背徳の紅"最終話、刹那"




──────夢を見た。

珍しいことだ。

俺は夢を見ないタイプだったのだが。


「おっ、起きたか。」


目の前には、誰よりも愛おしい嫁がいる。

コメット=ホウプス。

一年前、鉤爪を追っていた最中での出会いから何度も衝突し、最後には結ばれた俺たち。


今ではもう、コメットの胎には俺たちが築いた命が二つもある。

俺の名前も、変わっている。

イグニス=クリムゾン=ホウプス。

随分長ったらしくなったが、特に気にはしない。


「珍しいな、お前が昼寝なんて。」

「だな、しかも夢を見るのも久しぶりだ。」


ここはもうお馴染みにになった群の施設、その休憩室。

珍しく俺はここでうたた寝していた。


「夢?どんなのだ?」

「そうだな・・・俺たちの出会いから、キャリーを殺した日までのことだ。」

「うわー、懐かしいなぁ。」


嵐のように過ぎ去った過去きのうがあって、現在いまがある。

そして、俺たちは当たり前だと思っていた未来あしたに繋げていく。

それを、再確認した夢だった。


コメットは懐かしく感じたのだろう。たった一年前なのに、昔だとやたらと感じるのだ。


「あの時は、まさかお前を好きになるなんて思わなかったなぁ。」

「お互いにそうだろう、人生分からねぇな。」


二人して苦笑する。

お互い余裕がなくて意地っぱりなもんだから、今になってみると恥ずかしささえ感じる。


「もう、後悔してないよな?なんて聞かないぞ。」

「当たり前だ、今だって言える。

誰よりも何よりも、お前を愛している。」


青臭いかもしれないが、言葉にするならやはり、こう伝えるのが一番と感じている。

愛した人と、築き上げる刹那はきっと、何にも変えられない、誰にも奪えない宝になるのだ。


お互いが顔を近づけ、口付けをした。

キャリーと戦ってようやくお互いが見つめあえた、あの日を思い出すやりとりだ。


唇を離し、お互い笑い合う。

こんな一瞬でさえ、俺たちは幸せだ。


「じゃ、仕事の後半に行くよ。いつもの時間でな。」

「ああ、また後でな。」


コメットが休憩室から出ていくのを、俺は見送る。

さて、俺も仕事だ。

久々の、仲間の救援要請だ。








─────────








「背徳の紅が、最近大人しいだと!?嘘をいえ!凄みが増しているぞ!」

「だがもう逃げられねぇ!殺れっ!殺れぇ!」


群の仲間の依頼、賊討伐。

意外に数が多いため、念の為の救援要請だったらしい。

確かに、安全にやるにこしたことはない。

それに、仲間を失うのはいつだって辛い。

それでも俺は、生きていく。


あらゆる希望も、あらゆる絶望も、刹那すべてが俺の糧だ。

俺はこれから、何があってもそうやって生きていくのだろう。


それでもいい。


《ブレイズ!ドライブイグニッション!》


現在いまをどうにかするのは、いつだって刹那いまを生きる俺たちだ。

死ぬまで、俺たちの物語は終わらない。








「さあ──────地獄を楽しみなッ!」


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