第10話 襲撃と膝枕

 教室に監禁されてから三十分。

 既に俺の頭はおかしくなっていた。……元々とか言うな。泣いちゃうぞ?


 だが、この状況を経験すれば、誰もが頭がおかしくなることだろう。


 椅子に縛り付けられた挙句、ネットで調べたての「萌える仕草」や「キュンと来る言葉」を延々と見せられるのだ。

 

 ……ん?相手が美少女たちなんだから幸せだろって?

 まさか。


 地獄だよ、あれは。

 美少女だからこそ、地獄になるんだ。


 どの仕草や言葉も全て心臓を撃ち抜かれるような威力があって、俺の精神は崩壊しかけた。拳銃なんて目じゃないレベルの威力だと思う。


 ……まあ、そんなこと今は置いておいて。


 俺は!やっと!解放されたぞぉぉぉ!


 涙目になりながら「……もう勘弁してぇ……」と女々しくも懇願すれば、あっさりと彼女たちは解放してくれた。……ああ、自由って、いいね……。


 自由になった嬉しさに教室のドアを開ければ―――


「タケイ、チョットコイ」


 掃除用具を剣のように構えた猿が数百匹いましたとさ。


 俺の運命は、死の一択でしょうか?


 そんな絶望的状況をいつも救ってくれる救世主のレミさんはというと……あら、楽しくおしゃべりしているようですね。


 つ・ま・り?


「「「「「武井秀悟ぉぉぉぉっ!覚悟ぉぉぉぉっ!!」」」」」

「誰かぁぁぁぁっ!たすけてぇぇぇぇっ!」


 捕まったら死の鬼ごっこが開始されました。

 開始時点で周りを囲まれています。

 よって、死―――




 目が覚めると、頭に柔らかい感触を感じていることに真っ先に理解した。

 その後、はっきりとしない視界にぼんやりとした人の影が―――


 ……もしかして、これがいわゆる“膝枕”ってやつですかね?

 

 マジか。テンション上がって来たんですけど!


 急に元気が出てきた俺は、誰が俺に膝枕をしているのか、ぼんやりとした視界で判断する。

 恐らく、あの五人の女子の中の誰かだろうな。

 こういうことしそうなのは……沙也加とか躊躇無くやりそうだな。紗希も抵抗無さそうだし、風月もやりそうだ。……レミとか冗談半分でやりそうだし、唯香も恥ずかしながらもやりそう……って、全員じゃねぇか!


 ……ま、取り敢えず確認してみるか……


 そうして俺の願望―――もとい予想は、完全に外れるのであった。


「……お、起きたか秀悟」

「……………………………………………………………………慶也、死ね」

「第一声がそれかよ。普通に傷つく」

「俺の初膝枕を奪った罪はでかい」

「あー……それはすまんな。枕無かったもんで」


 痛む体をゆっくりと起き上がらせ、周りを見渡す。


「……ここは?」

「……どうやら俺達、異世界に飛ばされちまったみたいだ……」

「……ああ、ここ中庭の端っこか」

「渾身のボケをスルーしないでくれ」

「……さてと、帰るか」

「聞いてるか?俺泣くぞ?」

「高校生にもなって人前で泣くのが恥ずかしくないのならどうぞご勝手に」

「……膝枕したこと、そんなに根に持ってんのかよ」


 慶也は「はぁ……」と重い溜め息をついて、よろよろと歩きだしていた俺を支えてくれた。


「………………さんきゅ」

「おう」


 言いたくないけど、しょうがなく感謝してやる。つーか、こうなってる原因って、慶也たちのせいだよな。


「……なんで俺を膝枕してたんだ?」


 思わず尋ねると、慶也は少し考えてから、


「ここで優男アピールしとけば沙也加ちゃんに惚れ直されるかもだから」

「感謝した俺がバカだった」

「おいおいおい」


 その返答を聞いた俺は、慶也の支えていた手を振りほどき、よろよろと歩く。


「嘘嘘。普通に申し訳なくなったからだって。直接殴らなかったとはいえ、守れなかったからな」

「……んなことお前が気にする必要ねぇよ。お前は悪くない。悪いのはあの猿達だ」

「猿って……あながち間違ってはいないけどな」


 慶也はさっきの襲撃で俺のことを殴っていない。なんなら俺への攻撃を減らすように説得してくれてたのを覚えている。そのおかげで尻だとか被害が大きくならないようなところばかりを攻撃されただけで済んだ。痛いのに変わりはないけどな。


「……よし、この話は終わりだ。慶也のおかげで被害もそこまで大きくないし、ここには悪いやつはいない。だからこの話はもうするんじゃないぞ」

「……ありがとな」

「それはこっちのセリフ」


 これ以上気を使わせたくないと思い、俺は頑張ってテンションを上げる。


「んじゃ、取り敢えずコンビニ行ってアイス買うぞ。慶也のおごりで」

「なんでだよ」

「い~だろそれくらい。ほら速く行くぞ」

「はいはい、わーったよ。……ほら、肩貸すぞ」

「さんきゅ」


 すっかり真っ赤に染まってしまった空の下、俺達の友情がより一層深まった気がした。

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たとえハーレムな状況にあろうとも、俺は貴女に好きと伝えたい。 香珠樹 @Kazuki453

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