第15話 魔女同士の戦い
「グォォォォォォ!!」
とても女子高生とは思えない肉食獣のような呻き声をあげて女性が地面を蹴った。
相手は女子高生だ。油断しなければそうそう攻撃が当たる物ではない――と思っていたのが間違いだった。
女子高生のスピードはとても人間の出せるような速さではなく、その迫力に尻餅をついてしまったのが幸いした。
ブォン!!
僕の頭の上を女子高生の回し蹴りが低い風斬り音を響かせながら通過する。
尻餅をついた僕の目の前には制服の短いスカートが捲れ上がり、青いストライプの入ったパンツが目に飛び込んできた。
普通の女子高生なら恥ずかしくてスカートを抑える所だろうが、魔女に操られているためか女子高生は全く意に介した様子はない。
「何やってるのよ! 何時までもパンツを見てないで早く逃げなさいよ! こんな所で負けたら許さないわよ!」
おっしゃる通りです。負けた理由がパンツを凝視していたから。なんて恥ずかしくてとても言えない。
僕は素早く立ち上がり、女子高生から距離を取る。例え、女子高生が何かスポーツをやっていたとしても今のスピードや蹴りの威力はおかしい。
「魔女に乗っ取られたせいで力のリミッターが外れてしまっているのよ。操るのにセーブする事なんて気にする事ないからね」
確か人間は無意識の内に力をセーブしているってのは聞いた事がある。危険、危機が差し迫った状況になると本来セーブしている力を解放するとか。火事場の馬鹿力って奴だな。
それが常に出ている状態と言うのは女子高生としても拙いのではないだろうか。
「拙いでしょうね。あんな全力で戦っていたらすぐに体が持たなくなっちゃうわよ」
何の関係もない人間を殺すだけでは飽き足らず、操っている女子高生まで殺すつもりか。一体魔女は何をしたいんだ。
「欲望に従って動いているだけでしょうね。人を殺したいと言う欲望に」
そんなに人が殺したいならゲームでもやってろ。今の時代のゲームなら十分に満足できるぞ。
とは思っても女子高生の方は全く止まる気がないようで、再び僕に向かって攻撃を仕掛けてくる。
地面を蹴り、塀を蹴り、僕に狙いを定められないように縦横無尽に飛び回り、僕の後ろに着地するとそのまま僕の背中を蹴り飛ばした。
グフッ!!
体に激しい痛みを感じた後、宙を浮いた感覚があり、家の塀にぶつかってやっと止まる事ができた。
蹴られた背中がジンジンと痛むし塀にぶつかった時にぶつけた顔も痛い。マジか。本当に動きが捕らえられないぞ。
「仕方がないわね。ちょっと充電使うけど、広範囲の魔法を使いましょうか」
でも、そんな事をしたら周りの建物とか巻き込んで破壊してしまうんじゃないか? 流石に建物の修理代とかのお金は持ってないぞ。
「大丈夫よ。結界の中だったら建物を壊したとしても結界を解けば元に戻るわ」
ほう。結界の中は別次元の空間と言う訳か。便利だな。僕も今度戦う時は結界を張ってから戦おうかな。
「意外と充電使うわよ。そうね。おおよそ三十パーセントって言った所かしら」
滅茶苦茶使うな。簡単な魔法三回分か。でも、それで建物を壊すのを気にしないで良いのなら我慢してでも使った方が良いかもしれない。
そんな事を話している間にも女子高生がフェイントを掛けながら再び僕の所に近寄ってくる。
「大雑把で良いから手を伸ばして!」
フォルテュナの声に従い、大体この辺りっていう所に手を伸ばす。
『
前に使った炎を出す魔法と同じような詠唱だが、僕の中を流れて行く魔力の量がこの前の時と段違いだ。
大量の魔力が僕の体を流れて行くのを感じる。だが、その流れはとてもスムーズで痛みがあるとかつっかえてしまうと言った事はなかった。
手から大玉転がしに使えるほど大きな炎の塊が放出されると、おおよそで狙いを定めた所まで飛んで行き、その周囲一帯が炎の海に包まれた。
ゴウゴウと激しく燃え上がる炎は道路を焼き、塀を焼き、周囲にあった物をすべて焼いて行く。激しく燃え上がる炎は少しでも近寄れば消し炭になってしまうと思えるほどだった。
確かに女子高生を倒そうとは思っていたが、これだと女子高生を焼き殺してしまうのではないだろうか。
「大丈夫よ。女子高生が普通の女子高生なら死んでしまっているでしょうけど、魔女に操られている状態ですものこれぐらいじゃあ死なないわ」
それは相手の魔女の実力を認めているって事だろうか。僕としてはとてもこの炎で生きてられるとは思えないんだけど……。
どちらの考えが正しいのかと言われればフォルテュナの考えの方が正しかったと答える。なぜなら燃え盛る炎の中から女子高生が歩いて出て来たからだ。
全身を炎に焼かれながらも歩いてくる女子高生はどこか笑っているようにも思え、その笑顔は僕に十分な恐怖を植え付けた。
「フンッ!!」
女子高生が力強く気合を入れると体を包んでいた炎が吹き飛び、体の炎は消え去ってしまった。女子高生の体は多少焦げているがダメージを負っているようにはとても見えない。
「危ない、危ない。折角手に入れた体を失う所だったじゃないか。女性を炎で焼いてしまうなんてアタシより残忍ね」
同類を見つけた! 見たいな感じでこちらに笑いかけないで欲しい。少なくとも僕は女性を焼いて喜ぶような趣味はない。
「お前、名前は? 殺してしまう前に名前だけでも聞いておいてやるよ」
「お前に語るような名前は持っていない!」
と言うと格好良いのだろうが、僕は素直に「花音」だけどと答えておく。
「花音か。その名前、お前を殺すまでは覚えておいてやるよ。アタシは『レメイ=ビネス』。花音が最後に聞く女性の名前だ」
そう言うとレメイはこちらに手を向けてきた。
ヤバイ!!
