背徳の紅"第三十一話、死闘"
「お前ッ、お前ぇええッ!!」
森の中で、矢と刃が飛び交った。
少年とはいえ、相手は獣。
眼前の獲物を取り上げられた獣だ。
「パラケリアァアアッ!!」
「あ、やっぱわかっちゃった!?」
アルはすっとぼけたかのように言う。
バレるのを分かってたとはいえ少しは誤魔化したかった。
とはいえ────
「やっぱりバチギレじゃねぇか怖いわ!」
怖いもんは怖い。
こんな荒事は無かった訳では無いが、決着をつけなきゃいけないなんて初めてだ。
苛烈になっていく矢の早打ち。
森という地形の関係上、木々が矢を防いでくれるおかげで躱すだけならなんとかなる。
が、体力も機動力も腕前も向こうが上。
躱すのも限界が来るだろう。
「逃げるなァァァ!!」
「っと!そんな熱烈で狂気的な求愛行動されたらお姉さん困っちゃう、だろ!」
それを証拠に、アルにはかすり傷が増えていく。
だが決定打が出せない。
サーズデイは怒りつつも、更に苛立ちも増していく。
アレはかつて、
「鉤爪様の抱擁を拒んだ癖に今更ァァァ!」
「えー、メルヘン趣味のオッサンの求愛はちょっと」
「────殺すゥウウ!!」
怒りも苛立ちも頂点。
もうアルには反撃する余裕はない。
サーズデイは矢をいくつも束ねて、真上に射る。
それは全て雨のようにアルに向けて降り注ぐ。
今までと比べて比べ物にならない弾幕。
「・・・痛そうだ。」
回避は無理だと判断し、呟いた瞬間。
「────ッ!!」
足に一つの矢が貫通する。
痛みに顔を歪め、ついに膝をつく。
「今度、こそ・・・・!!」
サーズデイは矢を一つ番え、アルに向ける。
絶体絶命。
最初から勝ち目はない。
それでもアルは、笑みを絶やさない。
それどころか、この状況で先程よりも不敵に笑っていた。
──────────
大広間にて、剣戟は続く。
踏み出す度に抉れる床。
金属音と云うには重すぎる衝突音。
そしてなにより、その音は実際の衝突から遅れてやってくると思われるほど目まぐるしい。
月光を宿した大剣
不滅の黄金剣
あの豪雨の戦いより遥かに、苛烈にぶつかり合う。
容赦はない。
相手に想うところを感じる暇などない。
彼らは敵だ。
決して相容れない願いを込めた戦士たちだ。
お互いに引かず、力を込めた斬撃が重なる。
大地が揺れるかのようなそれは地震すら思わせる。
「ふんっ・・・!」
「ちィ・・・!」
ほんの少し、距離が出来た。
ここもまた、レイゴルトの間合い。
黄金の魔力光を剣先から放つ。
「うぜぇ、んだよ・・・!」
大きく大剣で魔力光を叩き切る。
散った光は、イグニスの後ろや横の壁に当たる。
壁も床も穿ち、ガラスに当たれば砕け散る。
ガラスは散らばりながら床に落ちる。
イグニスを中心にガラスは散った。
そんな事は意に返さない。
決着がつくまで、互いは互いを見ている。
「・・・イグニス=クリムゾン。
背徳の紅、か。」
つくづく、不屈。
復讐だけに染まった眼ではない。
豪雨での戦いとは違い、生きる覚悟を背負っている。
あの覚悟、長らく見ていなかった。
「・・・お前に逢えたことは、幸運だったのかもしれないな。」
独り言のように呟く。
さあ感傷は終わりだ。
あれを仕留めるなら、前回以上の決死の覚悟を抱かなければならない。
「────ッ!」
イグニスが感じた悪寒は頂点に達した。
ここまでは前座に過ぎない。
空気はより、張り詰める。
死を感じさせる覇気、あれこそが────
「─────
────
決定した事から逃げない。
どれだけ地獄が待っていようと突き進む。
後悔はただ一つ、救えなかった友が居たこと。
だからこそ止まらない。
何があっても何もかも背負い前進する。
「お前の覚悟は受け取った。
─────だが、"勝つ"のは俺だ。」
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