背徳の紅"第四十話、相合"



雨の日、俺はとある街を歩いた。

大きめの傘は、荷物を濡らさないように。

買い出しを終えた俺は、なんとなく寄り道していた。


立ち並ぶ店。

様々な店はあるが、どれも興味も湧かず、素通りする。



「・・・ん?」



ただ困ったことに、無視できないものを見つけてしまった。

それは、とある店の前で困ったように立ち往生しているだれか。

その手には傘がない。

こちらが見つけたら、向こうも俺に気づいた。


「・・・ぁ、ようイグニス。買い出しか?」


無視できない誰か、それはコメットだった。

俺はコメットの方に向かいながら返事をする。


「ま、そんな所だ。

・・・傘、忘れたんだな。」

「おう、まぁそんなところだな。」


コメットの片手にはお菓子の入った袋とパン屋の袋。

なるほど、どう見てもコメットの好物が山盛りだ。

まぁそれはそれとして。


「入れ、帰るぞ。」

「おっ、いいのか、何にも出ないぞ?これは俺の主食だからな!」


傘を寄せてやると、コメットは袋を振り回しながら寄ってくる。

食べ物が入った袋を振り回すな。









「それにしてもこんなに降るとはなぁ。

他にも行きたいとこあったのに。」


歩きながら、コメットはため息をついた。

行きたい場所があったところに雨、なるほどそりゃ誰だって萎える。


「連れて行ってやろうか?」

「ぇ、いいのか?こんな雨なんだから帰りたいだろ?」

「構わん。今日はもう用事はねぇ。」


事実寄り道していたくらいだ。

コメットを助ける意味でも、暇つぶしでもちょうど良かった。


「じゃあ頼むよ。」


俺の好意に応えたコメットは、道案内し始めた。

そんなに急ぎでもないので、そこまで辿り着くのは容易だった。











アクセサリー店での買い物も終わり、再び二人で歩く。

もう他に寄るところも無いので、今は帰路だ。


「菓子が好きなのは分かっていたが、アクセサリーも好きなんだな。」

「というか、お客がそういうお守りを欲しがることがあってね、宝石の護符とかさ。

だから、それを取り付ける金属の奴が欲しかったんだ。」

「ああ、そういう事か。」

「今回は指輪だったよー。」


他愛もない会話をしている最中、俺はふとあるキーワードに思考が傾いた。


「指輪、か。」

「・・・?どした??」

「結婚指輪を連想しただけだ。というか他に知らん。」

「お守りとかに使われたりするかな。どっちのどの指に嵌めると、どんな効果があるとか。」

「・・・そうか、気にしたことがなかったな。」


知らない知識もまだまだある。

神頼みか、或いは願掛けか。そういう類は尽くスルーしたから、お守り絡みは尚更だ。


「ははっ、なんだ、付けたくなったのか?」


ケラケラと笑うコメット。

なるほど、俺が指輪で気になった内容までは分からないらしい。

なれば言ってやろう。


「・・・俺とお前で、お互いに左手の薬指にな。」





「・・・ほぉ!?」


言ってやるとコメットが間抜けた声で止まった。

勿論、あわせて止まってやる。

・・・言ってみたはいいが、少しばかり恥ずかしい気分になる。



「お、おまっ、あ、あ、なに、にゃっ、う、はっ、ほ、ぁ、う、ぁ」

「いや、悪かった。

んだが、急だったな。」


相手はもっと顔が赤かった。

そう、

だからこんな事を言う訳だが。


「にゃ、そ、だっ、ふぇ?!まっ、あのっ。」

「待て、下がるな。濡れるぞ。」


コメットは真っ赤になりながら、後ろへ後ずさる。

普段ならまだいいが、今は相合傘だ。

離れては濡れてしまうので、俺はコメットを追う。

だが・・・。


「ぉ、おう、すま・・・ぎゃっ!」


・・・コメットはつまづいて尻もちをついた。

しかも、あろう事か水たまりに直接である。


「・・・悪い。」


これには流石に俺にも原因がある。

手を差し伸べてやると、直ぐにコメットは手を握る。


・・・すると何か思いついたような顔をしてニヤけるコメット。

不味い、と思ったが遅かった。


「よっこい。」

「ッ!?」


この馬鹿は、思い切り引っ張った。

備えられなかった俺は、傘を手放して膝をつき、手を地面について水たまりの水が跳ねて濡れてしまう。


「あっははははは!!お前も濡れてやんの!!あっはははははは!!ははは、はは、は────ぁ・・・。」


してやったり、という大爆笑。

からの、状況を理解してのフリーズ。

それもそのはず、意図せず俺がコメットを覆い被さる形になった。


・・・なんだこれ。

この空気もだが、お互いに濡れてしまった。

これでは安全に帰るのも無理である。

導き出された回答は実にシンプルだった。


「許せ・・・!」

「─────。」


それだけ言って傘を畳み、コメットを姫抱きする。

これは結構楽にやれるから仕方ない。


コメットはもう思考停止したのか、何も言わない。

俺は無言は肯定と見なして、身体強化を使いコメットを抱えて、群まで帰ることになった。




「〜〜〜っ!!」


帰った頃には混乱が解けていたコメット。

その際、恥ずかしさから顔を手で隠していたことを追記しておく。

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