第21話 再調査

 僕たちは前回パンツ話で怒られてしまった喫茶店に再び集まった。

 ノーパンウエイトレスが本当にノーパンなのか確かめると言う訳ではなく、単にこの喫茶店が僕と神前が集まるのに都合が良いのだ。

 ノーパンウエイトレスさんのまた来たのかと言う視線が少し痛いけど、それを言うならまたバイトに入っているのかという視線を返しておく。

 ノーパンの女性には僕は厳しいのだ。


「もう! 変な事言ってないで早く話を進めましょうよ」


 僕の趣向に慣れてしまった神前は僕に対して大した反応も示さず、話を進めようとするが、今日の神前の姿について一言いいたい。


「スカートじゃないのはどう言う事だ?」


「別にパンツを見られる事を心配した訳じゃないわよ。今日も歩くかもしれないからズボンの方が歩きやすいと思っただけよ」


 何だそんな理由か。別に良いけどね。神前のパンツを無理やり見ようとは思わないし。


「何よその言い方。カチンとくるわね。ズボンを履いてきたのがそんなに気に入らないの? 分かったわよ。明日からスカート履いてくるわよ。履いてくれば良いんでしょ」


 意図して煽った訳ではないのだが、神前は僕の言葉に触発され、今度からはスカートを履いてくると宣言した。

 本人が履いてくると言うのなら僕に止める理由はない。自由にさせてあげよう。


「それで? 今日はどうするの? 昨日、宇城さんに会って魔女を持っていないって事を確認したんでしょ?」


 メッセージでは伝えてあったので神前は宇城さんが魔女を持っていない事は知っている。


「でも、本当に魔女持ってないの? パンツでの確認でしょ?」


 何故それを……って、また、フォルテュナか。あいつ本当に余計な事ばっかり話すな。

 でも、大丈夫。僕のパンツ鑑定に間違いはない。宇城さんは白だ。


「えっ!? 宇城さんのパンツの色が白だから大丈夫って判断したの? 信じられない」


 違うわ! いくら僕がパンツ鑑定士としての自負があったとしても相手のパンツの色だけで判断なんてしない。


「そう。それなら良かったわ。そんな事で疑惑の対象から外して後で魔女でしたってなったら目も当てられないからね。それで? 紅凛の言っている事が本当だったとしてどうするの? 麗陽女子学園の生徒って沢山いるわよ」


