第9話 第一回武井秀悟略奪作戦会議

 先程の告白から少し経ち、教室で机を円状に並べていた。

 ちなみに関係のない人はレミが、それはもう丁寧に退場を促していた。

 なお、このことで翌日からレミは「学園の堕天使」と呼ばれることになる。……なんとなく不名誉なあだ名だな。


 そんなことを考えていると不意に沙也加が立ち上がり、手をパンと叩いた。


「では!今から第一回武井秀悟略奪作戦会議を始めます!進行は私、武井秀悟の幼馴染の松崎沙也加が務めます!」

「「「「よろしくお願いします」」」」


 ということで、第一回武井秀悟略奪作戦会議が始まりましたねぇ。さて、皆さんはどのような意見を出すのでしょうね……って、何でそれを本人がいる前でやるんだろうか。全部筒抜けだぞ。作戦も何もあったもんじゃない。


「まず!何かいい案がある人はいますか?」

「「「はい!」」」


 そして唯香、風月、紗希の三人が手を挙げた。……ってか、今更だけどレミもこれ参加するのかよ。別にお前俺のこと好きじゃないだろ。


「じゃあ、いっせーのーでで言いましょう!」


 雑だなおい。ちゃんと指名してやれよ。


「いっせーのーで―――」

「「「色仕掛け」」」

「あ、却下で」


 一応この場にいるんだし、俺も発言権は持ってると考えていいよな?

 つーか色仕掛けってなんだよ。一番最初に出てくるのがそれとか……風月と紗希はともかく……いやともかくじゃないけど、唯香まで同じことを言ってるのかよ。イメージ壊れるわ。


「いいじゃないですか色仕掛け。秀悟君も男の子でしょう?」

「先輩も嬉しいんでしょうに」

「兄さん、照れてるの?」

「いや、照れてないから!……とにかく、色仕掛けは止めてくれ。もしやったら口きかない」


 再利用だけど、効果はあるはず!


「……そんなこと言ってるけど、シュウの方が我慢できなくなって話しかけてくる気がするのだけれど」

「あ~確かに。秀悟忘れっぽいし」

「うっ……」


 確かに……って、自分で納得しちゃダメだろ俺。

 ……どうやって説得しようかな。


 色仕掛けは嫌じゃない……というより、俺も男だし、されたら嬉しいよ。

 でも、そうやって誘惑されて好きになるっていうのはなんというか……違う気がするんだよな。


「……俺、やっぱり好きな人のことは大切にしたいんだ。だからだな……もし誘惑されて本能の赴くままに襲ったら、その人のことを大切にできないってことになると思うんだ。要するに、魅力的ではあるけど大切にしたいとは思わないって感じ?だからもし色仕掛けをして俺が襲ったりしたら……まあ、そういうことだ」

「「「「!!」」」」

「……なるほどねぇ……」


 おっ!これは効果があったんじゃないか?

 一応、言ってることは本心だ。本当に好きな人は大切にしたいし、責任が取れるようになるまでそういうことはしたくない。あの人のことだって、今まで一度もそういう目で見たことないし。


「そっか……色仕掛けはダメかぁ……」

「大切にされてないってわかるのはちょっと嫌ですね……」

「じゃあどうすれば……」

「……だとしても既成事実さえ作れば……」

「おいコラ紗希。今日帰ったら絶対に家族会議すっからな」


 紗希……兄さんはお前がそんなになって悲しいよ……。

 皆が他の手段を考えていると、先程からスマホをずっといじってたレミがこっちに寄ってきた。

 そして俺の前に来ると、突然屈んだ。


「……シュウは、どんな仕草が好き?」

「!!」


 レミは髪の毛を耳にかけながら言ってきた。

 

 ヤバい。

 めっちゃキュンとした。

 レミは元々美少女だし、それに俺の一番好きな女子の仕草『髪の毛を耳にかける』というのが重なり、素晴らしい相乗効果を生み出している。


「……あれシュウ、どうしたのかしら目なんか逸らして」

「な、なんでもねぇよ」


 いたずらっぽく微笑んで俺が目を逸らした方向をのぞき込んでくる。

 普通に照れるからやめて!


「う、うわ……榊原さん強~」

「す、すごいですね……」

「え~、それ私の専売特許なのに~!」

「…………(メモメモ)」


 いや、助けて!

 俺の心が揺れてしまいそうなんだが!


「ふふっ。意外とシュウって初心なのね」

「……うるさい」


 危ない危ない。

 これが「萌え」ってやつか……。

 レミが離れてくれたのでホッと溜め息をつく。心臓に悪いな、これ。


「貴方達、シュウにはこういう風に誘惑するのよ。色仕掛けよりも効果あるんじゃないかしら?」

「「「「「……なるほど」」」」

「……やってくれるのは嬉しいけどよ、あまりやりすぎないでくれよな。心臓に悪いし何故だか知らんが疲れるから」


 言ってから「しまった」と思った。

 彼女たちは俺の愛を略奪うばおうとしているわけで、これが効果があると知ったら全力で攻めてくるだろう。実際、彼女たちの目がキラリと光ったのが見えてしまった。


 危機感を感じた俺はそそくさと教室を出ようとしたのだが―――


 ―――にっこりと笑っている四人の美少女に捕まってしまいましたとさ。

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