これは魔法を使う気だ。そう思った僕だったが体が反応する前にレメイは魔法を放ってきた。
『
レメイの手から槍のように先端が尖った土が何本も現れ、僕に向かって飛んでくる。
クソッ! 僕の首から綺麗な血を咲かせるんじゃなかったのか。これじゃあ僕の体が土で串刺しになるだけで首なんて……あっ、顔面に当たれば頭が吹き飛ぶから首から血が出るや。
いやいや、そんな事を考えている場合じゃない。この状況を何とかしないと。
「手をかざしなさい!!」
フォルテュナの声が飛んだ。何をする気か分からないが、僕はフォルテュナを信じ手を前に突き出す。もし、これで何もなければ僕は串刺しだ。
『
フォルテュナの詠唱の後、僕の前に透明な膜のような物が現れた。こんな物出してどうするんだ?
目の前まで来た土の槍に思わず目を瞑ってしまうが、何時まで経っても土の槍は僕に到達する事はない。
恐る恐る目を開けると、土の槍はすべて膜に防がれ、ただの土に戻っていた。
「防御魔法よ。かなり充電は消費するけど、背に腹は代えられないわ」
そうか。攻撃する魔法があれば防御する魔法もあるって事か。何にしても助かった。僕の首は無事につながっている。
「チッ! 器用な真似を。だけどこれからよ!」
レメイは僕に突っ込んでくる気満々だったようだが、上手く体が動かないようだ。
「クッ! こんな所で抵抗かい? 大人しく操られていれば良い物を」
どうやら女子高生の乗っ取りは完全と言う訳ではなく、女子高生がレメイの体を抑えてくれているようだ。
「お願い……殺して……」
一瞬、女子高生が元の大人しそうな表情に変わったが、すぐに醜悪な顔に変わってしまった。
「この瞬間を無駄にしては駄目よ! 手をかざして」
だが、女子高生の元の顔を見てしまった僕の体はすぐに動かなかった。
あの女子高生の顔、殺してとお願いする顔を見てしまったため、どうしても僕はすぐに攻撃する気にはならなかったのだ。
それでも頭を振って女子高生の顔を頭から吹き飛ばすと僕はレメイに向かって手を差し出す。
「これは調整が必要ね。少しだけ伸びた寿命を精々楽しんでおきな」
レメイは体の操作をできるようになったみたいで、大きくジャンプして逃げて行ってしまった。
逃がすか!!
僕はレメイに手を向けて狙いを定める。
「格好よく決めている所悪いんだけど魔法は無理よ。正確には倒す魔法は無理よ」
何を言っているんだ。今、レメイを逃してしまえば更なる被害者が出てしまうかもしれない。多少は無理をしてでも――とスマホを見ると魔女のアイコン……ルルーニャだったか。
ルルーニャの体がほとんどスケスケになってしまっていた。
「残りは十五パーセントって言った所ね。これじゃあ魔女を倒せるような魔法は出せないわ」
いつの間にそんなに少なくなったんだ? レメイに出会うまではほとんど充電を使ってなかったはずなのに。
「
って事はあの土の槍の攻撃はかなり魔力を使って放った魔法だったのか。
死んでしまうよりはマシとしても
レメイがいなくなったからだろうかいつの間にか結界が消えており、ずっと燃えていた炎も
それにしても大変な事になったな。人を襲う魔女か。全く考えなかった訳ではないけど、実際レメイみたいな魔女がいると分かると厄介だな。
取り敢えず持っていたモバイルバッテリーを使って充電を初めておく。今日がモバイルバッテリーの最初の仕事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます