第5話 旅への覚悟

 見晴らしの良い草原、大きな樹の下でキャンプをしている。


「みんな、大事な話があるから聞いてほしい。俺の予想では魔王に勝つか負けるかは5分5分だと思う。だから、もしもの時があった場合の保険で俺たちの力を石に封じ込め、後世に生まれる勇者に託そうと考えている」


 黒髪のイケメンが提案してくる。

 周りを見れば8人の多種多様な種族の人が賛成していた。


「どうした?ラビリータ?」


 黒髪のイケメンが心配そうに訪ねてくる。


「は!どうせ、話のあとに食う飯のことでも考えてたんだろ?」


 剣を背負った黒い毛をした人型の狼『狼人ろうじん族』の男が冗談を言ってくる。

 私の体と口が勝手に動く。


「違うよ!ご飯ならさっきコッソリ食べたし…。わ、私も賛成だよ!でも絶対に負けないようにしようね!」

「ああ、もちろんだ!魔王を倒し、世界を平和にしてみんなで飲もう!約束だ!」


 黒髪のイケメンは親指を立てて笑顔で言う。


「うん!約束だよ!トモヤ!」



 物音が聞こえ目が覚める。

 下の階にある冒険者ギルドが慌ただしくしているようだ。


「う〜、さっきのは夢…」


 目をこすり窓の外を見れば朝になっている。

 旅に出るための覚悟を決めるはずが寝てしまったようだ。

 どうしようかと焦っていると、扉が勢いよく開かれる。


「マリー様!大変です!」

「きゃあ!ど、どうしたの?」


 知らない女性が急に部屋に入ってきた。冒険者ギルドの制服を着ているからギルドの職員の人だろう。


「すみません!実は、街の門の前に魔物が現れました!数は30体ほどで冒険者ギルドの冒険者が対応しているのですが、この街のベテラン冒険者は出払っていまして、街に入ってくるのは時間の問題だと思います…」


 この前のミノタウロスの仲間か。私が行って戦うしかない…。けど、こんな覚悟もない私が行って良いのだろうか…。


「マリー様。動き易い服を冒険者ギルドから差し上げますので、急いで着替えて下に降りてきて下さい」


 ギルドの職員の人は部屋から出て行く。


「ねぇ、どうするの?助けに行かないの?」

「きゃあ!急に出て来ないでよ!」


 朝から心臓に悪い。


「ゴメン、ゴメン。それで助けに行かないの?」

「なんの覚悟もない、私が行って良いのかな…?」

「それなら見に行けば?きっと見に行けば覚悟が決まると思うよ」

「どうして言いきれるの?」


 見に行ったところで冒険者の人達が戦っているだけなのに。


「良いから!服着替えて行くよ。それと教えておきたいこともあるし」

「分かった」


 そう言い寝間着を脱ぐと、胸に魔法陣のような模様が入っていた。


「妖精さん、この模様は何?」

「それは剣を召喚する魔法紋だよ。その模様があると、いつでも剣を好きな場所に出すことが出来るんだよ」

「そうなんだ…」


 男の子と付き合った時どうしよう…。魔王を倒さないと消せないだろうし、その時までに魔王を倒そうと密かに心に誓う。


「着替えたよ」


 服は茶色のズボンと肌色の長袖のシャツと茶色の胸当て、栗色のブーツに着替えた。

 サイズはピッタリだった。


「それじゃあ行こうか」


 妖精さんは窓に促す。

 窓は2階の為、降りれるわけがない。


「妖精さん…ここ2階だよ」

「分からない?ラビリータ様の装備の力で行けば余裕だよ。それに早く着くしね」

「ああ、そういうこと…でも大丈夫なのかな…」


 心配しながらも、イメージして剣を出す。

 背中に鞘が現れ、右手に剣も現れる。


「勇者の石は?」

「貴女の左手の甲に魔力を流してみて」


 魔力…以前パパに教えてもらったやり方で魔力を流すと、左手の甲に魔法陣が現れる。


「その魔法陣は『アイテムボックス』のスキルが使えるようになるんだよ。頭の中に今アイテムボックスの中にある物が分かるでしょ?そこから勇者の石を手の平に出すようにイメージして」

「勇者の石…」


 私はアイテムボックスから勇者の石を手の平に取り出すイメージをし取り出す。

 剣の鍔を開き、勇者の石を入れて蓋を閉める。


【ラビリ〜〜タ!!】


 可愛い女の子の声が出る。

 夢で見たラビリータの声と同じ事に気付く。


「『装着!』」


 剣を鞘に納めるとシャキーンと音が鳴る。

 体が光に包まれ服が、ピンク色のウサギをモチーフにした装備になる。

 2回目だけど、まだ恥ずかしい。お腹と脚が出過ぎている気がする。


「ほら!装備したんなら行くよ!」


 妖精さんは私の肩に乗り指示する。

 私は窓枠に足を乗せて飛ぶ覚悟をする。


「早く行って!」

「分かってるよ!!」


 私は勇気を振り絞り、窓からジャンプし家の屋根に着陸する。


「全然痛くない…。これなら行ける!」

「早く!あっちだよ!アビリティ使って早く行くよ!」

「うん!」


 剣を1度少し抜いて、納める。シャキーン!


【アビリティ〜〜!】


「『加速!』」


 私は屋根から屋根へと飛び移りながら妖精さんが指示した場所まで向かう。

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