第二章 探索編

第14話 製作者探し

 次の日、神前と喫茶店で待ち合わせをして今後どうするか話し合う事になった。


「いらっしゃいませー。ご注文な何になさいますか?」


 愛想の良い笑顔を振りまいてウエイトレスさんが注文を取りに来てくれた。

 僕たちは夏休みだが、他の人は平日と言う事もあり、お客さんが少ないので、余計に愛想が良いのだろうか。


「んっんん!!」


 神前が何故が咳払いで早く注文しろよと言ってくるので、手早く注文を済ませるとウエイトレスさんは、


「アイスティーとアイスコーヒーですね。少々お待ちください」


 と言ってバックヤードにさがって行った。


「実は卒業生の一人とコンタクトが取れたんだけど、紅凛はどうやらあのウエイトレスさんが気になっているようね」


 気になってるって何だよ。ちょっと可愛い制服を着ていたから見ただけだろ。

 この喫茶店は今まで利用していなかったけど、短いスカートのワンピースで黒を基調とした服に白いエプロンは良い感じだ。これからもっと利用しようかな。

 っと。それよりも卒業生とコンタクトを取れたって本当か? もしかしたら製作者の事が聞けるじゃないか。


「その話をしようとしたら紅凛は上の空なんだもん。もう」


 少しむくれるような感じで言ってくる神前は本当に可愛く思えた。

 それにしても良く卒業生なんかとコンタクトが取れたな。僕なんて同級生の連絡先さえほとんど知らないのに。


「友達のお姉ちゃんが卒業生と同い年なのよ。だからそのお姉ちゃんからコンタクトを取ってもらったのよ」


 持つべきものは友って奴だな。僕なんて友達と言うと一番に思いつくのが上渕だからなぁ。期待する方が無理だ。


「じゃあ行きましょうか。大学近くの喫茶店で待ち合わせになっているの」


 僕たちは運ばれてきた飲み物を一気に飲み干し喫茶店を出る。実質十分も喫茶店に居なかったんじゃないだろうか。

 大学近くまで来ると待ち合わせになっている喫茶店に入る。何か喫茶店巡りをしているような気分だ。


「あなたが神前さん? 美香子に聞いてきたんだけど何か聞きたい事があるんだって?」


 しっかりとお化粧をした可愛いと言うより綺麗といった感じで、少し茶色がかった胸まであるストレートの髪が特徴のお姉さんが僕たちの前に現れた。

 目の前に座ったお姉さんからは香水のいい香りがしてきて思わず鼻が広がってしまった。


「何よ。ちょっと綺麗な人が来たからってだらしない顔しちゃって。私だって後三年もすれば負けないぐらいになるんだから」


 なぜかお姉さんと張り合う神前だが、一体どうしたのだろう。神前は神前のままで十分だと思うのに。


「それで? 私に聞きたい事って何? 分かる事なら答えるけど」


 運ばれてきたアイスティーのストローを弄る姿もさまになっている。


「私たち旗持さんって人を探しているんですけど、今どこにいるか知っていますか?」


 僕がお姉さんを堪能していると神前がさっさと質問してしまった。もっとゆっくり雑談でもしてから聞けばいいのに何を焦っているんだ。


「旗持さんね。頭は良かったけど、全然話した事がなかったから今どこで何をしているのか私は知らないわね」


 どうやらお姉さんもどこにいるか分からないらしい。それなら仕方がない。じゃあ、ここからはゆっくり雑談でも……と思ったらお姉さんのスマホからメッセージが入った音がした。


「ごめんなさい。もう良いかしら? 彼氏が待ってるみたいだから行かなくちゃ」


 そう言うとお姉さんはウキウキした顔をしながら店を出て行ってしまった。残念。もう少し話かったのにな。


「手掛かりなしね。それじゃあ私たちも行きましょうか。これお願いね」


 神前は立ち上がると伝票を僕に渡してきた。なぜ僕が三人分払わなくてはいけないのか?


