第3話 フォルテュナ

 家に戻り、スマホを充電している間にフォルテュナと少し会話をする事にした。フォルテュナについて……魔女について分からない事が多すぎるのだ。


「何? 私の事口説こうとしている訳? まあ、私ほどの美貌があれば仕方がない事だけど、私は特定の人を作る気はないわよ。ごめんなさいね」


 この魔女殴りてぇ。スマホの中にいなければ絶対に殴っている所だ。

 だが、ここは僕が大人になり、グッと堪える。相手は少女なんだ。多少のおいたで怒ってはいけない。


「少女の姿だけど私はコーリンより年上よ。本来なら私には敬語が普通よ」


 は? こんな姿なのに年上? それなら一体幾つ何だ? どう見ても十歳ぐらいじゃないか。


「女性に年齢を聞くなんて失礼ね。常識って物を知らないのかしら」


 魔女に常識とか言われてしまった。そもそもフォルテュナは今の時代の常識とか知識はあるのか?


「あるに決まってるじゃない。それじゃなきゃスマホの中で生活なんてできないわよ」


 確かにそうだな。スマホの中で生きているって事はそれなりの知識はありそうだ。


「それにスマホの中で目を覚ました時にこの時代の大体の事は情報として得られているのよ。だからこの世界で生きていく事になんの不便もないわ」


 ガッツリスマホの中で生活するつもりだな。それで? 結局フォルテュナは幾つ何だ?


「幾つに見える?」


 電源を落とそうとしたが、フォルテュナに邪魔されてしまった。


「女性が『幾つに見える?』って聞くのは常識じゃないの? 私の中ではそうなっているわよ」


 ある意味常識かもしれないが、その後には必ず冷たい目を向けられたり、ウザって思われると常識に追加しておいた方が良い。


「まあ、良いわ。本来なら教えないんだけど、特別に教えてあげるわ。実は……私は自分が何歳か分からないのよ」


 もったいぶった割に年齢が分からないだって? そんな耄碌するまでの年齢なのだろうか。


「違うわよ! それに耄碌って酷いわね。百を超えたら数えるのが面倒臭くなっただけよ。だって年齢なんて私にとって何の意味のなさない数字ですもの」


 そんな物なのか。僕は自分が百歳を超える所を考えてみるが、上手くイメージできない。それはそうだろう。だって経験をした事がないのだから。

 ふとフォルテュナの方を見るとどこか懐かしそうな顔をしている。楽しく生活をしていた時の事でも思い出しているのだろうか。


「それよりもこの姿になって食事ができないって言うのは問題よね。折角、美味しい物が食べられると思ったのだけど、それができないのはちょっとガッカリよね」


 スマホの中にいるなら食事の必要はないだろうな。敢えて言うなら充電を消費する事が食事をしているって事になるのか。


「そうだとするとこうやって充電して貰ってるのは料理の準備をして貰ってるって事ね。でも、この充電。眠くなってきちゃうのよね」


 僕がフォルテュナと一緒に食事をする時が来る事があるのだろうか。うーん。多分、来ないだろうな。でも、魔法が使えるのなら魔法で食事を作ってしまえば良いのに。

 と考えた所で魔法の事を思い出した。魔女だから魔法が使えるのは何となく分かるような気がするが、あの僕の中に流れてきた気持ちの悪い物は何なんだろう。


「多分、魔力じゃないかしら? 本来は私の魔力を使って魔法を使うのだけど、今の私には魔力がないから充電を魔力に変換して、それをコーリンに渡して魔法を使っているから」


 ふむ。僕と言う蛇口があるから、そこに魔力と言う水を流して魔法を使えるようにしたって事か。


「そんな感じじゃないかしら? でも、気持ちの悪い物って心外ね。私から流れているんだから綺麗でさらさらとした清流みたいな感じでしょ?」


 いや、ドロドロとした粘着性のある山芋みたいな感じの物だった。決して流れて来て気持ちの良い物ではないな。


「おかしいわね。そんな感じの魔力なんて作った覚えはないんだけど……」


 フォルテュナが腕を組んで頭を悩ましているが、それもすぐに止めてしまった。長い年月生きていると言っていたが、意外と集中力が持たないようだ。まんま、少女だな。


「まあ、良いわ。私から流れていく物だから危険はないし、高貴な物には変わりないから。そうそう、さっきも言ったけど、魔法を使う時には充電の残りには気を付けなさいよ」


 まだ言うか。よっぽど自分から流れていく物が汚い物だと思われたくないんだな。そこは女性の心情と言う所だろうか。

 充電の残りって……そうだった。魔法を一回使うたびに充電が十パーセントなくなるんだった。魔法って威力によって充電の減る量が変わるって言ってたけど、どの程度変わる物だろう。


