背徳の紅"第十六話、指摘"



────男の話をしよう。


産まれた時から、視界に映る総ては本だった。

生涯に価値を見いだせない。

生きていることそのものは有象無象。

惰性があればそれは死んでいるものとして捉えていた。


男は奔走した。

生とは何か、その意味を求めて。

あらゆる紛争地帯で、屠られるだけの弱者を助けてきた。

争いの中で、生を見いだすと決めた。


それも意味をもたなかった。

生を見出す意味を諦めた。

死んでいるも同然の生でも構わない。

せめて誰も傷つかない世界を目指そう。


その傍ら、"例外"を見つけた。

炎の体現者、背徳の紅。

いつしか友になった男は、それをようやく"人"として見た。

ならば、せめて私は─────。




─────────




「ふむ、そうか。

それは良かった。ようやく、しっぽが掴めたのか。」

「ああ、つっても・・・でかい課題は残ったままだがな。」


とある家に、イグニスは立ち寄っていた。

ピース=トゥワイド。

彼の、数少ない友人である。

灰色の髪で白衣の男性。

イグニスとは対照的に、かなり落ち着いた風貌だ。


「久々だってのにロクな土産もなくて悪いな。」

「構わないさ。君が生きていて、かつ成果があっただけでも。

なにより、君には大きな変化があったらしい。」

「変化だと?」


ピースの言葉にイグニスは疑問符を浮かべ眉を顰める。


「なに、言わなくても。君は君でいい。」

「・・・相変わらず煙に巻く野郎だな。」


数少ない友人故か、そうは反応しつつも特に追求もしなかった。


「・・・私はね、争いは嫌いだ。

君のことは買ってるが、復讐が良い物とは思っていない。」


ピースは目を瞑りながら言う。

それに対してイグニスは少しため息をする。


「今更何だよ。んな親身になっておいて。」


意味が分からん、と付け足すイグニスにピースは苦笑した。


「確かに。だが、いま君からは復讐以外の何か大事なモノを見つけたようだ。」

「・・・。」

「自覚は、芽生えつつあるようだね。」


イグニスはピースの指摘に黙り込む。

だがピースにとっては回答の必要は無い。


「だが、これだけは言える。」

「・・・何をだ。」


ピースは目を開き、微笑んで言った。


「目的がなんであれ、諦めないのは何より君の魅力だろう?」

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