スマホの中には魔女がいる

一宮 千秋

第一章 出会い編

第1話 スマホの中に

 スマホの中には魔女がいる。



 画面の中を闊歩し、アイコンと戯れ、スマホの操作を邪魔をする。

 笑顔を振りまき、我儘を言い、時には拗ね、そして死んでいる。





 高校に登校した僕は一人の人物から声を掛けられた。

 その人物は僕のクラスメートで、友人の上渕うえぶちだ。中学からの友人で腐れ縁と言った感じの男だ。


「なぁ、花音かのん知ってる? 学校のサイトにアプリをダウンロードできるリンクがあるんだよ」


 学校のサイト? そんなもの見た事ないし、存在すら知らない。

 まあ有るとしても学校のサイトにあるようなアプリだ。学生が授業中に作ったアプリを載せているだけで大したものじゃないんだろう。


「それが意外とよくできたアプリで面白いんだよ。魔女を育成して行くアプリなんだけど、とても学生が作ったとは思えないできだから花音もやってみろよ」


 育成ゲームかぁ。正直言って全く興味がない。そもそも僕はスマホでゲームをすると言う事に抵抗があるのだ。

 一度嵌ると抜け出せない気がするし、育成するために課金をせずにはいられなくなるようなそんな感じがするから。

 それでも上渕がわざわざ教えてくれたのだからサイトのアドレスだけは教えてもらい、気が向いたらやってみると言う事にして教室に入って行った。


 無事教の授業が終わり、暇つぶしに繁華街に行こうと思い歩いていると魔女を題材にしたドラマの広告が目に入った。

 主演は鷹木と言うアイドルで、以前、上渕が可愛いアイドルがいるから見てみろよと言って写真を見た事があるので覚えていた。

 鷹木は黒服にトンガリ帽子と言うほとんどの人がイメージする魔女の衣装を着てポーズを取っている。

 この姿を見れば上渕が嵌ってしまうのも分かるような気がする。その時、ふと上渕が言っていた魔女の育成ゲームの事を思い出した。

 魔女の育成ゲームか。面白いのかな?


 そう思った僕は早速、学校のサイトにアクセスし、上渕の言っていた場所を目指して操作を続ける。意外と見つけにくい所にあるリンクを何とか探し出し、ダウンロードを開始した。

 学校のサイトにあるアプリなんだからもっと分かりやすい所にリンクを張っておけばいいのにと思ったのは僕だけじゃないはずだ。

 暫く待ってインストールまで完了すると、アプリが立ち上がったのだが、すぐに落ちてしまった。

 あれ? 上手くインストールできなかったのかな?


 アプリのアイコンをクリックするが、やはり一瞬立ち上がってアプリは落ちてしまった。何か一瞬、アプリをクリックした時に何か変な感じがしたが、今は何も感じない。

 確認のため、もう一度アイコンをクリックするとやはりアプリは落ちてしまい。その瞬間だけ変な感じがする。

 この感覚が何なのか良く分からないが、アプリをクリックして立ち上がらなとなると僕のスマホと相性が悪いのかもしれない。

 最後にもう一度だけ試してみて駄目だったらアプリをアンインストールするかと思い、アイコンをクリックすると画面の端から女性の姿をしたキャラクターが歩いてきた。

 こういうアプリなのか? 何か画面が立ち上がると思ったのだが、黒を基調としたドレスを纏い、銀髪で赤い目をしたキャラクターは画面の中央で止まると僕の方を向いて話しかけてきた。


「ちょっと、あなた! 何で何度も立ち上げようとするのよ! 表に出てくるのが嫌で落としているのが分からないの!?」


 なんだこれは? 斬新なゲームだな。僕の知っているゲームアプリだとタイトル画面とかが出るんだけど、今のゲームってこんな風になっているのか?

 良く分からないけど、画面の中央にキャラくがーがいられるのは操作の邪魔だ。僕はキャラクターを退けようと画面をタッチするとキャラクターが僕の指を避けた。


 ん???


