第2話 魔法とは
何とかフォルテュナからスマホの操作権を取り返す事に成功した僕だったが、路地裏に行った事で変な男たちから声を掛けられてしまった。
「お兄さん、何一人で話してるの? ちょっと頭の痛い人? それよりも僕たちお金がないんだ。少しで良いから貸してくれないかな。後で必ず返すから」
耳に大量のピアスをしている男がニコニコと笑顔を向けて話しかけてくるが、お金を貸した所で返す気なんてないだろう。所謂、カツアゲと言う奴だ。
路地裏でスマホに向けて一人で会話しているのを見て良いカモを見つけたと思って絡んできたのだろう。
こういう人たちは相手にせず、すぐに移動してしまうのが正解だ。後ろを向いて繁華街の方に出ようと思ったのだが、そちらもすでに男が立っていた。
「おいおい。俺たちがお金を貸してくれって言ってるのにどこかに行こうとするなんて酷いじゃないか。これはちゃんとお話を聞く必要があるかな」
繁華街に出る道の前に恰幅の良い男が一人、そして路地裏の奥に行く方向に話しかけてきたピアスの男と金髪の男が一人の三人で僕を囲んできている。
ピアスの男が僕の肩を押すとバランスを崩してしまい、地面に尻餅をついてしまった。
「あぁ、偉いね。自分から腰を据えて話し合う気になってくれたんだ。嬉しいねぇ」
僕が自分の意思で座ったんじゃない。肩を押されたから転んでしまっただけだ。
すぐに立ち上がろうとしたが、ピアスの男が僕に跨り、もう一度僕を倒して威圧的に話しかけてくる。
「金出せや! 痛い思いなんてしたくないだろ?」
クソッ! こんな奴ら群れないと何もできないくせに悔しいな。だが、倒れてしまっている僕はどうする事もできず、大人しく男の言葉に従って鞄の中から財布を取り出す。
その時、僕の中に何かが流れてくるような感覚がした。ドロッとした粘着性のあるゼリーのような物だろうか。
『ねぇ、なんであんな男たちに従ってお金を渡そうとしているの?』
頭の中にフォルテュナの声が聞こえてきた。確かに聞こえたのだが、男たちが何の反応もしないのは声が聞こえてないからだろうか。
『そうよ。あなたにだけ聞こえるように話しているの。それで? なんでお金を渡しちゃうの?』
そんなの見て分かるだろ。相手は三人なんだぞ。僕一人でどうこうできるはずがないじゃないか。下手に刺激をして痛い目を見るぐらいなら大人しくお金を渡してしまうのが正解だろう。
『はぁ。あなた何か忘れてない? あなたは誰と契約したの?』
ん? 契約? あぁ、そう言えばさっきフォルテュナがそんな事を言っていたな。だが、それがどうかしたのか?
『何言ってるのよ。あなたが契約したのは魔女よ。しかも魔女業界一可愛い』
さっきから言っている魔女業界って一体何なんだ? 無性に殴りたくなってくるじゃないか。あぁ、実体がないから殴る事はできないか。なら、またくすぐってやるぞ。
『セクハラは禁止って言ったでしょ。それに、そんな事したら何があっても助けないわよ。私だってプライドがあるんだから』
何だ。助けてくれようとしていたのか。でも、スマホの中にいるフォルテュナがどうやって僕を助けるって言うんだ?
