背徳の紅"第三十八話、飯時"
研究室にて、それは起こった。
「ごはんたべてください!!ますた!!!」
最近群の施設に出入り出来るようになったマリアの声が廊下まで響いてきた。
そろそろ飯時だがちゃんと食ってるだろうか、と思ったが、やはり根っこは変わらないらしい。
「・・・やはり食ってないんだな。」
「ぁ・・・」
研究室を覗くと、そこには俺から距離を取るマリアと、栄養補助食を食ってるコメットがいた。
あまりに想像出来る光景だった為にため息が出る。
「なんだそのため息!ほら食ってるだろ!カロリーm────いででででで!?なぁにすんらぉ!!」
ドヤ顔で見せつけて来るものだから妙にイラッときて、ついコメットの頬を抓ってしまう。
コメットは抵抗して俺の腕を掴む。
とはいえ、これでは連れて行けない。
「今すぐ食堂に行くぞ。」
「うぉあっ!?はっ、離せ!!おろせこらぁあああ!!」
手をパッと離して、すぐさまコメットを肩に担ぐ。
前に抱えた時もそうだが軽い。
妙な声を挙げたコメットは案の定、じたばたと抵抗するが、無視である。
・・・と、そうしているウチに視線を感じた。
この場にいるのはマリアくらいしかいない。
「・・・・・むー。」
「・・・なんだ。」
案の定マリアだった。
しかも睨まれている。
一応声をかけてみたが、暫く反応はなく・・・。
「・・・マスターはマリアのです!!ぜーったい、マリアのですー!!」
「おーろーせー!!」
マリアは叫んで研究室から飛び出して行った。
悪いが俺のものだぞ、と無意味な対抗意識を自覚するとコメットがまだ叫んでいることに気づいた。
それはそれとして。
「じゃ、行くぞ。」
「じゃ、行くぞ。
じゃっなあああい!!飯はいらんのじゃあああああああ!!!」
「喧しい耳元で怒鳴るな。」
耳元で最大限で叫ぶものだから耳が痛い。
とはいえ逃がす訳にはいかないので食堂まで行った。
─────────
「・・・ふんっ」
「いや、座れ。」
「ふんぐぐぐぐっ!」
「抵抗するな。」
食堂にて。
椅子に下ろしてみたが、椅子に足をつけて立とうとする。
次いで無理やり座らせると上に立ち上がろうとするので抑えた。
残念ながらもう注文済みだ。
コメットには甘口カレー。
俺には中辛大盛りカレー。
机に置かれ、お互いにお冷がある。
「おまえのかねだろおまえがくえー。」
棒読みで最もらしいことを言うが、その言い分は一切聞き入れない。
「甘い方が好きだろう。お前が食え。」
「・・・なんで食わせる。さっき食ってたの見ただろう。」
コメットは渋々ちゃんと座り、スプーンを握る。どうやら観念したらしい。
「・・・あちっ」
だが、食べてみたようだが、小さく呟いて舌先でスプーンに乗ったカレーをつついて暑さを確かめながら食べる。
遅いしチビチビ食べる、まるで子猫だ。
なるほどそうか、熱いのか。
熱いのは分かるがそんなにか・・・と。
頭で考えるとふと、ひとつ発見した。
「─────お前、猫舌だろう。」
つい、直球で言ってしまった。
コメットはスプーンを持ったまま、零すこともなくフリーズした。
なるほど、食いたがらない理由ではないかもしれないが、食べずらかっただろう。
「・・・悪かった。」
罪悪感から頭を下げた。
今度は食べやすい状態にしてやろう。
ハッとして我にかえったコメットは慌て始める。
「そ、そんなことない!誰が猫だ!!頑張ればいける!!」
何を意地になったのか、コメットは少し多めに持って食べ・・・て。
「おい馬鹿野郎!そんなに食ったら────」
「んーーー!!ぉあっ、お、あーー!あーーー!!!」
案の定、口をあけて熱がっている。
こうなったら拷問にも等しい。
やってることがバカのそれだが、流石に哀れである。
自分のお冷をコメットに寄せてやる。
だがコメットは意地を張っているのか、首を横に振っている。
とりあえず寄せたままにはしているが、結局さっき口に入れたぶんは涙目になりながら食べてしまった。
「・・・飲め、水分補給にもなるだろ。」
「いや、じゃ・・・」
「まだカレーあるだろ、キツイぞ水が無いと。」
「大丈夫・・・。」
口が効けるようになっても、このザマだ。
どうやったら飲んでくれるのやら。
何やかんや、冷ましながら食ってるのはいいが、些か心配にもなろう話だ。
「・・・好きだとか、救いたいだとか、こうして飯を食わせたりとか。
なんで俺なんだ。お前、変なやつだ。」
コメットが半分食べ終わった頃、唐突に言い出した。
それに何と答えたらいいのか、少し考えてみる。
「お前だから────では、不満だろうな。
理由が在るとすれば、お前の在り方で俺は救われたが、同時に見ていられなかった。
理由というよりは、キッカケだな。」
あくまで、強いて言うなら。
そんな答えに、コメットはふぅん、と返す。
分かっているのか、分かっていないのか。
・・・さて、食べ終わったのはいいのだが、結局お冷に手を出していない。
何故だ、普通喉が乾いたり口の中流したくなるんじゃないのか、そういうのは。
それとも冷たすぎるのが嫌なのか、氷の入ってない麦茶をだしてやった。
「なんだ、お前そんなに飲んだら頻尿になるぞ?
まぁお前でかいからそれくらい飲むのか、気にすんな、飲んでもいいぞ?」
お前の為に用意したんだろうが、と内心イラってしたが我慢である。
「お前が飲め、水分補給してないだろ。」 「なんで??ご飯にも水分入ってるし、補助食品にもゼリーがだな??」
「固形物を含むのは水分補給とは言わん。」
「えーーーー、そう言われましても」
「無理矢理飲まされてぇか。」
「俺は鳩じゃないぞ?」
こいつ・・・。
こんなに頑固なのは素だったのか。
てっきり首輪のせいかと思ったが。
─────仕方ない。
考えに考えた末、俺は考えるのをやめた。
というか、決意した。
この傍若無人のわからず屋をわからせてやろう。
俺はコップを持ち、コメットの顎を指で固定。
「なんだ、コップごと突っ込む気か。
絶対飲まんぞ、このくそゴリラ。」
中指を綺麗に立てる。
好きなだけ言うがいい、俺がこうして捉えた以上はもう、コチラのモンだ。
俺の口に麦茶を一口含む、そして─────
「?おまえがの────────」
─────コメットの唇に俺の唇を重ね、麦茶を流し込み始めた。
「─────!?!?!?!?!?」
コメットは抵抗しない、いや出来ない。
なればこそ。
丁寧に
少しづつ
溢れないように流し込む。
喉に当たれば飲み込むだろう、心配いらない。
だから────後は信じて適度に流し込む。
・・・思えばこれが初めてだったが。
・・・いいか、責任は取るんだし。
「─────」
たったひと口だが飲ませることに成功した。
一方でコメットは、湯気を頭から出している。
不意打ちはかなり効いたらしい、ざまぁみろ。
「・・・ぅう。」
コメットはついに気絶してしまい、身体が傾く。
仕方なく、俺は支えてやることにした。
コメットと俺が同じ食事をするのは、これで二度目だが、またしても愉快な展開になった。
さて、起きたらどんな変化があるのだろうか。
俺は楽しみを覚えつつ、片付けをしてやるのだった。
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