第4話 鷹のポーズ
次の日、学校に着くと上渕の姿を見つけた。丁度良い、上渕にアプリの事を聞いて僕と同じような状態になっていないか聞いてみる事にしよう。
「はっ? スマホの中に本物の魔女? 何言ってるの? そんな事ある訳ないじゃん。普通にゲームの魔女を育成するアプリだぞ」
僕だってフォルテュナが現れなかったらこんな話はしないんだけど、実際、朝起きてスマホを確認してみるとフォルテュナはちゃんと居たからな。
それにしても上渕はどこか体調が悪そうだな。顔に生気もないし、どうかしたのだろうか?
「思っていた以上にアプリが面白くてな。ちょっとやり過ぎて寝不足なんだ」
何だ。そんな事で体調が悪くなっていたのか。
そう言えば僕は結局、魔女育成ゲームをやってないな。ゲーム自体はそんなに面白いのかな。
「他に用事がないなら俺は教室に行かせてもらうぞ。授業が始まるまでの少しの時間でも良いから寝ておきたいんだ」
上渕はフラフラとした足取りで教室に行ってしまった。お大事にとしか言いようがない。
まあ、今の上渕の感じだと他に魔女を持っている人はいなさそうだな。それなら一安心だ。
「あの人が知らないだけでいないとは確定していないんだけどね。まあ、もし、いるなら否が応にもすぐに会うわよ。魔女って引き合う物だから」
そう言う物なのか? スマホから声が聞こえてきたのでポケットから取り出すと画面を表示する。
フォルテュナには
ただの雑談なんかで毎回、十パーセントの充電を使われてしまったら本当に必要な時に充電が足りなくなってしまうからな。
「それよりもこれをちょっと見てよ。可愛くない?」
フォルテュナを注視すると乾電池のようなアイコンを抱えている。そして、フォルテュナの差す先を見ると充電量を示すアイコンが魔女の形に変わっていた。
「凄いでしょ。私が作ったのよ。名前はルルーニャって言うの。充電がなくなってくるとルルーニャの足元から段々透けて行くのよ。可愛いでしょ」
分かりずらいわ!! それに表示が消えて行くのは上からじゃないのか。なぜ足元から消えていくようにしたんだ。まあ良い、早くその手に持っている乾電池のアイコンに戻せ。
「嫌よ。折角作たんですもの。こんな面白みのないアイコンよりルルーニャの方が断然かわいいじゃない!」
言う事を聞かないフォルテュナに僕は片足を上げて拳を顔の近くまで引き、自撮りをするようにスマホを遠くに放して攻撃するぞと言うジェスチャーを見せつける。
するとフォルテュナの方も片足を上げて、両手を頭の上まで上げて鷹のようなポーズを取ってきた。どうやらやる気だが結果は見えている。
スマホの操作を邪魔する事ができるフォルテュナの勝ちだ。それでも怒っているんだと言う事を見せるのは必要だと思う。
一人でスマホに向かって攻撃をするような態勢を取る僕は傍から見たら頭の痛い奴だと思われても仕方がないが、幸いにして今僕の姿を見ている人はいない。
朝の昇降口で一人スマホに向かって威嚇をしている僕は後ろから視線を感じた。
見られた!!
こんな姿を学校中に言いふらされてしまったら僕の高校生活が終わってしまう。
何とか口を封じねばと思い、後ろを振り向くがそこには誰も居ない。確かに視線を感じたんだけどな。気のせいだったのか?
