第1話 幼なじみのお姉ちゃんじゃダメですか?

 「………はぁ」

 あの件から数日が経ち、俺は見事にメンタルブレイクしていた。ここ数日で何回溜息ついたんだろう…… 俺はそんなこと思いながら机に昼飯の準備をする。

 「お前まだ引きずってんのかよ……」

 するとそんな俺の気持ちも梅雨知らず、呆れた口調で話しかけてくるこいつの名前は篠崎拓真だ。

 俺みたいな凡人DK(男子高校生の略)とは違って、顔、知能、運動神経の三拍子全てが揃っている超エリートDKだ。拓真とは中学からの仲でたまにだが美香と拓真と俺の3人で遊んだこともあった。ちなみに美香も俺らと同じ高校だがクラスが別なので高校で話すことはほとんどなかった。

 「当たり前だろ……俺がどんだけ美香の事好きだったと思ってんだよ」


 「いや確かにそれは分かるけどさ……」

 

 「はぁ……お前みたいに完璧DKだったらこんなことには……」

 俺はそう言って拓真の顔を見直す。そして改めて自分の顔面偏差値の低さに絶望し机に突っ伏した。

 

 「まぁ、とにかく次の恋を見つけるように頑張れ。 ほらこれやるから」

 拓真はそう言って俺の好きな紙パックのオレンジジュースを机にポンと置いた。いつもの俺なら素直に喜べるはずだったがそのオレンジ色の紙パックを見た瞬間、頭の中で淡い記憶が掘り起こされる。


 「はぁ……これもよく美香と飲んだなぁ……」

 俺はそんなことを口にしながらストロー刺してちびちびと飲む。拓真はそんな俺を見て呆れたような声で「…………お前本当に重症だな」と言って同じ物を飲み出した。いや言われなくても重症なんて分かってるんだけど、もう何見ても聞いてもここ数日ダメなんだよなぁ……

 結論その日は残りの授業も手につく訳もなく、俺はさっさと学校を後にした。いつもなら美香から「一緒に帰ろ〜」とLINEが来るので基本的に学校で待つことが多かったのだが今はもう必要もない。そう必要ないんだ……はぁ。ダメだ悲しくなってきた。

 そんなことを想いながら風に吹かれてBluetoothのイヤホンをつけて颯爽とチャリを漕ぎながら家に向かう。これだけ聞いたら青春感あるよね……

 すると家の前に意外な人物が立っていた。そしてこちらに気づいたのか笑顔でおおきく手を振ってくる。俺は急いでチャリを漕いで家の前で止めて話しかけた。


 「どうしたんですか優美さん。珍しいですね」


 「あっ、ちょ、ちょっと春樹くんに話があってね」

 このもじもじしながら可愛い表情を見せるこの人の名前は坂本優美。そう、美香の実の姉だ。年は俺の2個上の高校3年生。高校はもちろん俺と美香と同じだ。美香はお姉ちゃん大好き系女子だったので高校を決めた理由も「お姉ちゃんがいるならそこしかありえないでしょ!」という物だった。まぁ俺が高校決めた理由も美香がいるからなんですけどね。じゃあ俺は幼なじみ大好き系男子? やかましいわ。

 話が逸れたがよく昔は美香の家にお邪魔した時

 一緒におままごととか美香の両親のご好意でファミレスに連れてもらったりとかして結構面識はあった。だがここ数年は来るとしても俺の家ばっかだったので顔を見かけることはあったが実際に話すことはほとんどなかった。ただ俺に一つだけ嫌な心当たりがあった。

 「話ってもしかして美香の事ですか……?」

 俺が恐る恐る聞くと、優美さんは申し訳なさそうな顔をしながら黙って頭をこくっと縦に振る。


 「俺が振られたの聞いたんですね……いや本当恥ずかしいですなんか」

 俺はあははと苦笑いしながら頭をかいて恥ずかしさを誤魔化す。

 すると優美さんは俺の手をギュッと掴み、上目遣いで俺の目を見つめながら

 「そ、そんな事ないよ! 恥ずかしいなんて全く。むしろカッコいいよ。頑張って告白して想いを伝えて私には無理だもん」

 俺は優美さんの表情を見て思わずドキッとしてしまう。正直、優美さんも美香に引けを取らないくらいめちゃくちゃ可愛い。優美さんは美香とは違って黒髪ロングの清楚系お姉さんって感じ。だがやはり姉妹なのか美香のような幼さも感じられてうちの学校の美女ランキングトップ3に入ってるみたいな噂も聞いたほどだった。

 

 「あ、ありがとうございます。本当に嬉しいです……実は結構メンタル来てたんで」

 優美さんは多分、俺を気遣って心配して話しかけに来てくれたんだ。

 思えば昔からそうだった。俺が怪我した時は一目散に飛んできて手当てしてくれたり俺が公園でいじけて泣いてた時はわざわざ探しにきてくれて。俺はどこか昔に戻ったような懐かしい感覚だった。


 「やっぱそうだよね……じゃ、じゃあさーー」

 優美さんは何か言おうとして一度黙り下を俯く。そして大きな深呼吸をして俺の手を掴んだまま、さっきよりも近い距離で、

 「私じゃダメかな……?」

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