第3話 勇者の石の力


「ミノタウロス…?」

「ほう…。ガキ、よく知っているな。俺は牛人ミノタウロス族だ」


 ミノタウロスは私の後ろの無残に崩れた妖精女王様と、私を見てニヤリと笑う。


「ガハハハハ!俺はラッキーだぜ!妖精女王は死んでるし、貴様を殺して勇者の石を持って帰れば、幹部に昇進間違いない!!ハハハハハハッ!!!」


 よほど嬉しのか、馬鹿みたいに笑っている。妖精女王様は私に全てを託して死んだ。

 その妖精女王様の死を喜ぶなんて…!横の小さな妖精を見れば悔しそうに睨んでいた。


「ふふっ…」

「ん?何を笑っているガキ?死ぬのが怖くて頭がおかしくなったか?」

「バカね。あなた程度のザコに私が負けるわけないでしょ。それなのにバカみたいに笑ってるのを見てたら笑っちゃった」

「ガキ…!」


 ミノタウロスは怒ったようだ。

 大口を叩いたものの勝算は完全にゼロだ。ミノタウロスは腰巻き1枚だけと馬鹿みたいな装備だが、ハッキリ言って大人の2倍もデカイ奴に勝てる気がしない。


「なら俺に勝ってみろ!『オックスハード・ビッグホーン!!』


 ミノタウロスの頭の左右にある2本のツノが伸び、こちらに襲いかかる。


「きゃっ!」


 間一髪で避ける。まさか、あんなにガタイが良いのに遠距離タイプとは。


「ねえ!妖精さん!何かアイツに勝つ手はない?」

「え!ないのに、あんなこと言ったの?!」

「だって、妖精女王様が死んだ事を笑われて悔しかったんだよ!」

「っ…!勝つ方法ならあるよ!剣を出して!イメージしたら出せるはずだから!」


 剣?消えてしまって何処にあるかも知らない。

 取り敢えず頭の中で『剣よ現れろ』と念じると背中に違和感を感じ見ると、鞘に収まった剣を背負っていた。


「え?どうなってるの?」

「良いから!鞘から剣を抜いて!そのあと、手に持ってる勇者の石を剣の鍔の部分に入れて!」

「注文多くない?!え〜と剣を抜いて…勇者の石を鍔の部分に…」


 剣を手に取り、鍔の部分の長方形をよく見れば開く仕組みになっている。

  鍔の部分を開き、右手に持っていたカード状になった勇者の石を入れて蓋を閉める。


【ラビリ〜〜タ!!】


 剣から可愛らしい女の子の声がした。


「なに、この声?」

「良いから!『装着!』って言って鞘に戻して!」

「それは!妖精女王の宝具か!何をするかは知らんが、させるか!『オックスハード・ビッグホーン!』」

「『そ、装着!』」


 剣を鞘に納めるとシャキーン!と音が鳴り私の体が発光し、ミノタウロスの伸びたツノを弾き守ってくれた。

  その瞬間、まるで周りの時間が止まったように、ミノタウロスや妖精さんが動かなくなる。


 目の前に半透明なウサギ耳のピンク色の真っ直ぐな、腰まである長い髪の女性が現れる。

 顔は少し幼い。桃色のお腹や足が出た動きを最優先にしたような鎧を着ているせいで、グラマラスな体型が際立っている。


『あなたが【トモヤ】が言っていた100年後の勇者様?こんなに可愛い女の子なんて想像してなかったよ』


 女性は優しく笑いながら、私を見つめる。

 そして悲しそうな顔をし、屈んで私の頭に手を置く。


『私達が倒せなかったせいでゴメンね…。お願い…私達の力を使って世界を守って…』



「なんだその姿は!それが宝具の能力か?!」

「これが…勇者様の力を借りた姿…!」


 時が動き出したようだ。気が付けば先程の綺麗な女性がいなくなっていた。

 妖精さんとミノタウロスが私を見て驚いているので、自分の姿を確認する。

 さっきまで汚れたワンピースを着ていたのに、いつの間にかピンク色のフワフワした服になっていた。


「え…」


 頭に何か付いているので触ると、どうやらウサギの耳のようだ。

 胸にはピンクのモコモコの毛皮の胸当て、お腹が丸出しだ。

