【ギアナティアナとサンティアラ】
第1話【白砂と青海の島】
青空の頂から降り注ぐまばゆい太陽からの白い日差しが、そこに訪れる者達の心に抱えるわだかまりを照らして払う。このギアナティアナ諸島に吹く夏の風は、訪れる者達を歓迎する。
薄く透いたエメラルドグリーンのなだらかな海は、島の真白くきらめく砂に触れてゆったりとした浅瀬となり、そこに立つひとびとは潮騒を耳に通しながら眺めるだけで、穏やかな気持ちになれた。
空と海のはざまで女神に育まれた世界、ハルミア。
大陸最大の領土を有する王国マハルガリアの東と南の間には、「神に愛された海」を擁する領地、ギアナティアナ諸島がある。ギアナティアナは、王都リヴェアラがある国の中心——ギアナティアナに居着いた者たちが「西大陸」と呼ぶ大地——からは海を隔てて遠く離れた場所にあった。西大陸における各領地の境界線あたりでは、今もなお、貴族が騎士たちを連れて領土を踏み越え、剣を交わして火花を散らし、戦争一歩手前の小競り合いを繰り返している。
そのはずだが、そんな西大陸の鉄と血と利権争いによるささくれた空気も、この地ではすっかり薄れてしまい、ギアナティアナは日々平穏そのものだった。マハルガリアの王国民が入植を始めて以降、この島嶼群は貴族や富豪たちが日頃の疲れを癒すための行楽地となり、人々はそこに争いの火種を持ち込まない。
ギアナティアナは今日もまた、豊かな陽光がふりそそぐ。海は広く穏やかだった。
つい、青空を見上げては手をかざし、その陽ざしの白さに目をまたたかせてしまう。打ち寄せる渚のそばに佇めば、耳でふるえる波の音が涼しげで心地よかった。今日もきっと、静かに過ぎるのだろう。
僕がいま立つこの場所は、ギアナティアナ諸島で一等のスパ・リゾート。
客ではなくひとりのスタッフとして、西大陸で剣を振るっていた在りし日の血なまぐさい日々は胸の奥にしまい込み、この地に訪れた彼らにふさわしい陽と海と風を味わえる空間を添えること。
それが、ここに立つ今の僕の役目。
客室で寝入っていたお客さんたちは、そろそろ目を覚まし、動きはじめるだろう。
それに、海の向こうからやって来るお客さんたちも出迎えなければならない。
ギアナティアナでは様々なことが起こる。
ギアナティアナには様々な人間がいる。
彼らはギアナティアナになにかを求めてやってくる。
——この島は、ただの行楽地ではない。
後方から、僕の名前を呼ぶ聴き馴染んだ若い女性の声。
「副総支配人! アリシュヴァール副総支配人! ……もう、セトくん!」
「聞こえてますよ。トキワさん」
「なら、返事をしてくださいよ! とにかく、まもなくご到着の時間でしょ!」
小さく頷き、踵を返した。
「そろそろだと思っていました。行きましょうか」
腰に差す青い半透明の柄が、朝のご機嫌な陽を浴びて喜んでいる。
大陸の傭兵団から離島のスパ・リゾートへと立つ瀬が変わり、じきに一年。
そんな僕の一日の仕事が始まっていた。
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