何か気持ち悪い感じが残るが、いくら探してみても誰も居ないので、気のせいと言う事にしておこう。
フォルテュナに今回は諦めるからこれ以上、余計な事をするなと言うと、
「やたー。良かったね。ルルーニャ。これからはずっと一緒よ。早くスケスケになって私を喜ばせてちょうだいね」
おい! 中年オヤジみたいになってるぞ。実際の年齢からすれば中年どころか老年をとっくに過ぎている年齢だからそう言う考えになっても仕方がないのだろうか。
「失礼ね。私はまだまだ若いわよ。見た目だけで言えばコーリンなんかよりよっぽど若いんだから」
見た目少女の老年か。ギャップが激しいな。僕がギャップ萌えの体質だったら悶え死ぬところだな。
ひとしきりフォルテュナと戯れた所で僕も教室に行く事にする。だが、教室に入った僕は目を疑ってしまった。何故なら教室には何時もの三分の二しか生徒がおらず、さらにその三分の一ほどの生徒が机に臥せっていたのだ。
「皆だらけているわね。この学校ってこういう生徒が多いの? これなら学校に来る必要なかったんじゃない?」
そんな訳あるか。授業をやるなら学校には来なければいけない。じゃないと出席日数が足りなくなってしまう。
それにしても異様な光景だ。下手をするとインフルエンザが大流行して学級閉鎖する寸前よりも酷いかもしれない。
その時、嫌な考えが浮かんでしまい。僕はゴクリと喉を鳴らす。
「これって魔女の仕業じゃないよな?」
席に着いた僕は他の生徒に見つからないようにフォルテュナに話しかける。
「さぁ、どうかしらね。これだけだと魔女のせいなのかどうか判断がつかないわね。昔だったら間違いなく魔女の仕業って事で魔女狩りが始まっていたんだけどね」
ケラケラと笑うフォルテュナだが魔女狩りの時代を経験しているって事は千年ぐらい生きているのではないだろうか。なんだかそっちの方のが恐ろしく思える。
授業が始まったのだが臥せっている生徒は臥せったままだし、平気な感じでいた生徒も体調が悪くなったと言って何人か保健室に行ってしまったので、さらに教室の人数が減ってしまった。
流石にここまで人数が減ってしまうと授業を進めてしまうのも拙いと思ったのか先生は自習をしておくように僕たちに言いつけ、職員室に戻って行ってしまった。
暫くすると先生が教室に戻って来て、学級閉鎖と言うか学校閉鎖が決まったと連絡してきた。どうやらおかしいのは僕の教室だけでなく学校全体がおかしな状態になっているようだ。
元気な生徒は喜んで教室を出て行き、臥せっていた生徒は重い足取りで教室を出て行く。これは学校を調査した方が良いのだろうか? でも、僕が調査をした所で何がおかしいのか分からないしな。
「ねぇ、早く帰らないの? どこか遊びに行きましょうよ。いろいろ見て回りたいの」
気楽な奴だな。でもそれぐらいの方が良いかもしれない。今の僕には出来る事などないのだから。
いろんな所を見たいって事だから繁華街の方にでも行ってみるか。モバイルバッテリーも買っておきたいしちょうど良い。
僕が席から立ち上がり、教室を出て行こうとした所で、一人の女子生徒が教室に入ってきた。僕以外誰も居ない教室に何の用があるのだろうと思って見ていると僕の方に近寄ってきた。
「あなた、さっきスマホに向かって何をしていたの? 私見ちゃったんだけど」
やっぱりあの視線は本物だったのか。ヤバい。なんと言って誤魔化そう。下手な事を言ってしまえば後二年ちょっとの学生生活が暗黒時代に突入してしまう。
高速で回転する頭に浮かんだのは習っているヨガのポーズをスマホで確認していたと言う事だった。
「あんな変なポーズのヨガなんて見た事もないし知らないわ。あなたが頭のおかしい人なのは別に良いんだけど、私が知りたいのはスマホの中の事よ」
ヨガであのポーズはないのか。勉強になった。……って僕が頭がおかしいだって? なんて失礼な。僕はいたって普通な男子高校生だと主張しておきたい。
「普通の男子高校生は朝の昇降口で変なポーズを取ったりしないわ。そんな事はどうでも良いわよ。それで? スマホの中に居たのは何?」
どうやら誤魔化せそうにないな。それにしても人のスマホを買ってに覗くなんて悪いとは思わないのだろうか。
「思わないわよ。見ようとしてみた訳じゃなく、あなたが私にスマホを見えるようにしていたからね」
そうか。フォルテュナを威嚇していた時か。そりゃ後ろに居ればスマホの画面が見えてしまうな。
それにしてもスマホの中に魔女がいるってことは言っても良い物だろうか。それこそさっきのポーズの噂が広まるより酷い噂が広まってしまうのではないだろうか。
チラッとスマホの方に視線を向けるとフォルテュナは画面から姿を隠している。と言う事は言わない方が良いのだろう。僕が別の話題で誤魔化そうと女性に目を向けた所でスマホをかざされてしまった。
「あなた、これに何か見覚えがあるんじゃない?」
その画面を見た事で僕の体がビクリとしてしまった。
何故なら見せられたスマホの中にはフォルテュナとは違う魔女がいたのだ。
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