌なんだけど追加しないとこちらからメッセージが送れないので仕方なく追加しておく。

 簡単な操作で友達登録をした僕はすぐに旗持さんに連絡を取る。


『あなたは魔女アプリの制作者の旗持さんで良いですか?』


 流石にすぐにと言う訳ではないが、少し待っただけで返信が来た。


『そうよ。あなたたちが私を探しているって聞いて連絡をしたわ』


 どうやら旗持さんの方も僕たちの存在を知っており、それで連絡をしてきてくれたみたいだ。

 これなら会ってくれるんじゃないだろうか?


「ダメもとで会ってくれないか聞いてみましょうよ。会えればいろいろ情報が聞けるかもしれないし」


 僕もそのつもりだ。メッセージだけで終わらせてしまっては顔を見る事ができないし、相手の様子も伺えない。

 僕は早速コンタクトを取るためにメッセージを送信する。


『会って話す事はできますか? 指定された場所に行きますよ』


 暫し返信を待つ。夕方になりかけているが、道路の上で待つと言うのはそれだけで汗が流れてくる。

 神前も緊張した面持ちで僕のスマホに注視していると、


「ピンポーン!」


 着信音が……言ったな? 明らかにフォルテュナの声じゃないか。こんな時に変な事しやがって。


「ちょっとしたお茶目よ。これぐらいの事、笑って許せる心の余裕を持ちなさいよ」


 それに対しては時と場合を考えろと言いたい。

 あまり厳しく言ったつもりはないが、フォルテュナがいじけてしまった。面倒臭い魔女だな。


「何いちゃついているのよ。それで? メッセージは来てたの?」


 メッセージ? あれはフォルテュナのいたずらだろ? と思ったのだが、本当にメッセージが来ていた。フォルテュナの奴、音が鳴らないようにして自分で喋ったのか。本当に余計な事を。


『今日の二十時に繁華街の外れにある倉庫で会いましょう』


 繁華街の外れにある倉庫? そんなのあったか?


「あそこじゃない? 喫茶店の前の道をずっとまっすぐ行った所にある倉庫」


 そう言えばあったな。でも、喫茶店からは結構歩くし、繁華街の外れって言うより街の外れって感じの場所じゃないか。

 遅い時間の指定なので神前と一緒に行くのは厳しそうなので僕一人で行くか。


「私も一緒に行くわよ。せっかく会えるチャンスなんですもの。こんな所で帰ってられないわ」


 僕は別に問題ないけど、家は良いのか? これで家から出られなくなったってなったら目も当てられないぞ。


「大丈夫よ。友達の家に泊まるって言っておくから。それよりも早く行きましょ。ここからだと結構急がないと間に合わないんじゃない?」


 確かにここからだと繁華街に戻って、そこから倉庫まで歩いて行かなければいけないので、今から動き出しても結構ぎりぎりの時間になってしまう。

 神前の家の事情は神前自身に何とかしてもらうとして、僕たちは指定された倉庫を目指して動き出した。

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