豊穣の飛礫ラピラス燭台の紅焔イグレアみたいに単体で威力の低い物だと十パーセントだけど、何人もの相手に同時に出したり、単純に威力を高めたりすれば青天井で充電は使うわね」


 その辺りはフォルテュナと意思疎通してどれぐらいの威力で使うかを調整していくしかないな。勝手に威力を高められて充電がなくなったら話にならないからな。

 後は……手をかざすって言うのは必要なのか? 戦っている時に手をかざすと他の事ができなくなるんだけど。


「狙いを定めないといけない魔法ならかざした方が良いわね。かざさなくても使える事は使えるけど、命中は運次第になっちゃうし」


 なるほど。無音の伝達コンコールを使った時はそこまで狙いを定めなくても良いから僕は何もしなくても普通に使えたのか。


「そう言えばコーリンはモバイルバッテリーって持ってないの? あれがあれば充電が少なくなった時に外ででも充電できるんでしょ?」


 モバイルバッテリーなんて知っているのか。どうやらこっちの世界の知識があるって言うのは本当らしいな。

 だが、残念な事に僕はモバイルバッテリーは持っていない。何故なら普段からスマホをそんなに使用しないから持つ必要がなかったのだ。スマホで動画とか見る気にならないんだよな。


「それじゃあこれを機に買いなさいよ。何かあった時にモバイルバッテリーがあれば、もう一回魔法が使えたりするかもしれないでしょ」


 どれだけ魔法を使うつもりだよ。でも、いざという時にモバイルバッテリーがあるのとないのでは違う気がするな。明日、学校の帰りにお店によって買っておくか。ただし、金額と相談して……と言う事になるが。

 長々と話をしていた事で、充電ももう九十パーセントを超えている。スマホを見ればいつでもフォルテュナはいるので、今聞かなければいけないと言う訳ではないのだが、僕は一番気になっていた事を聞く事にする。


「フォルテュナの他に魔女っているの?」


 これが僕が一番聞きたかった事だ。フォルテュナが僕のスマホの中にいて存在しているのは最早間違いない事なのだが、フォルテュナの他にも同じように魔女がいるのか気になっていたのだ。

 フォルテュナも今までのように砕けた感じではなく、真剣な表情で僕を見つめている。こうやって黙っていれば本当は美少女なんだけどな。


「その答えにはYESと答えるわ。だけど、私と同じような状態なのか、この時、この世界にいるのかまでは分からないわ」


 魔女自体の存在は否定しないから「YES」と言う事か。まあ、魔女がフォルテュナ一人だけって言うのも何かおかしいような気がするからそれは何となく納得できるな。

 問題は次だ。魔女自体はいるとして、それが今、この時に存在しているかまでは分からないと言う事か。フォルテュナ一人だけなら僕が変な事に使わなければ問題はないのだろうが、他にも魔女がいて魔女を使って何かをしようとする者がいるとすれば大変な事になってしまう。

 その時、僕はどうするだろうか。相手の魔女に対してフォルテュナを使って対抗するのだろうか。それは相手が拳銃を持っているのを僕が同じ拳銃で止めようとしているのと同じだ。それで相手は止まってくれるのだろうか。


 僕が考えている間に充電も終わってしまっていた。フォルテュナは話疲れたのかスマホの中で横になって寝てしまっている。

 スヤスヤと気持ちよさそうに寝ているフォルテュナは魔女と言われなければ絶対に分からない。可愛い寝顔を見せるフォルテュナの頬を僕がタップをするとフォルテュナは僕の手払いのけるようにし、後ろに寝返りを打ってしまった。

 捲れたスカートの中からパンツが見えそうになり、ドキッとしたのは僕の心の中にだけとどめておこう。

 仕方がない。特にやる事もないし僕も寝る準備をするか。お風呂に入り、寝る準備を整え部屋に戻ると再びスマホを見るが、フォルテュナは寝たままだ。


「おやすみ、フォルテュナ」


 返事のないフォルテュナに声を掛け、僕はベッドに入った。

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