「だって紅凛ってお姉さんの臭いを嗅いだだけで何にもしてないでしょ? ある意味、綺麗なお姉さんと相席できたんだから安いと思わなきゃ」


 どんなシステムのお店だ! だが、神前はそそくさとお店を出て行ってしまったので僕が払うしかない。

 モバイルバッテリーも買ってお金がないと言うのに……。

 僕は仕方なく三人分お金を払い、お店を出たがその時にお姉さんが残していったアイスティーを飲み干したのは神前には内緒だ。


「折角卒業生に会えたのに手掛かりなしね」


 喫茶店からの帰り道、神前が残念そうに呟いた。まだ探し始めたばっかりだ。昨日名前が分かって今日居場所が分かるなんて都合の良い事がある訳がない。

 少し落ち込んでいる様子の神前を元気付けながら歩いて行く。


「そうよね。まだ始まったばかりだもん。見つからなくて当然よね。少し元気が出たわ。ありがとう」


 顔を上げて頑張るぞって言うポーズを取る神前だが、別れ道に差し掛かってしまった。


「何かあったらメッセージでも良いし電話でも良いからすぐに連絡ちょうだいね」


 そう言うと神前は手を振って家に帰って行った。

 僕も家に帰ろうと歩いている時に思いついた事があった。フォルテュナはアプリを入れた事で現れたんだからシステム的な事を何か知っているんじゃないだろうか。


「知る訳ないじゃない。私だってどうしてスマホの中にいて外に出られないのか分からないのよ」


 瞬殺だった。やっぱり地道に情報を集めて行くしかないのか。まだ時間も早い事だし散歩がてら寄り道をしながら家に帰るかと思ったのが間違いだった。

 今まで足を運んだ事のないような道に入ったおかげで道に迷ってしまった。地図アプリで何とか分かる所まで戻って来たのだが、そのおかげで日が暮れ始めてしまっている。


「自分の生まれた町で迷子になるなんて信じられないわ。どういった方向感覚しているのかしら」


 僕だって迷うなんて思ってなかったさ。でも、ちゃんと戻ってこれたんだから良いだろ。

 とある道に入った所で僕の背中にゾワゾワした感覚が襲ってきた。何だろう。刃物を首に押し付けられているようなこの感覚は。


「どうやら魔女が張った結界の中に入ったみたいね。注意しなさい。何があるか分からないわよ」


 結界? そんな事まで魔法でできるのか。


「そりゃできるわよ。魔法だもの。どうやらこの結界は人除けの結界ね。本来なら無意識の内に結界に入らないようになるんだけど入ってしまったみたいね」


 なんだそれ。結界を張るならちゃんと張っておいてくれよ。

 ってこれって神前がやった事じゃないよな。串間って事も考えられるけど、この二人じゃなかったら他にも魔女を持っている人がいるって事になってしまう。

 正直言って他に魔女何ていない方が良いと思っていたのだが、最悪の事態が起こっているのかもしれない。

 警戒しながら少し歩いて行くと一人の女性が立っていた。見た感じ高校生みたいだけど、僕の学校の生徒ではないようだ。

 俯いてこちらを向いている女性は僕が近づいても動こうとしていない。この女性が魔女を持っているんじゃないのかと思ったが違ったようだ。


「何だ? お前は? 私の結界にどうやって入ってきた? 私の結界は完璧なはずなのに」


 とても女性の声とは思えない低く冷たい声だった。夏の暑さによる汗に混じり、嫌な感じの重い汗が一緒に流れてくる。

 あの女性はヤバイ気がする。雰囲気そのものもヤバいのだが、女性から流れてくる冷気のような空気がとてつもない嫌悪感を抱かせてくる。


「どうやらあの女性は魔女に操られているみたいね」


 何? 操られてるだと? 僕はてっきり魔女に対しては僕たちの方が優位な立場で接する事ができると思って来たけど、そうじゃない事もあり得るんだ。

 魔女の方から人間を操れるとしたら魔女のやりたい放題になってしまう。


「よほど心が弱っていたのかもね。普通なら無理でしょうが弱っている時なら心も体も乗っ取る事は可能よ」


 その時僕の頭に殺人事件の事が浮かんできた。もしかして殺人事件はこの魔女がやったのではないだろうか。

 真相は分からないが、この女性は間違いなく魔女の犠牲者だ。一番恐れていた魔女による犠牲者が出てしまったのだ。

 何とかしなければならない。女性を助けられるか分からないけど、少なくとも魔女の方は何とかしなければならない。


「殺人事件? そうか。あの時に居たのもお前か。折角の私の楽しみを邪魔しやがって。だが、探す手間が省けた」


 楽しみだと? あの殺人事件はこの魔女の仕業だったのか。これはアプリのダウンロードができないようにリンクだけでも消しておいて正解だったな。少なくとも今ダウンロードされている数より魔女が増える事はない。

 それにしてもあの殺人事件が魔女の仕業だったとは。フォルテュナに確認してもらっても痕跡が見つからなかったので安心していたが間違いだったようだ。


「あの時はこの女の操作が完璧じゃなかったから見逃してやったが、今なら十分に戦える。今度は逃さない。お前の首から綺麗な血を咲かせてやる」


 顔を上げた女性は本来ショートヘアの可愛い女性なのだろうが、魔女に操られているため本来の可愛らしさが見えず、醜悪な顔で笑みを浮かべている。

 やるしかないな。ここで魔女を逃してしまえば更なる犠牲者が出てしまう。充電はまだ十分ある。フォルテュナの力を借りてこの魔女から女性を解放するんだ。

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