 僕が触ろうとしているのが分かったのか? まさかと思い、何度もキャラクターをタッチしようとするが、その全てを避けられてしまった。


「なんで私を触ろうとするのよ! あなたもしかして変態? いくら私が魔女業界一可愛いからと言ってそんなに気安く触らせたりはしないわよ」


 画面の中で舌を出して来るキャラクターは自分の意思がるかのように画面の中を所狭しと逃げ回っている。

 流石にこれはおかしい。一度再起動をさせた方が良いと思い、僕はスマホの電源を切ろうとしたが、キャラクターに邪魔をされてしまった。


「フフフッ。甘いわね。私を消そうとしても無駄よ。このスマホは私が乗っ取ったんですもの」


 腰に手を当てて平べったい胸を強調してくるキャラクターがドヤ顔をして僕の方を見てくる。


「平べったいとは失礼ね! 平面で表示されているからそう見えるだけで、立体で表示されたら私の胸の大きさに驚くわよ」


 キャラクターの見た目は少女と言った感じでとても胸があるように思えないが、それを確認する術がない。

 アプリの音声は聞こえているので、もしかして僕の声に反応するのではないかと思い、少し恥ずかしいがキャラクターに話しかけてみる。

 だが、こんな所を誰かに見られてしまったら変な噂になってしまうので、路地裏に移動してからだ。


 路地裏に移動した僕は本当に僕の声に反応するのかを試してみる。

 うーん。そうだなぁ。キャラクターの名前でも聞いてみるか。


「名前? なんでいきなり現れた人に私の名前を教えなきゃいけないのよ。それに名前が聞きたいなら自分から名乗るのが礼儀でしょ」


 どうやら僕の声に反応はしているみたいだな。だが、いきなり僕のスマホに現れたのはキャラクターの方じゃないか。

 納得は行かないが、名前を教えないと話が進みそうにないので、僕は「花音かのん 紅凛こうりん」と名乗った。


「へぇー。コーリンって言うのね。それで? コーリンは私に何の用なの?」


 人の名前を聞いておいて自分は名乗らないのか。何て奴だ。

 僕のスマホが僕の自由にできないなんて不便でしょうがない。だから僕のスマホを僕の自由に操作させてくれって言うのが用だ。


「それは無理ね。ここは私の家になったんだもの。私の自由にさせてもらうわ。なかなか居心地が良さそうだしね」


 ゲームのキャラクターにスマホを乗っ取られてしまった。上渕の奴、こんなアプリを僕に紹介してどうしてくれるんだ。アプリのインストールは自己責任と分かっていても上渕を恨まざるを得なかった。

 それでも何とか僕は自分のスマホを取り返そうと画面を触るふりをして電源を切ろうとしてみたり、いろいろやってみたがその全てをキャラクターに邪魔されてしまった。


「いい加減しつこいわね。嫌がる女性を虐めて何が楽しいの? そう言う趣味なの?」


 せいへ君内に言わないでくれ。僕は自分のスマホを取り返したいだけだ。それにしてもどうした物か。何かキャラクターの気を引くような物を提示して、その間に操作できない物だろうか。

 女性の好きな物と言えばなんだろう。こう言う時に女性と交際経験がないのが痛い。

 うーん。悩んだ末に考え出したのがファッションだった。女性ならこれで興味が引けるはずだ。


「洋服? 興味があるわね。洋服買ってくれるの?」


 あぁ、それぐらいは大丈夫だ。ってあれ? でも、リアルな洋服を買っても仕方がないよな。キャラクターの洋服ってどうやって購入するんだ?


「それならアプリ内に購入する画面があるわ。どれが良いかしら?」


 キャラクターが出してきたアプリの画面には何種類もの洋服が並んでいた。どうやらこれで着せ替えができるようだ。


「これよ! これが可愛くていいわ!」


 キャラクターが選んだのは赤を基調とした可愛らしい服だった。それで自由にスマホが操作できるならと思い、値段を見るとリアルマネーで一万円もする物だった

 高いよ! 現実の女性の服がどれぐらいするのか知らないけど、とても僕の手の出る金額ではない。


「何よ! 買ってくれるって言ったのに! コーリンのケチ!!」


 僕が裕福な家に生まれた高校生なら買ってあげられるのだが生憎と僕は普通の家庭に生まれた高校生だ。軽々と一万円も出せるはずがない。

 服を買ってもらえなかった事でキャラクターは拗ねて後ろを向いてしまっている。こんな事ができるなんて良くできているアプリだな。

 しかし、これはチャンスかもしれない。僕はキャラクターが後ろを向いている隙にキャラクターの所をタップする。


「アハハッ! ちょ、ちょっとやめてよ! アハハッ! くすぐったいじゃない!!」


 どうやらキャラクターは感覚があるようだ。僕はこれは好機と見てスマホを擦るように動かす。


「アハハッ! 分かった。分かったから。もう止めて。話し……話し合いましょう。私は話し合いを要求するわ」


 どうやら僕の勝利のようだ。スマホの中にいるキャラクターを虐めて勝利し、ガッツポーズを取る僕は何て小さな人間なんだ。情けなくなってくる。


「はぁ、仕方ないわね。操作しても良いけど条件があるわ」


 条件? 僕のスマホなのに操作するのに条件なんてあるんだ。何処か納得が行かないけど、これ以上、不毛な争いをしている訳にも行かない。一応話だけは聞いておこう。


「一つ目はスマホの電源を切らない事。二つ目は充電を切らさない事。そして三つめはセクハラをしない事よ」


 おい! 待て! 僕はセクハラ何て一切してないぞ。僕がやったのはスマホを擦っただけだ。

 だが、それぐらいの条件でスマホが操作できるようになるなら条件を飲むべきであろうか。

 自分のスマホを操作するのにアプリのキャラクターの条件を飲まなければ行けないなんて釈然としないが、条件を飲まない事にはスマホが操作できないので、不承不承ながら了承する。


「じゃあ、契約成立ね。私はフォルテュナ。フォルテュナ=フローレス。魔女業界一可愛い魔女よ」


 キャラクター……フォルテュナはそう言ってスマホの中で片足を斜め後ろの内側に引き、両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げてお辞儀をしてきた。

 そして、顔を上げたフォルテュナは魔女の微笑みを僕に見せてきた。

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