背徳の紅"第十四話、帰省"

アルが折れた剣を解体し、にらめっこしている。

イグニスがその様子を見に来た。

レイゴルトとの戦いで、折れた大剣"ブレイズ・ディザスター"の改良を頼んだのだが、どうも上手くいかないらしい。


「・・・私がやれる限りのことはしたからなぁ。これ以上が中々思いつかん。」

「・・・そうか。 」


イグニスは"とある場所"が思い浮かぶ。

しかし、どうも気乗りはしなかった。

一度は追い出され、それから疎遠になった地なのだから。


「・・・イグニス、そろそろじゃないか?」


アルも察していた。

イグニスが行きたがらない場所は、名の売れた、とある剣士が居る地。


「今のままじゃ、その英雄とやらに勝てないんじゃないか?」

「・・・。」


何も言い返せなかった。

今の自分では、まるで足りない。

復讐を果たすにしては、あの壁を超えなければならない。


「・・・仕方ねぇ、行くか。」


その為なら、いまの行きたくない気分を、叩き潰してでも行くしかない。


「老いて死んでなきゃいいな。 」

「笑えねぇ、勘弁しろ。」


支度しにいくイグニスを見送りながら、アルは軽口を叩き、イグニスは苦笑しつつその場から離れた。


────────




「・・・おい、なんだその荷物。

夜逃げか、ホルストに言いつけんぞ。」

「ちげぇよ、里帰りだ。

というかだな、他所に暫く遠出するならこんなもんだ。」

「へえ、どこまで?」


夜、中庭に降りて荷物を背負ったところをコメットに見つかった。

あんまりな言い草にイグニスはため息をついて答える。

コメットは欠伸をしながら聞き、ポケットからお菓子を取り出そうとする。

こんな時にまたお菓子かよ、とイグニスは内心突っ込む。


「白辰だ。師匠に会いに行く。」

「─────。」


白辰、というワードが出た瞬間。

コメットはポケットからぽろり、と飴を落として固まる。

その様子が不可解だったイグニスは眉を潜める。


「・・・なんだよ。」

「い、いや。ちょっとな。

・・・気をつけて行けよ。」


はっ、とした顔で慌てて言いながらコメットを、イグニスはため息をつく。

白辰は、まぁあんな場所だし。

心配でもしたのだろう、と仮定する。


「治安がクソなのはガキの頃から身に染みている、安心しろ。」


しかし、それを聞いても、どこか目線は逸らして不安げな様子が隠せてない。

こいつ白辰で何かあったのか、とイグニスは考えた。

何があっても可笑しくない地であることは否定しないが・・・。


「あ、待て・・・。」


もう行こうとするイグニスに、慌ててコメットは止める。


「・・・帰ったら、1回来い。まっすぐだ。

あと、変なやつらには捕まるなよ。

それに、無茶苦茶に何かに首を突っ込んだり、変に目立つな、それから─────」

「待て、わかっている。

・・・可笑しいぞお前、何かあったのか?」

「っ、ぁ、いやっ。ただほらーっ。お前が負傷したらまた治癒するの大変だから。」


やけに喋るコメットにイグニスは思わず止める。

何かあったとしか思えないくらい、動揺している。

さっき落とした飴を食べようとしたくらいだ。もうしまったが。


とにかく今はかなり心配しているようで、まぁそれも悪くないかと思いながら、苦笑する。


「・・・大変なのはわかって貰えたようでなによりだ。」


皮肉を言いながら、通りすがりに頭をぽん、として通り過ぎる。

やはりというか、その皮肉にも反応はない。


「・・・とりあえず、捕まるなよ。変なやつらには。」

「・・・わかっている。」


念を押して言うコメットに、また返事をする。

気になるが、今はそれどころじゃない。

まさか、あの場所まで変なことには巻き込まれちゃいないだろう、と信じながらイグニスはコメットと別れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る