背徳の紅"第二十九話、過去"
「・・・此処か。」
白辰にしては珍しく、森になっている地。
偶然ではなく、必然に。
この場所にイグニスは訪れた。
こうなったの原因は、二日前に遡る。
────────
「君宛だ。」
「俺のだと?なんでお前が持ってんだ。」
情報交換の為に、イグニスはピースの家に訪れていた。
そこでピースはイグニスに手紙を差し出した。
そこにはしっかり、"イグニス=クリムゾンへ"と書かれていた。
「君の壊れていた実家にあったらしい。
そして君の従兄弟が回収し、友人だからという理由で私に押し付けられた、というわけさ。」
「はた迷惑な話だ。
・・・で、誰からだ。」
事情を聴きながら受け取ったイグニスはため息が止まらない。
しかも誰からかも分からない。
ピースに聞いても首を横に振るばかりだ。
「調べたが呪いの類は見られない。君宛てだ、君が開くといい。」
「・・・しゃあねぇな。」
渋々と、イグニスは手紙の封を開く。
どうせロクな代物じゃないんだろう。
そう思っていた。
「─────ハッ。」
笑う。
何がロクでもない、だ。
最高の吉報だ。
「・・・鉤爪、かな?」
狂笑を浮かべてしまったイグニス。
それを見た瞬間、事情を知るピースは苦笑しながら言う。
ご名答だ。
イグニスがこんな表情を浮かべる相手は、一人しかいない。
「アジトの地図つきの招待状だ。
野郎、誘ってやがる。」
そう言いながら立ち上がる。
もうイグニスがやるべきことは決まっている。
「・・・行くのかい?」
「当たり前だ。この手で始末する。」
これまで、その為に積み重ねて来たのだ。
総ての精算をそこで終える。
終えなければ、先に進めない。
「・・・生きて、帰ってくるんだ。」
「ああ。」
大剣を背負い、家を出るイグニス。
その背を、ピースはただ見送るしかなかった。
─────────
時は現在。
レイゴルト、洗礼名を
場所は大広間。
鉤爪のアジト、一味の全てが集う場所。
地下なのは違いないが、かなり明るい場所。
ステンドグラスに壁の上側は張り巡らされ、床は様々な色に淡く色づいている。
しかし、いつもなら誰もが集い、語らう場。
そこにはレイゴルトしか居なかった。
この状況は意図的なモノ。
レイゴルトは目を閉じて待つ。
もう既に、自分の分身である剣を手にしたまま。
まだ、時間はある。
レイゴルトは
レイゴルトの産まれは、帝国ではなく、白辰。
幼い頃から優秀だった彼は、周りに頼りにされていた。
だが、友人らしい友人は、たった1人しか居なかった。
その友人の名を、"カルロット=クロウ=ユニヴァース"。
カルロットは大柄ながらも、心優しい性格だった。
力持ちだった、頭もさほど悪くない。
底抜けに優しくて、誰にも暴力など、振るわなかった。
幼い頃、レイゴルトとカルロットは約束した。
"一緒に平和な世界を作ろう"
レイゴルトの頭脳、そして力。
カルロットの優しさ、決意。
いつか、いつか遠い日に、果たされると信じていた。
だが、それは脆く崩れ去る。
その優しさ、決して振るわない暴力は、時として仇となる。
カルロットは正にその犠牲者だった。
簡単なこと。カルロットは周りから虐められた。
半ば、警察沙汰になるようなことも。
それでも反撃しないカルロットを、レイゴルトは助けようとした。
止めても止めても終わらない暴力。
そして─────
"レイゴルト、お前は帝国軍で働いてくれ。
その力を育てれば必ず、
父にそう告げられ、レイゴルトは白辰から離れることになってしまった。
いじめられたままの友を、置いていったまま。
それから、レイゴルトが23歳になった頃。
幼い頃の友とは、まるで連絡が付かなかった。
そして、帝国軍の人間からの裏切り。
消息不明になったレイゴルト。
生きてはいたが、もう死んだ扱いである彼が出逢ったのは────
"懐かしい顔ですね。ええ、貴方の力が欲しかった。"
変わり果て、壊れた友がいた。
かつての夢を、歪んだ形で叶える。
そして、共に果たす約束は、無意識内にあっただけで、本質を忘れていた。
つまりもう。
レイゴルト=E=マキシアルティは手駒でしかない。
「・・・それでも俺は、背負うと決めた。」
それでも、もう死んだも同然だった自分がやれることはない。
せめて、やれることがあるとしたら。
かつての友、鉤爪であるカルロットを救えなかった罪を償うのみ。
「────来るがいい。」
きっと、あの男は来る。
"出迎えて、全力で戦いなさい"
友の頼みを背に乗せて、レイゴルトはただ待っていた。
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