第2話 前世の記憶

100年前、突如現れた魔王が世界を支配しようとした。

 人々は魔王の従える魔物達に恐怖し世界は混沌を極めた。

 人々が生きることを諦めかけた時、10人の勇者達が魔王を倒すべき立ち上がった。

 魔王は圧倒的な力で勇者達と互角の戦いをしたが、勇者達は命と引き換えに魔王を封印した。

 魔王が封印されたことで魔物は消滅し世界は平和になった。

  勇者達は魔王が再び復活した時の為、世界各地に勇者の力が宿る石を隠した。いつか現れる勇者の為に…。


 それから100年後の《現在》



『思い出して…アナタの本当の記憶を…』


 …………。

 私の本当の記憶…?私の名前は…。




「マリーお嬢様!!マリーお嬢様!!」


 女性の呼ぶ声で目が覚める。燃える屋敷の中。ここは私の家。頭が痛い…。

 さっきの声は一体…。


「ヘレン!早くマリーお嬢様を!」

「分かっています!ですが、先ほど頭に瓦礫が当たったせいで意識が…」


 鎧を着た30代程の男と30代ほどのメイド姿の女性が言い合っている。


「お嬢様?私が分かりますか?メイドのヘレンです!」


 女性は心配そうに私の顔を覗き込みながら肩を揺する。

 この女性は『ヘレン』私の専属のメイド。

 私の名前は『マリー・オレ・グラントリス』この燃えている屋敷の家主の娘。


「もういい!早く、旦那様が言っていた地下室のある書斎に連れて行くんだ!」

「分かりました、ダシウス様!お嬢様、すみません…!」


 ヘレンが私を抱えて走る。

 女性が10歳の子どもを抱えながら走るのは辛そうだ。


「ゴメン…なさい、ヘレン。ボーとしてたみたい…」

「お嬢様!!意識が戻られたのですね?!もう少しで旦那様の書斎に着きます!」


 頭が痛い。どうして私の家が燃えてるのだろう…?


「ヘレン…どうして家が燃えているの?」

「お嬢様…覚えていないのですか…?魔王の従える魔物達が屋敷にあるとされている『妖精女王様の宝具』を狙って襲撃してきたのです」

「妖精女王様の宝具…?」

「はい。グラントリス家の地下には100年前、妖精女王様から守るように命じられた、勇者にしか使うことが出来ない宝具があるのです」


 100年前…。魔王が封印された時に…?

 そんな宝具が我が家にあったなんて知らなかった。

  私は初めて聞く話に少し驚いた。


「お嬢様。旦那様の書斎に着きました。火がこちらまで広がってきています。早く地下室に逃げて下さい!」


 ヘレンは書斎の扉を開け、私を部屋に入れて閉めようとする。


「ヘレンどこに行くの?」

「私は微力ながら魔物を食い止めます。書斎の左下にある赤い本3冊を同時に引いて下さい。お嬢様、どうかご無事で!」

「ダメよ、ヘレン!!」


 ヘレンは来た道を走って戻って行く。

 火の手が書斎にまで広がり始めたので私は急いで書斎の赤い本3冊を引く。

 すると大きな本棚が動き、地下へ続く通路が現れる。


『こちらです…。早く来てください…』

「え…?」

 

 先ほどの声がまた聞こえた。声のする地下へと向かうため暗い階段を慎重に降りて行く。

 しばらく降りていくと、広い場所に到着する。

 この場所だけ部屋のあちこちにある水晶が光っているおかげで明るかった。


『こっちです…。早く…』


 声の主を探しながら歩いて行くと壁際に祭壇のような場所があった。

 祭壇の真ん中には台座があり、私の手よりも少し大きい桃色の六角柱のクリスタルが飾られていた。

  目の前の大きな水晶に映る自分を見ると、着ていた白いワンピースは土や煤で汚れている。

  腰まである長い銀の髪も煤で少し黒くなっており、「マリーは将来は美人さんだな」とパパに言われていた顔も煤で汚れていた。

 

『お待ちしておりました…。勇者の力を扱うことが出来る勇者…』

「きゃあ!」

 

  声のする方向を見ると、先ほど自分の姿を確認していた大きな水晶の中で女性が眠っていた。

 どうなってるの…この人死んでるの?凝視し観察する。


「もしかして、貴女が話しているんですか?」

『はい、私は妖精女王…。貴女をこの場所に導いた者です』


 妖精女王…。確か、パパに聞いたことがある。勇者達の補佐をして魔王の封印に貢献した人だと。


「どうして、妖精女王様が私を呼んだんですか?」

『私…?そう…まだ記憶を思い出していないのですね…。これを…』


 妖精女王様の眠る水晶から光の粒子が出る。

  光の粒子は私の目の前で固まり、私の身長の半分ほどの剣が現れた。

  剣の鍔の部分に長方形の不思議な部分があるが、立派な剣だ。


『それを握って下さい。そうすれば、貴女は前世の記憶を思い出すはずです』

「こ、これをですか?」

『その剣は私がドワーフに作っていただいた、世界に1本しかない剣です』


 私は勇気を出してその剣の柄を両手で握る。


『少しだけ痛いですが、我慢してください』


 剣を握っていると頭に激痛が走る。蹲り痛みに耐える。

 頭の中に走馬灯のように記憶が甦る。前世の記憶。

 ゲーム好きの大学生『日之内遊吾』として生きていた記憶。

 痛みが治り、気がつくと手に持っていた剣がなくなっていた。


『思い出しましたか?貴女の前世の記憶を…』

「 はい…でもどうして前世の記憶を思い出す必要があったんですか?」

「勇者の力を使うためには、前世の記憶と今の貴女の体が必要なのです。貴女は異世界からこの世界を救う為に転生したのですから』


 私が異世界から転生した…。


『貴女には今から勇者達の力を集めていってもらいます。魔王を倒すにはそれしか道はありません』

「勇者の力を集める…?」

『私には、もう時間がありません…』


 妖精女王様の眠っている水晶に大きな亀裂が入り始める。


『先ほど、私の殆どの力を使い、貴女の記憶を思い出させました…。私の命は残りわずかです…』

「そんな…。私はこれからどうしていけば良いんですか?」

『安心して下さい…私の残りの力を使って私の子を生み出します』

 

 妖精女王様の水晶から、光の粒子が出て渦巻き、渦の中から小さな妖精が現れた。

  桃色の長くストレートの髪に白いワンピースを着た妖精。

 背中には透明な4枚の羽根が生えている。


『その子の説明をよく聞いて下さ…い。あとは頼みましたよ…ゆう…しゃさ……ま』


 妖精女王様がいた水晶は無残に崩れた。


「妖精女王様…」

「何しみったれた顔してるの!早くそのクリスタルを取って!」


 小さな妖精は台座の上にある桃色のクリスタルを指差す。

 悲しみに浸るのも出来ないのか、そう思い妖精の顔を見ると少し泣いていた。

 やっぱり、親が目の前で死んだんだ悲しいよな…。

 クリスタルを手に取るとクリスタルが砕け、桃色の透明なカード状になった。


「覚醒したね。その勇者の石は『最速の勇者【ラビリータ・ラビリリル】様の力が込められた石だよ」

「ラビリータ…」


 私は聞いたことがある名前を思い出す。

 そうだ…!前世でハマっていたゲーム【Equip Adventure World】に名前だけ登場する10人の勇者の1人の名前だ!


「ハハハハハハ!!見つけたぞ!妖精女王が眠る祭壇!」


 後ろから声が聞こえ振り返ると牛を人型にした化け物がいた。

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