『あなた馬鹿ねぇ。ちょっとは考えなさいよ。私は魔女なのよ。魔女なら魔法が使えるって思わないの?』
魔法? そんなものある訳ないじゃないか。これだけ科学が発達した時代で魔法の存在が証明されてないんだからあるはずがない。
『はぁ。本当に可愛そうな人ね。信じるって事は大切よ。しょうがない。見せてあげるから跨っている男に手をかざしてみて』
フォルテュナの言っている事が本当かどうか分からないが、自信ありげな言い方から僕は指示に従って手をかざしてみる。
「あ? 何だ? 手なんて差し出して。起き上がりたいなら金を出してからにしな」
どうやら男は僕が何をしようとしているのか分かっていないようだ。僕も分かっていないんだけど。
『準備は良いよね。じゃあ、行くわよ』
『
フォルテュナの言葉の直後、僕の体の中でさっきも感じた何か得体の知れない物が通り抜けるような感覚がし、かざした手からソフトボールぐらいの大きさの石が飛びだした。
「ゴフッ!!」
その石は目の前にいたピアスの男にぶつかると男は体の中から空気が抜けてしまったような声を出した。
石にぶつかった勢いと石の進む勢いに押され、男は数十メートル先まで吹き飛んで行き、やっと止まって地面に倒れた。
本当に何か出た。これが魔法……。初めて見る魔法に僕は開いた口が塞がらなかった。
「テメェ! 何しやがった!?」
吹き飛ばした男の後ろにいた金髪の男が怒鳴ってきた。僕だってよく分からない。分からないけど、どうやらフォルテュナが魔法を使ったみたいです。
『アハハッ。ちょっと威力が強かったみたい。久しぶりに魔法を使ったからちょっと調整を失敗したみたい』
フォルテュナは全く悪びれた様子もなく笑っている。どれぐらいの威力を想定していたか知らないけど、とても「ちょっと」とは思えない失敗の仕方だ。
『調整も兼ねて次行くからその男に狙いを定めて』
もうこうなったら指示に従うしかない。僕は金髪の男に向けて掌をかざす。
さっきの魔法のイメージがあったのか金髪の男はお腹をガードするが、全く意味がなかった。
『
またも何か通り抜ける感覚がした後、今度は僕の手から炎が飛び出し、金髪の男の頭に着火した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 頭に火がぁぁぁぁぁ!! 助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
自分の頭が燃えている事で金髪の男はパニックを起こしている。繁華街への道を塞いでいた恰幅の男が慌てて駆け寄り、何とか金髪の男の炎を消す。
「お、お前……、何なんだよ!」
僕じゃありません。フォルテュナがやった事です。
でも、これ以上絡まれるのも嫌なので、恰幅の良い男に手をかざすと、
「ヒィッ!!」
と言って金髪だった男を抱えて逃げ出してしまった。おいおい。ピアスの男も一緒に連れて行けよ。
まあ良いや。夏だから放置しておいても風邪は引かないだろう。
「いやぁ。上手く行ったわね。久しぶりに魔法を使ったから最初は失敗しちゃったけど、今度は威力の調整も完璧ね」
手に持っていたスマホを見るとフォルテュナが腰に手を当てて胸を張っている。少女なのでない胸を張られても威厳を少しも感じない。
「折角助けてあげたのにお礼の一言も言えないの? これだから最近の若い者は」
僕は慌ててスマホに向かってぺこりと頭を下げ、お礼を言う。それにしてもさっきの魔法? ……は何だったんだろう。
「最初の誰にも聞かれずに話したのは
凄いなんてものじゃない。こんな事ができるなんて思ってもみなかった。アプリの中の設定かと思ったけど、フォルテュナは本当に魔女だったのだ。
「あぁー!! 拙いわ。スマホの充電がなくなりかけてる」
そんな馬鹿な。アプリをインストールする時にはまだ五十パーセント以上残っていたはずだ。
だが、今スマホを見ると残り十五パーセントと表示されている。一体いつの間にそんなに充電を使ってしまったんだ?
「魔法を使うと一回ごとに十パーセントは使ってしまうみたいね。今、三回使ったから魔法だけで三十パーセント減った感じね」
魔法を使うのに充電を使うのか。変わったシステムだな。それだとフルに充電がある状態でも十回、いや、九回使ってしまえば魔法は使えなくなってしまうって事だ。
「簡単な魔法だから最低限の使用量で済んだけど、威力がある魔法を使うと多分、十パーセントじゃ済まないわよ」
なるほど。威力のある魔法を使いたければその分、充電を使えって事か。僕の知識では魔法には魔力が必要なんだと思っていたんだけど、時代が変われば変わる物だ。
「そうね。……って感心してる場合じゃないわよ! 約束覚えてる? 充電を切らさない事! ちゃんと守ってよね」
あぁ、そんな事言っていたな。もし、充電を切らしてしまったらどうなるんだ?
「もちろん消えてなくなるわよ」
何が?
「この世界が」
とんでもない事を言ってきた。僕が充電を忘れてしまった事で世界が滅んでしまうなんて嫌すぎる。
「冗談よ。もう、これぐらいの冗談軽く受け流してよ」
冗談なのか本当なのか分かりにくいのが悪いと思う。でも冗談で良かった。世界の存続何て運命背負いたくはない。
「本当の事を言うと私が消えちゃうのよ。折角、自由に動けるようになったんだものすぐに消えてしまうなんて嫌だわ」
スマホの中の狭い世界だと思うのだが、フォルテュナにとってはそれでも十分って事か。自由なんてスマホの中ぐらいがちょうど良いのかもしれないな。
男たちも居なくなった事だし、家に帰る事にするか。僕はモバイルバッテリーを持ってないので家に帰らないと充電ができないのだ。
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