 それを相談するために神前を呼んだんだ。僕だけだと思いつかないしな。


「そう言われても私も思いつかないわよ。夏休み前なら……ってそうだ。夏休みになってるなら学校に行ってみたら部活とかやってるんじゃない?」


 そうか。帰宅部の僕には思いつかなかったけど、夏休みって事は部活で登校している生徒もいるんだ。

 それなら麗陽女子学園に行ってみて生徒から情報を集めるのはありかも知れない。

 他に探し出す方法もないため、僕たちは喫茶店を後にし、麗陽女子学園に向かう事にした。


 前回来た時は終業式の後だったので、誰も人がいなかったが、今日は学校の中から部活をやっている声が聞こえてきている。

 これは生徒がいると期待出来るのだが、予想外の事もあった。門の前には守衛さんが立っており、無断で学校の中に入る事が出来ないのだ。

 それはそうだよな。お嬢様学校なんだから関係のない人が勝手に入らないようなセキュリティはしっかりしているよな。


「でも、部活をやっている人がいるって事は、部活が終われば出てくる人がいるって事でしょ? その人たちを待ちましょ」


 確かには入れない以上、待つしかないな。

 僕のもう一つの案は神前が麗陽女子学園の学生服を買ってきて中に侵入すると言う物だったが、


「じゃあ、制服代出して」


 の一言でこの案はなくなってしまった。今月は出費が多くてこれ以上、余分な物にお金が使えないんだ。


 暫く炎天下の中、生徒を待っていると、どこかの部が終わったのか学校の中から生徒が出てきた。

 すぐに声を掛けてしまうと守衛さんに怪しまれてしまうので、少し学校から離れた所で声を掛ける。

 これも僕が声を掛けるとナンパかと思われてしまうので神前に先に声を掛けてもらった。


「すいません。少しお話良いですか?」


 流石に同年代の女性に声を掛けられると完全に無視をする訳ではなく止まって話を聞いてくれるみたいだ。多分、僕が声を掛けていたら無視して行ってしまったんだろうな。


「学校で何か変わった様子の人っていませんでした? 休みがちになっているとか性格が以前と変わってきたとかなんでも良いんですけど」


 神前の質問に暫く考えた女子高生だったけど、どうやらそう言った人は思いつかないようで、「分からないです」と言ってすぐ歩き始めて行ってしまった。


「仕方ないわね。次に出て来た子にまた声を掛けましょう」


 それから何人も部活が終わって出て来た人に声を掛け続けるが、誰もおかしな様子の女子高生には心当たりがないようで一切情報が得られなかった。


「何かおかしいのよね」


 神前はそんな事を呟いているが、僕には何が引っ掛かっているのか分からなかった。

 僕がおかしいと思ったのは女子高生たちが部活の帰りだと言うのに汗の匂いがしてこなかったのが不思議に思ったぐらいだ。


「部活が終わったんだからシャワーぐらい浴びて帰るのが普通でしょ? 特にお嬢様学校なんだからそれぐらい気を使うわよ」


 何だと? 高校なのにシャワーなんて完備されているのか。僕の学校にはそんな物ないのに。

 おかげで部活終りの男子生徒に合うと汗臭いったらありゃしない。


「ん? 違うわよ。私たちの学校にもシャワー室はあるわ。ただ、男子用のシャワー室がないだけよ」


 えっ!? と言う事は女子用のシャワー室はあるのか? それは何という男女差別だ。訴えてやるぞ。


「男子用は予算が確保出来次第作るってのは聞いた事あるわよ。だから早ければ今年中には出来るだろうし、遅ければ卒業してからになっちゃうわね」


 それは早く予算を確保してもらいたい。誰か寄付でもしてくれないものだろうか。


「男子用なんていらないわよ。今だって部活をやってる人は蛇口から水を浴びてシャワー代わりにしてるんだから」


 それはシャワー室がないから仕方なくそうやっているのであって好き好んでやっている訳じゃないだろ。

 しかも、今は夏だから良いけど、冬の時はいくら部活で温まった体でもそんな事はできないからな。


「あっ、人が出てきた。行くわよ」


 話の途中だと言うのに学校から女子高生が出て来たので神前は行ってしまった。僕も慌てて後ろを付いて行き、女子高生のヒアリングを再開する。

 結局夕方ごろまで部活を終わった女子高生に話を聞いて回ったけど、誰一人としておかしい人の情報は出てくる事はなかった。


「やっぱりおかしいわよ。変だと思わない?」


 さっきもそんなような事を言っていたが、僕には心当たりがない。何がおかしいと言うのだろう。


「だって、世里は宇城さんの事を学校に来てないからおかしいって言っていたのよ。だったらヒアリングした一人ぐらい宇城さんの名前が出て来ても良いんじゃない?」


 そう言われると確かにそうだな。これだけ話を聞いて宇城さんの名前が出てこないのはおかしい気がしてきた。

 でも、宇城さんは魔女を持ってなかったから話に出てこなかったんじゃないのか?


「じゃあ、なんで世里は宇城さんの名前を出したの? そこが私が引っ掛かっている所よ」


 確かにな。誰もおかしいと思っていない宇城さんの名前が柳舘さんから出てくるのはおかしい。

 それなら柳舘さんにもう一度話を聞いてみよう。連絡って取れないのか?


「それが、私がおかしいって思ってからメッセージを送ってるんだけど、返事が返ってこないのよ。既読になっているから見ているはずなんだけど」


 うーん。偶々なのかもしれないけど、そうなると増々怪しく感じるな。神前は柳舘さんの住所とかって知らないのか?


「知らないわ。メッセージのやり取りを始めたのも最近だし、どこに住んでるとかって話題にもならなかったもの」


 そうなると今度は柳舘さんを探さないといけないのか。生徒はもう学校に残ってないみたいだし、明日、またここに来て今度は柳舘さんの事を知っている人に住所を聞くしかないかな。


「そうね。宇城さんみたいにどの辺りに住んでるのかさえ分かれば足を使って探す事が出来るけど、今のままだと情報がなさすぎるものね」


 こんな事なら会った時にもっと情報を聞いておけば良かったと思うのだが後の祭りだ。

 僕たちは明日、いつもの喫茶店に集合して柳舘さんの情報を探すと言う事で今日はお開きになった。

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