第3話【「向こう」と「こちら」】

 時の過ぎる早さ。

 この町——「こちら」に流れる時間は、とてもゆるやかだ。

 過ぎゆく時の早さが人によって異なるのなら、修司が「こちら」で過ごすうちに、「向こう」で勤しむ人々は倍の何かを得ているのかもしれない。帰郷してすぐは、そんな考えが脳裏に過り、不安を抱くこともあった。それほど、ここで過ごす時の体感速度は、緩慢としている。


 ——自分はほんの数日前まで、ビルしかない窮屈な都市の一区画で、無為に過ごしていたはずだ。

 修司は、自分が故郷を出た先で縁を持った街を「向こう」と呼ぶ。

 都心から電車で数十分程度しかない程度の距離。それでも、常に何かを追い、そして何かに追われていたでは、もはや地続きとは思えないほどに日々の過ぎる早さ違っていた。

「でも、それが正しかったのかと言われれば——」

 答えは出ない。

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