第7話 混沌とした教室と告白
佐川風月。
俺の一つ下の後輩で、“学園の小悪魔”と呼ばれている。
小柄な体で、小動物を思わせる。
そして何より、あざとい。
小悪魔と呼ばれる所以であるそのあざとさは、男子……もとい猿達を虜にした。
―――とまあそんな感じで、簡単に言えば風月は可愛いのだ。
その小悪魔さんが、今俺に俺に抱き着いている。真正面から。
どうなるかは、容易に想像できるだろう。
まず、何もしていない俺が重力を何倍にもしたような重力のごとき圧力を受けた。
その後、俺の周りに引っ付いていた女神様、アイドル様、姫様―――さらにはさっきから彼女たちに対して無視を決め込んでいたレミでさえもが風月を引きはがすべく引っ張る……が、なかなか離れない。
そして先程まで我慢していたらしい猿どもが流石に耐えられなくなってきたのか、飛び掛かる―――前に女子勢から睨まれてすごすごと引き下がる。
離れないと理解した女子勢は、諦めて俺の四肢にそれぞれ抱き着いてきた。うん、これで一件落着……になるかよ!なんだよこの状況!
「ああもう暑苦しい!お前ら離れろ!」
「「「「「やだ」」」」」
「何故に!」
俺の悲鳴は猿を刺激するだけで終わった。猿からは十人は殺せそうなほどの殺意を頂きましたが。
全身に感じる色々な感触に理性を崩壊させかけながらも、ひたすら我慢して打開策を練る。……ダメだ、集中できない。
ふと右腕に掴まったレミを見て、俺は一つの案が思い浮かんだ。
「お前ら離れろ。離れなければ口をきかん!」
すると一瞬で全員が離れる。凄いなこれ。これからも使おう。
俺は彼女たちと少し距離を取り、腕を組んで仁王立ちする。
「……まず風月。何しに来た」
「……久しぶりに先輩に会いたくなってここに来ました」
「何その理由。男としては嬉しいけど、意味わからん」
「そのままの意味です」
……つまり、風月は俺に会いたかったと?何故に。
「どうして俺に会いたかったんだ」
「先輩が好きだからです」
「「「「「「「「え?」」」」」」」
何この子。めちゃくちゃストレートにすごいこと言ってきたんですけど。これって告白って捉えていいやつですかね?にしては状況がおかしいだろ。
ってか、猿どもざわつくな。気が散る。ほら、女子勢だってこんなに静かに……え、みんな爆発直前みたいな雰囲気なんですけど。レミだけ面白いものを見るように笑っているのが気になるが、そんなことより爆発を防がねば。方法思い浮かばないけど。
そして俺は失態を犯す。
「えーっと、風月さん。それは恋愛感情的な意味での“好き”ですかね?」
「はい」
火に油を注ぐとはこのこと。爆発直前の彼女たちは、爆発した。
「ちょっと風月ちゃん!抜け駆けはよくないよ!」
「そうですよ!協定違反です!」
「風月、ずるい。私達は我慢していたのに」
「いいじゃないですか!好きな人に好きっていうのに我慢する方がおかしいです!」
「そ、それなら私だって……秀悟!私、あなたのことが好きだから!」
「松崎さん!?……わ、私だって秀悟君のことが好きです!」
「兄さん、私も。家族としての“好き”じゃなくて、異性として好き」
「はぁっ!?お前ら何言ってんだ!?」
「あはははははは!」
ちょっと待てよお前ら!
お前らが俺を好き?冗談の範疇を超えてるぞ!
俺が驚いた顔をしているのを見たレミが、笑いながら説明してきた。
「まさかシュウ、貴方気付いていなかったの?本当に面白いわね?」
「おいレミ。どういうことだ」
「彼女たちも言ってるじゃない。貴方が“好き”って。そのまんまよ。……ほんと、鈍感って罪よね」
ってことは、本当に彼女たちは俺のことを……?
だとしたら今までの行動にも全て納得がいく。
沙也加が俺といるときにすごく楽しそうなのも。
唯香が俺のことを下の名前で呼び、俺に下の名前呼びを許容していることも。
風月が俺になついていて、突然抱き着いてくることも。
紗希が俺が沙也加や他の女子と一緒にいるときに不機嫌になるのも。
全部、俺のことが好きだったからなのか……?
整理できない。
わかってはいるのだ。レミの言うことが正しいことも。
納得もしている。
でも、脳が正常に機能しない。
理解することは簡単なのに、脳が拒否する。
別に嫌なわけじゃない。でも、本当なら喜ばしいことなのだろうが、全然嬉しくない。脳が理解しきれていないから、喜びという感情にまで至っていないのだろう。
そこに、追い打ちがかかる。
「秀悟は」「秀悟君は」「先輩は」「兄さんは」
「「「「誰が好きなの!?」」」」
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