背徳の紅"第三十七話、解放"


医務室に運んで数時間後のことだった。

ベッドで寝ているコメットは、安心しきっているような顔だ。

返事は聞けてないが、やったことは間違いでないことを実感させられる。


とはいえ、これからどう関わっていくことになるのか。

不安もあるが、楽しみでもある。

生きる意味がもう、復讐に割かれることはないせいか、多少気分が浮かれているのかもしれない。


「んん、ぅ・・・」

「む。」


そうこう考え込んでいる内に、どうやら起きたらしい。

寝起きの頭が痛いのか抑えて、次に首に触れる。

どうもまだ夢心地らしいので、目を覚まさせてやろう。


「起きたか。」


その一言でぴたり、とコメットは固まった。

そして・・・。


「・・・・・・。」


・・・この馬鹿はもう一度寝ようとしている。

俺はすかさず、頭をがしぃ、と片手で掴んだ。

この位のサイズなら掴むのは容易だ。


「いだいいだいいだいいだいいだい!!

リアルな夢なんだけど!!」


途端にうるさくなった。

しかもまだ夢だと思っているらしい。


「次は現実逃避か。

ならもう一度、同じように言ってやろうか?」

「ほう、お前が言えるのか!!ぉおおん!?!?」


テンションが高めだ。

あの首輪は余程、感情を押さえ込んでいたらしい。

しかもなんか煽ってきた。

だが甘い、こちらの想いはとっくに迷いは無いのだ。


「お前が好きだ。」

「・・・ぁ、おま、まじ、ほんっと、その、さ、いや、もう嘘だろ・・・ほ、そのすっ、す、そのあっ」


直球で伝えたところ、コメットが面白いくらいワタワタして言葉が言葉になってない。

なんだコイツ面白いな。

痛くはしないが加虐心が唆られる。


「で、俺はまだ答えを聞いちゃいないんだが。」


つい、知ったことじゃないと言わんばかりに追撃してしまう。


「お、おれはっ、どういえばいいのかわからんっ・・・だって、わ、わたし、その、こういうのはよく分からないし、それに、その・・・あ、愛とかよく、その・・・」


コメットがそう言いながら目線が下に下がっていく。

言いきれてはないが、今の気持ちの大体は伝わった。


「それが聞けただけで構わん。少なくとも、お前が俺の言葉を受け止めようとした証拠だ。」


今はそのくらいでいいだろう。

俺は手をぽん、とコメットの頭に置く。


「────っ」


びくぅ、とコメットが反応する。

押し寄せてきた感情に混乱して、更に俺が触れたことでびっくりしたのだろう。

思わず、小動物のようだなと笑みを浮かべてしまう。


「わ、笑うなぁ!このゴリラ!」

「誰がゴリラだ。」


聞き捨てならない。

確かに力に自信はあるが、流石にそれは如何なものか。








余談だが、この時を以て俺へのゴリラ呼びが定着した瞬間だった。


閑話休題。








「・・・。」

「ぴぃっ。」


俺が無言で再びコメットの頭を掴む。

何か愉快な声をあげた。

感情豊かになるとこんなに面白くなるのか。


「・・・そのまま持ち上げられそうだな。」

「やめい、首がもげるだろクソゴリラ」


呼び方が悪化した。

思ったことを言ったらこのザマだ。

とはいえ埒が明かないので、手は離してやった。


「ふぅ、で、なんでここにいる。」

「今更かよ。お前が気絶したから、医務室ここに運んだんだろうが。」


コンマ数秒で突っ込んだ。

もっと早く聞くべきだろう、それは。

とりあえず説明してやると、コメットは自分の首に触れた。

これまで当たり前のようにあったはずの首輪はもうない。

夢ではないことを再確認出来たことだろう。


「・・・まさか、外して来るようなやつが居るとは。絶対にないと思ってたからこそ、あの装置をつけたのに。」

「・・・そうかよ。」


コメットは苦笑しつつ、表情はどこかやっと救われたかのようだった。

それにあわせて、俺も思わず笑ってしまう。


「まぁ、せいぜい俺という厄介者をなんとかしていくこったな。

お前のせいなんだからな、この枷が外れたのは。」

「当然だ、俺が責任を取る。」


当たり前だ。

何度も言うが、もう迷いは無い。

俺がどうにかしなきゃ、誰がやるという。


「どうなっても知らんからなばーか!」


んべー、と舌を出すコメット。

つくづく豊かで、また笑みを浮かべてしまう。








今日のところは、コメットはもう少し安静という事が決定し、解散することになった。


そういえば、今日の最後の方の会話を思い出す。

ちゃんとした返事は貰えなかったが、あの言い方は・・・





「実質OK、てことじゃないか?」







一応、自分の良心が働いて保留と捉えることにした。

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