第4話 修羅場……?
唯香を助けた日の翌朝。
「秀悟~!行こ~!」
「おう」
昨日と同じように沙也加と学校に行く。
だが、今日は昨日と同じではないことがある。
「紗希も行くぞ」
「うん」
昨日はやることがあると言って一緒に行かなかった妹の紗希が一緒なのだ。……まあ、これがいつも通りなんだけどな。
昔から俺と沙也加、紗希の三人で学校に行くことが普通だった。
だが、最近は紗希があまり一緒に行きたがらない。今日だって俺が誘ったから来たのであって、誘わなかったら先に行くことが多いのだ。……紗希も「お兄ちゃんと登校なんて恥ずかしい」とか考えているのだろうか?だとしたらへこむぞ、俺。
「今日は久し振りの授業だねっ!」
「ああ、そうだな。……確か、一時間目は小井澤だっけ?」
「えっほんと!じゃあ早く行こっ!」
小井澤は数学教師で、若いこともあって人気が高い。しかも、普通に授業も面白いのでその授業を楽しみにしている生徒も多い。
沙也加のその一人のようで、よっぽど楽しみなのか俺の腕を掴んで歩くスピードを上げる、が……
「私、一時間目須川だから早く行きたくない」
紗希が俺の服の裾を掴んで引っ張っているので、あまりスピードが上がっていない。しかも、沙也加を見る紗希の目が鋭い。沙也加も、紗希を見る目が鋭い。
そんな二人の間にいる俺は、怖くて何もできない。ただ、上を向いて空を観察するだけだ。……ってか、そもそもなんでそんなに目が鋭いんですかね?
そのまま睨み合っている二人だが、そろそろ歩きださなきゃ間に合わなくなりそうな時間だ。俺の腹時計がそう言っている。
この方法はあまり使いたくないのだが……と思いつつ、空いている手で紗希の頭を撫でる。
すると先程までの眼光はどこへやら、一瞬で穏やかな目になった。
同じように沙也加も撫でると、二人とも俺から離れてすたすたと仲良く会話しながら、俺を置いて進んでいく。……あれ、お前らさっきまで睨み合ってたよな?
ちょっと不満な点もあるがこれで問題なく登校できそうなので、良しとするか。
二人に追いついた俺がそのまま会話しながら登校し、校門の近くまで来た。
だが、なんかおかしい。
「……なんで校門の前にあんなに人が集まってるのかな?」
「……取り敢えず、見てくる」
そう言って紗希が偵察に向かう。……俺を連れて。
いや、沙也加もそうだけど、俺のことを引っ張らないでくれ。ってか沙也加も付いてくるのな。
―――だが、そのことを俺はめちゃくちゃ後悔することになる。
「あ、秀悟君」
「「「「「え?」」」」」
「「え?」」
「……え?」
順に、唯香、周りの人々、沙也加と紗希、そして俺。
どうやら、この集団は唯香が校門にいることによって集まってきた奴らみたいだ。
まあ、変な話ではない。あの星永唯香が誰かを待っていたのだ。天地がひっくり返るほどあり得ないこと……とまではいかないが、普通に珍しい。
そしてだ。
今唯香は俺のことを「秀悟君」と呼んだ。
唯香は男女問わず苗字プラスさん付けで呼ぶ。下の名前で呼ぶような相手はいない……はずだった。
そこに現れたのは地味な俺。
皆の驚愕もわからなくは……
「ねえ秀悟!どういうことなの説明して!」
「兄さん、説明はよ」
「あーえっと、それはだな……」
あーうん、まあ聞かれることは予想してたけど、そんな強い目力で睨まれるとものすごく怖いんだが……。
どう答えるか迷っていると、こちらに寄ってきた唯香が助け舟を出してくれた。……大量の爆弾を添えて。
「秀悟君は私の“大切な人”なんです」
「………………は?」
「「「「「「「はぁぁぁぁああ!」」」」」」」
え、何言っちゃってんのこの人!
そんなの思うのは勝手だけどわざわざ人いるのに言う必要ある!?ってかそもそも俺は唯香にとってそんな存在だったの!?
上手く整理できない頭を使って、言葉をひねり出す。それが新たな地雷となることも知らず。
「……唯香、誤解を招く……」
「「「「「「「唯香?」」」」」」」
「あ……」
ああ、やってしまった。
彼女のことを下の名前で呼ぶことはタブーとされているのに。いくら本人に許されているからって……どうしようかな。
「……秀悟?ちょーっとオハナシがあるんだけど……」
沙也加が俺の右腕を取って引っ張る。
「兄さん、ちょっと来い」
紗希は俺の左手を取り。……って、あのぉう紗希さん?いつからあなたそんなに口悪くなったの?
「ダメですよ、お二人さん。秀悟君は今から私と教室まで行くんですから」
最後に唯香が俺の腰に抱き着いて引っ張ってきた。……え、これってほぼ抱き着かれているんじゃ……。
「修羅場だ」
「修羅場ね」
「修羅場じゃん」
「修羅場かよ」
「修羅場……羨ましい妬ましい」
「修羅場……呪う……」
「修羅場……よしお前ら、招待状を送りつけるぞ」
「「「「「イエッサー!!」」」」」
誰か助けて………………
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