 腰にはピンクのモコモコの毛皮のドロワーズが穿かされている。

 手にはピンクの指が出ている手袋をし、足はピンクのモコモコしたブーツを履いていた。

 少し恥ずかしい…。


「これが勇者の力か…!貴様の余裕な態度はこれが理由だったのか!」

「っえ!……。ふふっ、その通り!この宝具の力の練習相手程度には、なってよね!」

「ぐっ…!生意気な!!」

「……」


 ミノタウロスが何か言ってきたので乗ってみたが案外効いたようだ。


「凄いね、貴女…。よくそんな嘘が言えるよね…」

「アイツが勘違いしただけだ。それよりさ、この装備になったらどうなるんだ?」

「ラビリータ様は最速の勇者。最速の力が使えるはず」


 私は前世の記憶、前世でプレイしていたVRMMORPG【Equip Adventure World】での戦闘を思い出す。


「それから、武器が出せるはずだよ!」

「武器?」


 私は武器を出すイメージをすると、右手に自分の身長の半分くらいの細長い円錐の形の槍ランスが現れた。

 槍ランスを手にした瞬間、ラビリータの装備のスキルとアビリティの使い方や効果を理解した。


「牛野郎!お前には、妖精女王の死を笑った罪、それと俺の家を燃やした罪、死をもって償ってもらうぜ!」

「ふざけるな!貴様のような勇者に成り立てのガキに負けるか!『オックスハード・ビッグホーン!』」

「当たるか!」


 ラビリータの装備の能力でスピードが上がった為、一瞬のうちにミノタウロスの横に現れる。


「なに!いつの間に!ま、待って!まだツノが戻ってない!」

「待つかよ!おら!」


 槍ランスでミノタウロスのお腹を突き刺し、ミノタウロスは吹き飛ぶ。


「ぐあああっ…!!ク、クソガキが!」


 ミノタウロスは起き上がり前を見るが、そこには俺の姿はなかった。

 俺はミノタウロスが倒れてる間に背後に回り込んでいた。


「こっちだ!バカ!」


 俺は背中に槍ランスを突き刺す。


「ぐおおおお!おのれ…ちょこまかと!貴様のようなガキに…この技は使いたくはなかったが!我が奥義!!『オックスハード・リベンジ!!』」


 ツノが俺に伸びてくる。そのツノを避けるが、避けても俺を追い続ける。


「このツノは貴様を何処までも追い続ける!俺か貴様が死ぬまでな!」

「ふ〜ん、何処までもね…」


 俺はギリギリまで引きつけながらツノに追いかけられる。ミノタウロスの前に行き、ニヤリと笑ってやる。


「貴様!まさか!!」


 剣を鞘から少し出して納める。シャキーン!と音が鳴る。


【アビリティ〜〜!】


 可愛いらしい女の子の声がする。


「『加速』」


 俺はアビリティ『加速』の能力でスピードが急激に早くなり、ミノタウロスの背後に周り込む。

 ツノは俺を追いかける為、ミノタウロスを避けることをせず、腹を突き抜ける。


「ぐおおおお…!!」


 ミノタウロスは自分の角が突き刺さったまま、俺に振り返る。


「貴様なんかに…!この俺が!負けるかぁぁ!!」

「俺が勇者の力で世界を守る!!」


  ミノタウロスの胸に槍ランスを突き刺し、背中の剣を3回少し引き抜いて、納める。

 シャキーン!シャキーン!シャキーン!


【スペシャルスキ〜〜ル!!】


『『兎善極殺うよきょくせつ!』」

「こ…これが!勇者の力…!あ、暗黒騎士様ーー!!!」


 槍ランスが5メートル程に巨大化し、ミノタウロスは木っ端微塵になる。


「終わった…」


 俺は剣を手に持ち、剣の鍔に差し込まれていた勇者の石を抜き取る。

 私の格好は汚れたワンピースの姿に戻った。

 初の戦闘にしては良い方だろう…。にしても疲れたよ…。

 その場に倒れ込み意識が薄れていく…。

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