背徳の紅"第四十一話、信用"


「え、なんでお前の部屋?」


水溜まりと雨ですっかり濡れてしまった俺たち。

コメットを抱えて向かった先は、群にある俺の部屋だった。

困惑しているが構っている暇はない。

一刻も早く温める必要がある。


「着替えを貸してやる。風呂は用意してやるから着替えていろ。あとマリアに来てもらえるように連絡しておく。」


コメットを下ろし、適当にシャツとジャージを出して置く。

サイズなんて考えている暇はない。アルに貸してもらうし。

俺は返事も聞かずに出ていくことになった。








「アルから服を借りてきたぞ。

まぁ俺のを使うよりはマシだろ。」


そう言いながら俺はアルの服を持ってくる。

しかし俺はそこで見た光景でため息をつくことになる。


「おう、ありがたい。後でお礼言わなきゃな!」


分かっていたはかなりブカブカになっている服。

ズボンもずり落ち気味、そこまではまぁわかる。

・・・何故パンツが落ちている。


「・・・せめて下着は見えないようにしろ。」

「???なんで目をそらす?なんだ、見るに堪えないというのか!失礼な!」


アルの服を置きながら目をそらす。

コメットの的外れな言い分にため息が止まらない。

あまりに常識がないということが伝わっていないらしい。


「で、アルの服に着替えるか?」

「んー、でもこっちはこっちで楽なんだよなぁ。」


強制的に話題を変えても馬鹿なことをやる。

あろうことかずり落ちるようなサイズで飛び跳ねる馬鹿がいる。


「やめろ、跳ねるな。裸が見える。」

「猿と変わらんだろ。」

「お前が好きなのに猿と一緒くたにできるか。」

「・・・。」


何が原因なのかわからないが、コメットはフリーズした。

本当に理解したのか分からんが。


「・・・で、そろそろ湯が溜まるが?」

「え、俺も入るのか?」

「先に入れ、雨で体が冷えただろ。」

「俺はいいや、だいじょぶぇっくし!」

「早く行け。」


目の前でそうやってクシャミされたら行けと言うしかない。

こういう時コメットは・・・


「いやだ」


謎の意地を張るのだ。なんでだ。


「俺に脱がされて風呂に突っ込まれたいかお前」

「なんではいらなきゃいけないんだ!」

「風邪を引くだろ馬鹿野郎

もういい、行くぞ。 」


こうなったら実力行使だ。

コメットを抱えて風呂場へ歩く。


「へっ、お、おま、なにすっ???」

「風呂に無理やりぶち込む。 」

「俺はガキじゃない!!」

「なら体調管理くらいしろ。 」


言動が完全にガキのそれである。

というか叫ぶな、耳に悪い。


「・・・本当に脱がすぞ? 」

「めんどくせぇ・・・。」

「とにかく入れ。風邪でもひかれちゃ気分悪いんだよ。」

「・・・仕方ねぇ、わぁったよ。」


その返事を聞いて脱衣場でコメットを降ろす。

なるほど、説得する時はこう言えばいいのか。


「ちゃんと服は着て出てこいよ。」

「むぅ、めんどいなぁ。」


俺が脱衣場から出ると、コメットそんな事を言いながら浴室にいく音が聞こえる。

これで一安心だ。

なんやかんやで、鼻歌を歌っているようだ。







─────などと、安心しきったのが間違いだった。

鼻歌が聞こえなくなる。

それどころか、水の音さえ聞こえない。


「・・・おい。」


何があったか分からないが、脱衣場に入り呼びかける。

・・・返事はない。


「おい、コメット───」


仕方なく、風呂に突入した。

だが返事もなく、風呂に入ったコメットは顔が真っ赤で、ぐったりしている。

水面に顔が近い状態で逆上せて寝ていた。


「────馬鹿野郎!」


自分が濡れるとか構っている場合じゃない。

直ぐにコメットを風呂から出して抱える。


「・・・ぅ、あれ、ぃぐ、にす??

ちゃん、と・・・おふろ、はいれ、たよ、えら、い?」


ぼんなり、弱々しい声になりつつも目を覚ます。

こんな時に、褒められたがるのか。

今はそれどころじゃないくらい危なかったというのに。


「・・・偉いぞ、馬鹿野郎が。」


だがまぁ、入れただけでも上出来なのだろうか。

仕方なく褒めてやり、ベッドに寝かせる。

ちゃんと体を拭いてやり、服を着せてやる。


「・・・えへ。」


罵倒入りだったのに、嬉しそうに笑う。

この様子だと、マリアの迎えを頼んだはいいが暫く待った方がいいだろう。


「・・・寝てろ。」


もうすっかり、ぐてーっとしているので、さっさと寝ることを促す。


「・・・スヤァ」


寝た。

これまでで最も大人しく言うことを聞いた気がする。


「・・・世話がやけるな。」


俺は再びため息を着く。

今日はベッドでは寝れなさそうだ。









─────夜、俺は銃声で目が覚めた。


「────ッ!!」


敵襲か、だがそれはおかしい。

群のメンツでなければ、施設ここには入れないはずだ。


俺は飛び起きて、大剣でガードする。

ただの銃弾程度なら容易い。


「悪霊退散、です。

こんばんはゴリラさん。

マスターはどこですか?」

「・・・マリアか。」


ドアを貫通した先にいたのは、銃を構えたマリア。

いくら嫉妬したとはいえ物騒すぎないか。

それはそれとして、ふざけてはいられないらしい。


「ベッドだ。雨に濡れて風邪をひいたら困るから風呂に入れたら逆上せやがったから寝た。」


簡潔に事実を陳列する。

誤解されるようなことはあってはならない。

なぜならアレは殺人鬼マーダーの目だ。


「・・・何も、していませんね?」

「当たり前だ。」

「・・・ふむ、なら良しなのですよ。」


銃は下ろしてくれた。

一応言葉が通じる程度には信用してくれたらしい。


「で、どうする。迎えに来てもらったはいいが、寝ちまっているんだが・・・。」


・・・相談しようとしたら、また銃を向けられた。なんでだ。


「・・・風呂に、いれましたね?貴方のシャンプーの匂いがして、ますたのシャンプーの匂いがしません。

ますたから貴方のシャンプーの匂い。そういうことで、しんでくだs」

「仕方ねぇだろ。雨に濡れて冷えた身体を放置しろと?」


流石に抗議した。

そんな事で殺されてたまるか。


「・・・なら仕方ないですね、放置したら本当にころ───いや、なんでもないです。」


納得したようで銃をしまった。

俺は思った。

これは何イビリなのだろうか。


「・・・気持ちよさそうにしているので、今日は帰ります。」

「わかった。明日、迎えに来てくれればいい、手間をかけたな。」


マリアは部屋を覗き込んで、コメットの様子を見てから踵を返す。

迎えは明日に変更。その方がお互いに楽だろう。


「いえ、マスターをお願いしますね。

変なことしたら








──────その目玉を抉り出して、豚の餌にしますから。」








「・・・おう。」


マリアは去っていった。

あの英雄レイゴルトとは別ベクトルの悪寒を感じた。

実は強いんじゃないだろうな。



とはいえ、だ。

言葉が通じて、なおかつお願いもされた。

今はその程度には信用してくれた、と思ってもいいだろう。


俺は再び椅子で目を瞑る。

穴だらけの扉は、明日には跡もなく修復されていた。

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