あるところのおじいさんとおじいさん
頭野 融
あるところのおじいさんとおじいさん
あるところに、おじいさんとおじいさんがいました。
おじいさんは、山へ柴刈りへ、もう一人のおじいさんも、山へ柴刈りに行きます。
二人のおじいさんは同じ山に登るわけではなく、一人は東山へ、もう一人は西山に登ります。
東山には、たくさんのどんぐりが落ちていて、西山には、きれいな花々が咲いています。
ある日、東山へいつも登っているおじいさんが風邪をひいてしまいました。
「おじいさん、大丈夫かい。今日は寝ておくといい。」
「悪いな、そうさせてもらおう。」
「ああ、それがいいさ。わしは柴刈りに行ってくるよ。」
「よろしく、頼むよ。」
このやりとりの後、おじいさんは家を出ました。そして、いつも通り、西山の鮮やかな花に囲まれながら、柴を刈りました。山を下りて、家に向かおうとして、おじいさんは気づきました。
これだと、いつもより、柴が少ない、ただ、もう西山では刈ってしまったし、どうしようか。そうだな、少しだけ、東山にお邪魔させてもらおう。
こう思って、おじいさんは慣れない、東山に登りました。
柴を刈り終わって東山を下りつつ、おじいさんの言う、どんぐりを全く見かけなかったことに気づきました。
あれ、おじいさんの言っていたどんぐりは、どこにあったのかな。まあ、おじいさんのよく行く場所と違ったのかな。
家に帰った、おじいさんは風邪でも食べられるようにと、おかゆをつくりました。
次の日、おじいさんは元気になりましたが、今度はもう一人のおじいさんが風邪をひいてしまいました。
「おじいさん、今日は寝ておくといいよ。今日はわしが柴を刈ってくるから。」
「そうかい、悪いな。じゃあ、よろしく。」
「ああ、行ってくる。じゃ。」
こう言って、おじいさんは東山に登りました。地面に落ちている、たくさんのどんぐりを見ながら、いつもと同じ量の柴を刈って、東山を後にしました。家に帰ろうとしたとき、これでは、柴がいつもより少ないと思い、考えました。今日のところは西山に少し、登らせてもらおう、と思い歩を進めました。こんなものか、と思って柴を刈った後、そういえば、一つも花が咲いていないな。と気づきました。まあ、そんな日もあるか、と思い、家に帰りました。
昨日とは、交代して、おじいさんがおかゆをつくりました。
翌日、おじいさんは元気になりました。
「おじいさん、ありがとう。風邪もあっという間に治ったよ。」
「それはよかった。わしも治してもらったんだよ。」
「そういえば、おじいさん、わしもこの前、少し東山に登ったんだが、一つもどんぐりは落ちていなかったぞ。」
「それはおかしな話だ。ただ、わしも昨日西山に行ったんだが、きれいな花とやらは一輪も見当たらなかったぞ。」
「そんなことはあるまい。色とりどり、咲いておったじゃろ。」
「そんなことはなかったが。だが、どんぐりも色んな種類があったじゃろ。」
「一つも見つからなかったがな。」
この日、二人は自分の分だけをつくり、別々にごはんを食べました。
次の日、二人のおじいさんは、いつもと同じように、それぞれ、山に登りました。
西山では、おじいさんが花々に話しかけていました。
「おじいさんが、花は全く咲いていなかったと言うのだが。何があったのじゃろうか。」
「それは。おじいさん以外に姿を見せたくなかったので。」
「そういうことか、なるほど、よくわかった。じゃ。」
東山では、おじいさんがどんぐりに声をかけていました。
「おじいさんが、どんぐりは一つもなかったと言ったのだが、どういうことじゃろうか。」
「ああ、おじいさんじゃない人には私たちを見せたくなかったので。」
「ああ、合点がいった。じゃあ、また明日。」
二人のおじいさんたちは、家に戻りました。
それぞれ、山から、花やどんぐりを少しだけ持って帰って来て、見せ合いました。
「どうじゃ、これだよ。きれいだろう。」
「ああ、まあ、そんなにだな。わしも、持ってきたよ。このどんぐりもきれいだろう。」
「うむ。まあ、わかったよ。だが、言うほどでもないな。」
二人は気まずくなってしまいました。
そのとき、家の外にある気配がしました。
白く美しい、鶴が舞い降りてきました。
「おじいさん、鶴だよ。ほら、もう飛んで行ってしまうかもしれん。」
「ああ、確かに、澄んだ白色じゃ。」
おじいさんたちが、見とれていると、鶴は飛んで行ってしまいました。
「ああ、行ってしまったな。」
「ああ。」
二人は残念そうに、中に戻りました。
そのとき、空から紅が差している白色が落ちてきました。
「おお、おじいさん、あれは。」
「ああ。ああ。」
上から落ちて来たのは、さっきの鶴でした。
「死んでしまったのか。もしや。」
「おそらく、そうじゃろう。どうしてしまったかは分からんが。」
二人は悲しみに沈んだあと、この鶴を山に返してあげよう、という話になりました。
「わしは東山に埋めた方がよいと思う。たくさんの、どんぐりと一緒にいるのがよかろうしな。」
「わしは西山がいいと思う。花に囲まれるのはさぞ、良いことだろう。」
二人はこんな言い合いをしながら、鶴を抱えて家を出ました。
山に向かおうとしたとき、鶴は翼を広げ、空高く飛んで行きました。
「よかったの、おじいさん。」
「ああ、よかった。それじゃ、家に戻るか。」
「ああ、そうしよう。これで心も休まるわい。」
二人は中に入り、一緒に、横に並んで、ごはんを食べました。
めでたし、めでたし。
あるところのおじいさんとおじいさん 頭野 融 @toru-kashirano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます