背徳の紅after:毒女の遺産(中編)

草原にて、コメットは的になる人形に向けて銃を向けていた。


1か月前、戦闘の衝動による件から未だ解決は出来ないでいた。

だってほら、銃を向ければ見えてしまう。


首、左胸、肋骨、手首、脇、頭、顎────ありとあらゆる殺すのに最適な場所が見えてくる。

そら、引き金を引けば、そこに当てれば終わらせられる。

嫌でも理解出来てしまう。

身体で覚えてしまった技能が、コメットを呪う。

そして問われるのだ。



────本当に化け物は誰なのか、を。



手が震える、汗が止まらない。

イグニスを殺しかけてしまったあの瞬間を嫌でも思い出してしまう。


怖くて、怖くて、怖くて、怖くて────


─────つい、自分のこめかみに銃口を向けてしまう。




「─────やめろ。」



コメットの手首をつかみ、銃口を上に向けさせる。

お前が化け物であるものか、と。

手首を掴んだ主は、その目は強く訴えている。


「・・・イグニス、やっばり怖いよ。」


何故怖いのか、もはや語るまでもない。

いつか、自身の手で誰かを─────。


「私は・・・隔離されるべき、なんじゃないかな。」


弱気に、呟いてしまう。

だがそれをイグニスは容認するはずがない。


「それは違う。

たとえ世界の全てを敵に回すとしても、それはさせねえ。」


それを聞いたコメットは歯噛みする。

ああ確かに、お前ならばそう言うだろうと理解しよう。

それでも──────


「お前な!俺は、兵器としても、材料としても育てられたんだぞ!?

そんなのがみんなの傍に居て、いいわけないだろ!!

ここに、家族に入れてくれたみんなを、危険に晒す訳にはいかない!

前だってお前を殺しかけたんだぞ!

首輪があれば、そんなことなかったのに!」


吐き出した言葉はまるで、かつてイグニスを突き放そうとした時のように哀しかった。

だから、尚更イグニスにとっては腹が立つ。


「知るか、仲間は殺させないし、お前にも殺させない。

それを勝手に諦めんじゃねぇ!」

「なら、なら・・・!

あの首輪を、もう一度・・・!」


再び言い合う二人。

あまりに不毛で平行線になると分かりきっていても譲れない中───


「─────はいそこまで。

不毛な痴話喧嘩してんなよ馬鹿どもめ。」


アルが、黙らせるように割り込んできた。

二人の視線が、アルに集まる。


「やっぱりな・・・

まぁでも、おまえの殺意のろいを抑える術は作った。

幾分か、マシになるだろう。」


そこまで言って、ひとつため息をつく。


「────で、だ。」

「な────!?」

「アル!?」


まさかの、イグニスを横から蹴り飛ばす。

反応できなかったイグニスは、横腹を抑えながら膝をつく。


「おまえ一人でどうこうならないだろ馬鹿め。

諦めない?当たり前だろうが、おまえだけの決意で決められても困るんだよ。

まったく、いい加減言わなくても私を呼べよな。」


イグニスは何も言い返せず、コメットはそれを聞いてアルに向けて乾いた笑いをする。


「・・・アル、もしかして隔離しに来たのかい?」

「いいや、おまえにある殺意を、どうにかする手段を創った。

確かネックレスあるよな、見せてみろ。」


コメットはかつて、イグニスから買ってもらったネックレスを見せる。

それに、アルはあるものを取り付けた。


「はいどーも。

イグニス、これは首輪じゃない。

あんな針に頼らない薬だ。

これなら文句ないだろ。」


それは小さな宝石。

ネックレスの装飾部分に取り付けられている。

コメットはなんだこれ、とそれを摘んで見ている。


「おまえから預かった首輪についていた薬品の成分を分析し、ピースと共同で完成した精神魔法が込められた魔道具だよ。

おまえの危険域の殺意に反応して、1度きり発動する。」


なるほど、確かにこれならば注射はいらないと聞こえはいいだろう。

だが、当然の疑問が残っている。


「一度きり、か。じゃあこれが無くなったら、どうする。」

「私たちに言えばいい。ストックもある。」

「なら、そのストックもくれ。一度は大丈夫でも、二度目がすぐに起きないとは限らない。

ただ─────」


そう、解決策もあるのだが。

ただやはり、がある。


「・・・俺は、これを自分で取り替えられない。」


当然の欠点だった。

殺戮機械キリングマシーンとなったコメットにとっては、取り替える理由をもたないのだから。


だから、そうなった場合の解決策はただ一つだ。


「誰かが、止められならいいんだよな?」

「おう、誰かが代わりにはめこめばいい。

足りないなら、気絶させればいい。ボコボコに。」


単純明快だ。

だが、それは言うだけなら簡単な行為だ。


「だが、知ってるやつで俺をボコせたやつはいない。

しようとしなかったのもあるが、とにかく。


戦った中では、俺を倒したことあるやついねぇんだわ。」


コメットはケラケラと笑った。

どうだ、手詰まりだろう?と言わんばかりに。


だが、またしても。


「俺がやればいい。」


それをどんな事であれ諦めない。

それがイグニスという男だった。


「・・・く、あは、ははははは!!」


そんな簡単に言い放ってくるものだから、コメットは腹を抱えて笑ってしまう。

ムキになってしまうのがわかる。

信じてなきゃいけないのに、出来るはずがないという思考が支配する。


「あははははははっ、はー・・・なー、イグニス。」




故に、そういう決意が



「負けたくせに、殺されかけたのに、なに言ってんだ。」



滑稽で、仕方がない。

出来るはずがないと考えてしまうから、どうしようもなく、その言葉が哀れに見えてしまう。


「そうだ、負けた。

無様に、圧倒的にだ。」


認めよう、確かにあの時は不覚をとった。



────ああ、だからそれが?



「それで終わりか?諦めるか?

自分が終わりだと、そんなに結論づけたいか?」


煽るように言う。

イグニスもまた、頭に来ている。

一度負けても生きているなら終わりじゃない。

そんな簡単な話だろうに、なにを言っているのか。

イグニスもまた、勝手な考えと分かっていながら引く訳にはいかない。



「なら、いいよ。やってあげるよ。」



もうダメだ。

歯止めが効かない、お互いに。

コメットはネックレスを外し、アルに向けて投げ捨てる。

アルはため息をついて受け止める。


「・・・馬鹿どもめ。」


あらゆる意味で呆れてしまう。

アルは下がりに下がって、見守る。


「もう知らないよ?

また、どうせ負ける。

いいよいいよやってあげるよお前はほんとにバカな獣だよイグニス=クリムゾンおまえはこうかいするよわたしはこれでもうおしまいだここにはいられなくなるぞざまぁみろこめっとほうぷす──────あはははは!!」


嗤う、嗤う。

思い知らせてしまって、別れてしまえば。

諦めてくれる。



「───無駄とか無理とか、そんな諦めのいい言葉を俺の前で使うんじゃねぇ。」


《グラビティ!ドライブイグニッション!》


対し、イグニスは大剣を構えて真っ直ぐ見る。

さらに、紫のメモリを装填する。

自身への重力操作が、自由になる。



甘いことを考えてくれる。

諦めるはずがない。

何度だって、立ち上がってくるのがイグニス=クリムゾンだ。







──────CH-01、起動。





標的、殺がイ対ssss



→→


→→→ いぐnス=クリムぞn




任務、発令シマシタ.


対象イグニス=クリムゾン、

任務内容、対象ノ殺害。




──────実行シマス。


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